追跡魔法の遣い手、ロミスニア
「カイルー。デートしよう♪」
ロミスニア。
彼女は『追跡魔法』という珍しい魔法を使える。
彼女も貴族だけれども、そこまで身分は高くない。
でも『追跡魔法』という希少で有益な魔法が使えることで、彼女は国から多額の資金をもらっている。
無事卒業してくれば、両親含めて身分が上がるそうで、家族からのプレッシャーもすごい。
そんな彼女だが、僕の魔法媒体を利用することで
「学園から故郷に送った手紙の追跡に成功」
という、分かる人が聞けばひっくり返るような偉業に成功。
これはなんなのか? と言うと、彼女の魔法をかけた物を忍び込ませさえすれば、彼女はどこまでも追跡が可能になる。
そして、その追跡した物から情報を得ることまで出きる。
スパイが自在に出来てしまうのだ。
この魔法の成功により学園側は既に合格を出している。
飛び級が認められ、あと一年で卒業。
ただ、ルーフェと同じく彼女も
「カイルの処遇をハッキリさせなさい」
と学園から言われている。
彼女の場合は魔法媒体抜きでも合格で、来年国に帰るのは確定。
国としても早く追跡魔法を使いたいそうな。
更に特大の効果をもつ魔法まで使えるようになった! となれば文句なく宮廷魔導士に採用される。
なので、彼女もその両親も張り切って僕を勧誘してくるのだが、これが問題になっている。
グラドニアという強国の貴族の中で、下級として扱われたロミスニアの一族。
それが一気に出世となれば色々陰謀が起こる。
どんな陰謀かというと、僕にロミスニアを選ばないように、と念押ししてくる陰謀。
陰謀って本当にあるんだー。と感動しましたね。因みにそれを伝えてきたのはラウバイ。
ルーフェとは仲悪く、ロミスニアとは同国出身ということで仲良さそうに見えるのに、これ。
ラウバイは父親から言われて
「ロミスニアと魔法媒体の男を引き離せ」と命じられている。
ラウバイ自体は僕にアプローチはしておらず、代わりに他国の王族の娘、ハンローゼを勧めてくる。
ラウバイは特にロミスニアに敵意や害意もなく
「仕方ないじゃない。親に言われたんだから。ロミスニアには悪いと思うけど、実際問題うちの国は止めた方がいいよー」
だそうです。
そんなロミスニア。
デートのお誘いなんですが、デート?
「デートって、どこに?」
グリモアの学園は荒野のド真ん中にデデンとそびえ立つ施設であって、周りにはなにもない。
学園内でデート?
「泉にいこー!」
泉。
学園には魔法で作り上げた泉がある。
水魔法の練習として、よく使われているのだが、ここには動物達も遊びに来て、近くで見ていると色々面白い場所ではある。
「わ、イベルートが」
珍しい獣、イベルートがジャンプしながら通り過ぎていく。
「かわいいねー♪」
ロミスニアは楽しそう。
正直な話、ロミスニアは可愛い。物凄い美少女で、性格はハンローゼみたいに破綻してなく普通にコミュニケーションも取れる。
だから、彼女の所にお世話になるのは全然良いとは思ってる。
なんだけど
「……あの、僕もちゃんと選びたくて……ちゃんと聞きたいんだけど……」
ちょうどルーフェの件が学園で話題になっているので聞いてみる。
僕は自分の意志で決断したい。
そのためにも、誘ってくれるならどうなるのか? は知りたいのだ。
イレフルードは「奴隷として」厚遇すると明言している。平民が故に夫にはなれない。だが、貴族の女は妾などいない。だから身分は奴隷、召使いになる。
その代わり取り巻きの女を与えるし、イレフルードも抱いてもいい。
また金銭的には貴族並を保証する。
そんな条件。
ハンローゼは王族であるが故に、男を複数囲う事が可能になる。
平民なので王族のまま夫になるのは難しいが、身分を落とせば(上級貴族)結婚も認める。
そういう条件が出されている。
一方でルーフェとロミスニアは条件をぼかしている。いや、決めきらないのだ。
ルーフェは国が回答を出さない。
ロミスニアもそう。
僕を連れて帰ったときに、最終的にどうなるか?
