ビネスト公国にご挨拶
好きに弄っていいわよ?
いや、そんなこと急に言われましても。
ラウバイは僕になんの興味も無さそう。付き合う気もないだろうし、性的な興味もないだろう。
それに対して「ご褒美で身体弄ってもいい」と言われましても。
いや、おっぱいは触りたいけど。
「顔は赤くなるけど、手は出さずと。まあいきなり言われても困るわよね」
その瞬間、ラウバイは僕の手を掴んで
「わっ!!!」
ぷにっ。
自分の胸に僕の手を押し付ける。
柔らかい。
「後でムラムラしたら呼び出していいわよ。奉仕してあげる。ハンローゼとくっつくのは私にとってとても利があるの。遠慮なくどうぞ?」
利。
ラウバイはグラドニアという強国の貴族。
同じ国出身のロミスニアとくっつくのを止めるまでは分かる。
ラウバイとロミスニアの家はライバル関係と言われれば納得もする。
ただ、何故ハンローゼなのか。
他の娘は脅威になるって言ってたけど、地図で見ると、ラウバイのグラドニア公国と、メルィのマリネス公国やイレフルードのメタ公国とは離れている。
ルーフェは隣国エネビット公国だから理由は分かる。
でもこの二人は分からない。
「ラウバイもなぁ」
態度が分からない。
だって、親に言われたからロミスニアの妨害してると言っているけど、情熱的には、ロミスニア以外なら誰でもいい! ではなく、ハンローゼにしなさい、という圧の方が大きい。
「興味なさそうな僕に身体捧げてもいいとか言うぐらいだし。なんかありそう」
警戒はした方がいい。でも
「……柔らかい」
おっぱいは柔らかかったです。
学園に話をする。学園は基本的には休みはなく故郷に帰ることはない。
でも理由があれば許可される。
「ええ。構いません。ハンローゼの両親からは転移石も頂いています。あなたにとって行き先を決めるのは大切なこと。存分に話を聞いてらしてください」
僕がビネスト公国に行くという話はすぐに学園に知れ渡った。
「見学だから」
「じゃあうちにも来てくれるの?」
不安そうなルーフェ。
「うん。僕からもお願いしようかと思って。見てからじゃないと判断出来ないから」
「そうね、そうよね。ちゃんと国に話をするから」
イレフルードとロミスニアも来て、うちにも来てくれるのか? と言われたので頷く。
メルィのマリネス公国は……怖いのでパス。
ハンローゼと一緒に転移石でビネスト公国に到着。
「……うわ」
これでも僕は宿屋の息子である。
大都会は知らないが、そこそこの規模の街に住んでいて、旅人から色んな話は聞いていた。
そのあたりを見た上で、ビネスト公国は本当に小さい国だった。
街の規模はそれなりに大きい。
国土が狭い。
それと貧しさは感じないけれど、王都としての華やかさはあんまりない。
「こっち、こっち」
故郷に帰ってきて嬉しいのか、ハンローゼはにこにこしながら、僕の手を引っ張って進む。
こっちって、城の位置は見ればわかるんですが。
城も小さい。
イメージと全然違うけれど、みんな楽しそうに笑っていて、国として苦労している感じはない。
「ハンローゼ様!!!」
入口に大きな男の人が待っていた。
「ただいま、ルグ」
「はい! お帰りなさいませ! そちらが魔法媒体のカイル殿ですな! ようこそビネスト公国へ! お疲れでしょう。案内やご挨拶の前に部屋を用意しています。まずはそちらに!」
ハンローゼ見ていてびっくりすること。
ものすごーーーーいコミュニケーションに難はあるのに、こういう段取りはしっかり出来ているあたり。
単なる他国の町民が来るだけなのに、わざわざ城の入口に人を待たせて世話を指示している。
転移石で移動したところから王都までも馬車が用意されていた。
他の女の子達は多分ここまで手配出来ない気がする。まず僕の為に王宮に部屋を手配なんてしないと思うよ、普通。
部屋は立派。王族の娘の招待だからか。
「カイル、挨拶大丈夫?」
「うん。するよー」
言うほど疲れてないし。
すると、部屋に立派な衣装を着た夫婦が入ってくる。
ハンローゼのご両親だろう。
「はじめまして、ライド公国、ハルミナの街にある宿屋の息子カイルといいます。他名はありません」
他名というのは、貴族なら三名。功績のある国民なら二名が許される。
僕は一名で、身分がそうでもない普通の民ですよー、という名乗り。
そこから、ご両親のながーーーーい名乗りが始まる。僕みたいなのは国名、地名、職業、名前ぐらいなんだけど
「エネビット公国建国において活躍した初代の王ラウド・ブレアラ・チューレス・ガランは、荒野として広がっていたこの地方に開拓を……」
家の歴史が始まりました。
そして王族なので、国の歴史もです。
このあたりは事前に聞いてたんだよね。ハンローゼもちゃんとこのあたりの名乗りは暗記していたのだ。
家の名乗りにおける歴史の解説って、王族や貴族では必須らしい。
でもここを端折るわけにはいかない。
なので、ハンローゼと手配してくれたおじさんは、僕を部屋に案内して、ゆっくり寛げる場所で水でも飲みながら聞いてね、としてくれている。
有り難いです。
長時間聞いた後に
「わざわざこのように様々手配頂き本当にありがとうございます。それで、ハンローゼからは聞いてはいたのですが……」
「ええ。書面に纏めました。こちらをどうぞ」
書面。
契約書みたいなやつ。普通こんなの作らないけれど。
中を見ると、条件が分かりやすく並べてあった。
事前に聞いていた条件と殆ど変わらない。
ハンローゼ、普段はああなのにここらへんは本当にきちっとコミュニケーション取れてるんだよなぁ。
「ありがとうございます。聞いていた通りです」
「もし可能でしたらハンローゼと魔法媒体の効果を確認したいのですが」
「はい、もちろんです。他の魔術師の方とでも構いません」
向こうはしっかり条件を出した。
あとは、この「魔法媒体」という能力が本当に効果があるのか、という確認。
城の外にある訓練所に連れていかれる。
ハンローゼの前に、先に城の魔法使い達と魔法媒体の確認。
ハンローゼがどんな魔法使っても、城の人にはどれだけ強力になったのか分からないからね。
城の魔法使いは男女合わせて6人。少ない。
基本的に手を繋いで魔法を使うが
「おお!」
「こ、こんなに凄いのか!」
手を繋いだだけで、明らかに力が分かるらしい。
周りの人達もびっくりしている。
「……これは、想定以上だ」
多分王様だと思う、王冠付けた人が唸っている。
そしてハンローゼとの魔法。
抱っこして密着。
「いくよー!」
ハンローゼの掛け声と共に、物凄い音が響く。
「……うそ」
山から凄い音を立てて迫ってくる影。
巨大なシルエット。あれは、まさか
「……ど、ドラゴン!?」
「フレダ山にいるウイングドラゴンだ!!!」
ウイングドラゴンとよばれる、大きな翼を持つドラゴンは訓練所の近くに迫り、そのままゆっくりと降りてくる。
ドラゴンは人里に来ない。
そのドラゴンが人間の城の中で大人しくしている。
「……ど、ドラゴンも使役できるのか!?」
周りは驚いて絶叫しているが、なんかハンローゼもビックリしてる。
特定して呼び出した訳ではないらしい。
「……疑う必要はない。カイル、我々は歓迎するぞ。是非我が国にきてほしい」