王族の娘、ハンローゼ
この話から女の子との話になります
美人で貴族な女の子達に積極的にアタックされる状況が嬉しくないわけがない。
もちろん嬉しい。
なのだが、それは真っ当な好意とかそういうもので喜ぶものであってですね。
「なんで呼んでるのに違う女の方向くの??? ひどい、ひどい、ひどい」
後ろから怨霊みたいに話しかける女の子。
呼びかけを無視したみたいに聞こえるけど、実際彼女は呼んでない。心の中で呼びかけてる。
最初半泣きで訴えられて、意味が分からなかったのだが、どうもそういうことらしい。
一定時間心の中で呼びかけて、無視されたらこうやって背後から現れて怨念をはくという。
なんという厄介な人なのでしょう。
でもこの娘も貴族……どころか王族である。
ビネスト公王の弟の娘。直系に近い王族で魔法使いの才能があるって、本来は物凄いらしく、普通であれば国内で魔法使いを呼んで育てられる。
それが「この娘はちょっと外で育てた方が良いんじゃないか?」となってグリモアの学園に入れられた。
理由はこのコミュニケーション能力の無さ。
グリモアの学園は魔法の才能さえあれば身分を問わず通える。
別に全部が平等ではないが、少なくとも学ぶ内容に差はない。
単に王族として過ごすならばともかく「宮廷魔導士」になるためには、様々な人の関わりが必要になる。
普通の王族は王宮内でそういう教育もするのたが、このハンローゼは王宮内の教育では改善の余地なし。平民も通うグリモアの学園で色々学んでこい、と出された、らしい。
因みに僕を狙う女の子達は大抵貴族で『宮廷魔導士』を狙っているのだが、『宮廷魔導士』というのは、この広い帝国内で20人いない。
各公国一人もいないのだ。
王国に仕える魔法使いにはランクがあって
『宮廷魔導士』『宮廷魔術師』『専属魔法使い』となる。宮廷魔術師は各国に10人以上いる。魔導士がいない。
魔導士になる条件というのが、僕の『魔法媒体』にまんま関わってくる。
魔法量に満ち溢れ、常に魔法を切らさず使い続ける必要が魔導士の条件にあるそうなのだ。
それで狙ってくる。このハンローゼもそう。
コミュニケーション能力はともかく、自分が家族になにを望まれ、なにをすべきかは正確に知っているようなのだが。
「ごめん、ハンローゼ。ちゃんと口で言ってくれないと分からないよ」
毎回そうは言うが
「分かって、分かって、分かって。ちゃんと私のこと見て」
背はちっちゃくて、小柄。年齢はそんなに変わらないはずなんだけど。ちびっ子という表現がよく似合う。
おっぱいも全然なく、正直な話、性的魅力は殆どなくどちらかというと可愛くて、手の掛かる妹みたいな感じではある。あるけれど。
「それで、なんの用?」
「練習、練習するの」
練習。因みに今日はもう授業が終わって、これから帰ることろですね。
授業が終わったら、とりあえずこの校舎からは出ないといけない。
「帰り道でよければ」
「やる、やる」
ハンローゼの魔法はかなり特殊で、『使役魔法』という。動物を使役して使いこなす魔法で、あまり例がない。
だから手探りでハンローゼは魔法を使っていく。
その結果、既に魔法体系が明らかな魔法使いと比べて、使える魔法の数は少なく、その有効性も分かりにくい。
彼女はそのために遅くまで魔法の練習を頑張り、どうにか成果を出そうとしている。
王族なのに努力の人。そういうのは凄いと思うんだけど。
「カイルがこないから、あんまりできなかった。もっと練習しないとだめ。カイル、責任とって部屋にきて」
いつもこんな感じ。
上手くいかない。だから部屋にこい。部屋にきて練習させろ。
「女の子の部屋に行くのはダメなの」
教師から
「女が押しかけるのは仕方ないが、お前が部屋に行くな。血が流れる」そうです。
「むーむー。じゃあ部屋にいくー」
部屋。
嫌な予感しかしない。案の定、部屋の前には
「あら」
「やっときたー♡」
二人が待っていました。
イレフルードとルーフェ。
基本的に仲の悪い二人が揃って待っているのも珍しいが、それ以上に
「ハンローゼ様、あなたみたいな小国の王族には路地裏にいる野良犬がお似合いですわ。はやく捕まえてらっしゃって」
「キャハハハ! 根暗女! カイルは私が使うから早く帰れ!」
ハンローゼとこの二人の相性が最低最悪。
理由はそれぞれの国に関わる問題で。
ハンローゼは直系に近い王族だが、公国としては小国。
イレフルードとルーフェは王族ではなく貴族だが、国は強国で帝国内の順列でも上位。
またハンローゼの国ビネスト公国は南方の国で、なんというか「南は文化が劣る」みたいな扱いを受けているのだ。
実際ハンローゼの言語はやや不明瞭。これは各地方の方言に近いのだが、ハンローゼが僕に念で話しかけてくるというのも、実はあんまり言葉を喋りたくないから、が近い気がする。
物凄い馬鹿にするんだもん、この二人。
「部屋の前で喧嘩しないで。喧嘩するなら出て行って」
僕の話に黙る3人。
とは言え
「とりあえずハンローゼと約束したから。ルーフェとイレフルードは明日でいい?」
「えー」
「仕方ないですわ」
二人は不満そうにするが大人しく引き下がる。
そしてハンローゼは部屋に入ると
「ゴロゴロ」
喉を鳴らして、ぴっとりとくっついてくる。
「魔法の練習」
「守ってくれた。嬉しい」
喧嘩されても困るだけだし。後、正直出身地差別はされて楽しいもんじゃない。僕だって平民なんだし。
とは言え、このハンローゼは差別される可哀想なキャラ、という訳では全然なく
「あの、似非貴族ども、いつか殺す、お父様に言いつけて、絶対殺す」
こんな感じ。
王族だしねー。プライドは高い。
「カイル、見ててね。絶対あいつら殺すからね。裏切っちゃだめだよ。私と一緒だからね」
そんなこと言われましても。
ハンローゼの練習というのは動物を呼び寄せる魔法。
その結果、窓の外には大量の鳥さんが。
「もう十分なのでは」
『クケーーーッッ!!!』
なんか得体の知れない鳥の声が聞こえますね。怖くて窓を覗けない。
「うんうん。これ、きっと褒められる。ありがとうカイル」
そう言って……
ほっぺにチュウ。
「また明日ねー♡」
嬉しいは嬉しいけれど
「……だから、明日は違う娘が……」
話を聞いてなかった。