土の魔法使いルーフェル
「カイルー。入るよー♪」
学園には休日がある。
その日は自由行動していいのだが、このグリモアの学園はなにもない荒野のど真ん中にあり、娯楽みたいなのは全然ない。
食事関係は学園が用意しているものだけ。服とかも学園が招いた人達の服しか用意されない。
なんでか? というとこの学園は全額学園の金で学ばせているため、サボられたりすると困るからだ。
おかげで娯楽がない。休みの日というのも、本当に寝て休むだけの日。
でも魔法使いは体力を使うのでこの休みの日は大事。
僕には関係ないので暇です。
「ルーフェ? どうしたの?」
いつも練習と言って入り込んでくるけど、休みの日は普通休む。
でないと体力が持たなくなるから、なんだけど。
「私、昇格試験受けるの。それで実験したくて」
昇格試験。
学園を何年で卒業するか? というのはカリキュラムのすすみ具合によるんだけど、それを省略できるのが昇格試験。
「す、すごい。もう?」
ルーフェは既に学園に2年いる。
なにもしないと5年で卒業する。
昇格試験の内容によるけど、2年までは飛ばすことができる。つまり来年卒業が可能。
「うん! だから大地魔法試すから!」
大地魔法。
土魔法の上位魔法であり、広範囲を操ることができる。
この大地魔法の使い手は戦争での活躍が目立ち、城の攻防戦で、土の壁を築き上げ敵の侵略を防いだり、敵を孤立させたり。
炎や氷のような直接的攻撃よりも、間接的な魔法が故に戦争では役にたつらしい。
ルーフェと一緒に広場に行く。
魔法が許可されている広場で、休日にも関わらず、何人かが練習している。
「それじゃあやるよー!」
ふとここで思うんだが
「……魔法媒体ありで試験受けられないんだから、僕がいたらだめなのでは?」
「魔法媒体なしじゃ大地魔法使えないんだから仕方ないじゃない」
仕方ない。つまり???
「……うん?」
昇格試験とは卒業条件。
卒業する時と同じ条件でしか認められない。
つまり僕と一緒に昇格試験受けたら、卒業するときも僕と一緒が条件になるはずである。
「え? まって? それって……」
「いくよーーー!!! 大地魔法!!! グランドクロス!!!!!」
ルーフェが叫ぶなり、大地が揺れ、地割れが起きた。
「大地が割れる程の威力ですから試験の必要もない。昇格試験は合格になります。問題はカイル、あなたは彼女と一緒に卒業する気で?」
にっこにっこしてるルーフェと、怖い声の先生。
広場の崩壊した音が響き先生達がすぐに来たのだ。
そしてルーフェの魔術を見てからのこれ。
昇格試験は免除。問題は魔法媒体の僕がセットでないと発動しないこと。
「……え、ええっと?」
「カイル! 一緒に来てくれるよね!?」
いや、そんなこと言われても
「ルーフェル・アルテイン・ティオーナ。念の為聞きますが、彼の処遇はお国とお話されているので?」
先生からの言葉に
「はい! 手紙を書きました!」
「……返事は……?」
「まだ返って来てないです!」
「……それは、当然でしょうね。魔法媒体がなんなのかも分からないでしょうし。あなたの魔法を見てから判断になる。つまり現段階では彼にとって、自分がどうなるかも分からない。それなのに決断なんて出来ないでしょう?」
「そ! そんな! こんな凄い能力です! きっと受け入れてくれます!」
「魔法媒体が凄いのは確実ですが、どんな処遇されるかは分かりません。奴隷のように扱われる可能性も高い。そのあたり彼と話し合ってもないのでしょう? なのでそこをご実家とよく話し合いなさい。彼と相談するのはその後です」
先生からのお話にルーフェは渋々頷いた。
ルーフェの大地魔法は翌日に話題になったが同時に
「昇格試験認定されないんですって?」
「……っ! うるさい!」
ルーフェの大地魔法の威力は即日合格。ただし僕との合意が取れてないから認定されず。
そこまで学園内で流れていた。
ルーフェはめっちゃ不機嫌。
「国から返事がくれば終わりなのに!!! 押しかけてやろうか!!!」
怒ってはいるけれど、それは僕や先生に対してではなく国に対して。
「処遇も分からないのに着いていけるわけがない」のはルーフェも分かってくれているみたい。
まあ、それ以前の問題ではあるんだけど。
「ルーフェ、そもそもあんたカイルになにしたことになってるのよ。国に誘ってはいるけど、別にキスもしてないんでしょ? 男女関係でも、主従関係でもないのに、なんで国に着いてくる前提なのよ」
ルーフェと仲の悪いラウバイが話をしてくる。この娘はこの娘でヤバい人です。
「……そ、そんなの!?」
顔を真っ赤にして怒るルーフェだが、言葉は続かない。
「カイルは平民だから主従関係? でもそれ言ったら直系の王族ハンローゼが良いに決まってるでしょ? 性格には難があるけど身分は最高だし、あんな性格だから他に男も出来ようもないわ。そのままハンローゼの夫になることもできる。それとも男女関係? あなたの家、平民の夫を認めるの? ハンローゼはもう許可取りにいってるらしいし、親もそれでいいみたいよ」
ラウバイの言葉に、歯をむき出しにして威嚇するルーフェ。
ハンローゼの方は前手紙見せられたんだよなー。なんか親も「長女じゃないし、この性格じゃまともな嫁ぎ先もないし、宮廷魔導士優先でいい」そうです。
王族なのに柔軟。普通は男の家柄は物凄い言われる。
ルーフェと同格の貴族、イレフルードも僕と恋愛関係になるのは最初から諦めて「奴隷になれ」と言ってくる。
そこらへんの問題は割とあって
「悪いけどさ、ハンローゼみたいにちゃんと付き合いできるようにしてるなら分かるけど、そうでもないのに振り回すのはカイルに失礼だと思うよ」
その言葉に俯き
「……ちゃっ! ちゃんとやるから!!!」
そう言ってルーフェは走っていなくなった。