転移魔法遣い、メルィ
僕にアプローチしてくる女子は5人いる。
そのうちの一人は既に学園を卒業していていない。
代わりに手紙が毎日。そう毎日来るんである。
手紙というのはそもそも毎日くるものじゃない。10日に一度纏まって届けられる。
なんで毎日来るかと言うと魔法。
転移魔法という、この魔法使えたら一生食いっぱぐれないの確定な魔法の素質がある。
この世界には転移石というものがあり、特定の場所に移動できる魔法のアイテムがある。
これは相当高く、これを作るだけで裕福に過ごすことができる。
転移は人だけでなく物も送り届けられる。
とは言えこの転移というのは制限がかなり多く、決められた場所にしか転移は許可されない。
グリモアの学園も、学園内には転移妨害の結界が張ってある。どこの街や城も必ずそういうものはあり、認められた場所にしか転移できない。
その認められた転移場に毎日手紙が来るのだ。
「メルィもなぁ」
正直喋ったのは二回ぐらいである。
あんまり印象に残ってない。
色んな意味で目立たない女の子だったと思う。
そんな女の子なのだが、とにかく手紙が長い。
毎日飽きずに送ってくれる。
なのだが、こっちは送る手段は普通に10日に一回の回収の時だけである。
それでも送ると喜んでくれるので、ずーーーっとこれが続いてくれる。
この娘は転移魔法の遣い手なので、学園を三年で卒業。
即、国の魔術師として雇われた。
「専属魔法使い」を超えてすぐに「宮廷魔術師」まで行った。
後は実績さえ残せば「宮廷魔導士」になれる。
その実績の為に僕に来て欲しいと手紙が来るんだけど。
「転移魔法に魔法媒体が行っても意味がないのでは???」
これは学園の先生からも言われていて
「転移魔法は国によって制限が激しくあります。能力を強化しても意味がないと思うんですけどね」
だそうです。
そこらへん手紙に書いて「僕が行っても意味がないのでは?」と送ったんだけど
『意味があるって、偉い人が言ってた!』
偉い人。国の人。
あー。
手紙を持って先生と相談。
その手紙を、困った顔で見る先生。これ多分。
「あなたの心配の通りだと思います。これはメルィが所属しているマリネス公国が、各国の取り決めを超えたなにかをしようとしているのでしょう。下手すれば転移妨害を突破する魔法を使わせようとしているのかもしれません」
なるほどー。
いや、そんな予感はしてたんだ。なんか手紙がそんな感じだし。
「簡単な返事は出さないように。下手をすれば帝国内で戦争が起こります」
メルィは割とこういうところあるからなー。
因みにメルィはちゃんと僕の処遇を提案していて
『マリネス公国所属の専属魔法使いとして迎えいれる。望むのならば、私と婚姻でも良いし、他の女との婚姻も相手が良しとすれば認める』
そうです。
なんだけれど、そもそも僕メルィのことは手紙以外の事ではよく分かんないんだよね。
会ったのは二回。その時はまともに挨拶もしていない。
卒業してから毎日手紙が来ているという。
「……そもそも、それが、メルィの手紙かも疑わしい」
部屋に戻って寛いでいたら、なんの気配もなくハンローゼが入ってきていた。
相変わらずたどたどしい発音。
「……やっぱりそう思う?」
毎日送られる手紙。
これを一人でやっているとは思えないし、実際に手紙の内容に矛盾があったりするのだ。
「……メルィなら、知ってる。地味でブスだけど、こんな一方的な手紙送りつけるような女じゃなかった」
ブスって。
「私の知ってるメルィならば、届いた手紙に何十通の返事の手紙を書くことはするだろうけれど、こんな一方的な手紙を延々と送ることはしない」
「……じゃあ、誰が?」
「……マリネス公国はちょっと危ない研究を帝国に申請しているらしい。両親から警告が届いた。それで来た」
ハンローゼも王族。そこらへんの情報網はあるらしい。
「つまり、国がメルィに代わって送ってるってこと?」
すると、少し辛そうな顔をしてハンローゼは囁くように言う
「……これは、私の勘。両親の情報ではない。その上で聞いて」
僕は頷く。
ハンローゼは
「メルィは死んだんだと思う。実験の失敗で」
思わず絶句する。
殆ど会話もなかった女性だ。
ショックも本来はないが、あれだけ届いた手紙。
この手紙は
「マリネスは必死に隠していることがある。そして、申請している研究内容は転移魔法。なんだけど、マリネスには元々転移魔法使いは4人いた。学園から出たばかりのメルィがいきなり宮廷魔術師は元々おかしかった。それが、国主導の実験体ということなら分かりやすい」
「……メルィは死んだ? じゃあなんで僕を呼ぼうと?」
「そう。多分マリネスとしては宮廷魔術師が死ぬ程の実験をした以上、なにがなんでも成果が欲しい。ここから先は私の予想。メルィは元々あなたを国に招くことを相談していたんだと思う。だから、最初の頃の手紙は本物。でも実験は失敗した。その失敗がメルィの心配した通りのことだったのかなって?」
凄い納得する。
というか、ハンローゼ、こんなに長く喋るんだ、みたいな謎の感動がある。
普段は本当に単語、単語でしか喋らないからね。ハンローゼ。
「少なくとも僕には凄い伝わった。メルィの事は慎重に対応するね」
「うん、うん」
にこにこしている。
こうやってると物凄いかわいい。
「ご褒美、あたま、なでなで」
なんか急に元通りになった気がする。
まあ、でも
「ありがとう、ハンローゼ」
「うん♡」
頭を撫でられて嬉しそうにするハンローゼ見ていたら、こっちも嬉しくなった。