特にロミスニアは宮廷魔導士になれば、王族と結婚を求められる可能性がある。
宮廷魔導士は優秀とされ、その血は尊いとされるのだ。
向こうの両親は最終的にはそれを狙っている。
なのだが、そうすると僕が純潔を散らしたりしたらダメなのである。
王族との結婚相手は純潔が条件だからね。
つまり、僕はロミスニアが宮廷魔導士になって王族と結婚するまで性行為できないし、なったらなったで奴隷みたいに過ごす。
そうなる以外に有り得ない。
上二人よりも遥かに条件が悪い。
「……そ、その。本当にごめん! ちゃんと答えられなくて……」
俯くロミスニア。
「……その。たまに行くぐらいなら良いんだけど。最終的に宮廷魔導士目指すなら……」
ロミスニアの追跡魔法は希少だし、僕の魔法媒体なくても宮廷魔導士は狙えると思う。
だから無理に縛り付けられる必要無いと思うんだけど。
「で!? でもね! カイルいないと安定して成功しないの! 追跡魔法は安定が命なの! 出来たり出来なかったり、そんなの追跡にならない!」
叫ぶロミスニア。それは実際に見てて分かる。
不成功が結構多いのだ。
「……そ、そんなのが宮廷魔導士なんて、なれるわけがない……でも、でもね。カイルの不安は当たり前。それは分かる。だって私もルーフェと一緒だもんね。誘ってるのに、何をしてあげられるかも答えてない。だから、本当に、少しだけ待っていて。必ず答えるから」
ロミスニアの必死な姿に
「わかった、待ってる」
僕の言葉にホッとした顔をするロミスニア。
「せっかくのデートにごめんね。また変な獣きたよ」
「本当だー♪ かわいいー♪」
ロミスニアは安心しきった顔で笑っていた。
「全然だめよ。ロミスニアもかなり怒ってるみたいだけど」
夜、部屋に普通に入ってくるラウバイ。
「一応、ここは男の部屋でして」
「あら? 私を襲うの? 別に良いけど?」
あっけらかんと言うラウバイ。
本当に僕に興味なさそうなんだよなー。ラウバイ。
「宮廷魔導士になるためには、魔法媒体が必須。それは能力として、魔法媒体抜きの追跡魔法の成功率の低さが影響している。そして宮廷魔導士になれば、王族との結婚を望まれる。両親はそれを狙ってる。あなたの処遇なんて気にもしてないわ。庶民だし、金貨でもぶつけとけば納得するだろ? 程度ね」
まあ貴族なんてそんなもんだけど。
「ロミスニアは両親に『カイルは他の女に狙われている』と訴えてるけど全然ね。全く通じていないわ。カイルへの優遇案も10個作って全部却下。流石に可哀想になるわ」
「優遇案?」
「宮廷魔導士になることで、彼女の一族は上級貴族になる。上級貴族は新たに下級貴族を任命できるようになる。それでカイルを貴族にしてほしいとか」
おお、ロミスニアは本当に色々考えてくれてるんだ。
「宮廷魔導士になるが、王族との結婚は諦めろとか、王族になれば囲い込みが許されるからそうしてくれとか」
なんか、ロミスニアは本気で頑張っていた。
「どれも却下。ロミスニアはかなりブチ切れた手紙を書いているわ」
流石に同情する。
「まあ、うちの両親も色々動いてるんでしょうけどね。なのでロミスニアは諦めなさいな」
ラウバイは微笑み。
「こんな身体で良ければ、いくらでも抱いても良いけれど? そんなに顔を赤くされるなんて光栄ね」
いや、ラウバイ胸を押し付けながらしゃべるんだもん。
柔らかくてそら興奮する。
「可哀想なロミスニア。でも彼女に付き合ったら不幸よ。よく考えなさいね」
ラウバイが手を振りながらいなくなる。
「……凄いいい匂いがする」
僕は、ロミスニアが座っていたベッドのあたりでドキドキしていた。