リグルドとの対話
本当は今回で最終回だったのですが、長くなりましたので分割します。
ハンローゼと一緒に卒業式。
そこに、以前ビネスト公国に行ったときに案内をしてくれたルグさんが来てくれていた。
「お久しぶりです」
「ええ。本当にお疲れさまでした。また、ハンローゼ様をお選び頂きありがとうございます」
にこにこしている。
身体が大きい人で、ハンローゼはその人の腕に掴まって持ち上げられたりしている。
「このままビネスト公国に帰るってことで大丈夫なんでしょうか?」
「はい。ハンローゼ様はそのまま王宮に。カイル殿は貴族に任命されるまで、このルグがお世話します」
その言葉にハンローゼは頬を膨らます。
「なんでーーー???」
「この前はあくまでも来客用の部屋です。これからずっと住まれるのですから、ちゃんと部屋から作らないといけません。またハンローゼ様と御結婚されるかもしれないのですから、ちゃんとした部屋にしないといけませんし」
凄いちゃんと考えられていた。
「ルグさん、本当にお世話になります。よろしくお願いします」
頭を下げる。
「はい。……それで。その。ミラー様からはどこまでお聞きになられたのですか?」
ミラーさん。
「……いえ、ミラーさんからは殆どなにも。ただラウバイが解説はしてくれました。ハンローゼはそもそも……なにも理解していなかったと」
それに深く頷くルグさん。
「結論から申しますと、私は神教側の手の者です」
…………
「はい?」
なにが?
「ハンローゼ様とのコミュニケーションには常に問題がありました。それはご両親もそう。その仲渡しのために、神教のトップ2、リグルド様が送り込んだのが私です。既に聖女勢力が圧倒していたビネスト公国での巻き返しの一手でした」
なにその陰謀劇。
というか、当たり前なんだろうけれど。
お互いが色んな手を使ってて複雑すぎる。
「ハンローゼ様がなにも知らないのは当たり前です。そもそも伝えていません。私が進言したのです。伝えても伝わらないだろうし、伝わったところで、それを内緒にしろ、という方が伝わらなかったらマズいと。なのでハンローゼ様には『卒業しろ』と『カイルという男は優しいから頼れ』だけでした」
ハンローゼもうんうん頷いてる。
そもそも聞いてすらいませんでした。
なんという。
「リグルド様のおかげで、ビネスト公国の神教勢力は盛り返し、聖女への信仰転換の話はなくなりました。ハンローゼ様は、ご両親のいいつけをそのまま守られたのです。きっと褒められるますよ。楽しみにされてくださいね」
「わーい♪」
喜ぶハンローゼ。
しかし
「……信仰はひっくり返っても、対応は一緒なんです?」
それにルグさんはにっこり笑って
「王の姪が稀少で強力な魔法使いというのは、どんな勢力につこうが有効ですから」
卒業式には女の子達から色々惜しまれた。
「飽きたら来てもいいわよ?」イレフルード。
「私はいつでも歓迎するからね!」ルーフェ。
「……本当に残念。国が悪いから仕方ないけど……」ロミスニア
美女ばかり。この人達から口説かれてたって、本当にすごい生活してたんだなー、と改めて思う。
「本当にお世話になりました」
僕とハンローゼは卒業証書を受け取り、ビネスト公国に帰った。
ビネスト公国。
ルグさんのお世話でとりあえず街中にある綺麗な家で住むことになった。
それは良いんだけど、部屋には一人のご老人が。
「……り、リグルド様!!!」
ルグさんはびっくりして直立不動。
「ルグ、よくやりました。努力こそが神の意思。この成果に神は心から褒め称える」
「もったいないお言葉です!!!」
リグルド。
何度か出てきた名前。
「カイル。あなたとお話したい。お詫びの話です。あなたが最大の被害者ですから」
椅子を勧められ座る。
「……ひ、被害者って?」
「……ビネスト公国が聖女に転ぶ。そもそもそんな事はあり得ません。隙を作ったのはわざとです。他の女達もそう。ラウバイのスパイ行為もそう。あれはワザと知っていて泳がせていた」
……はい?
「神教と聖女の勢力圏は、争いの末、ある程度のところで拮抗した。我らとしてはここの維持が精一杯です。我々としてはこの境界で終わりとした。そこで問題が起こった。我が神教の旗頭である神女が倒れたのです。無理をさせすぎた。休ませてどうにかなれば良かったのですが、心の病の問題でした」
殆ど関係のない話をされているように感じる。でも
「そのために必要だったのがこの騒動です。わざと隙を作り、敵を再び活発にさせた」
「……ええっと? その人無理をさせすぎて倒れたんですよね? なんでまた無理させようとするんです???」
意味がわからない。
リグルドさんはゆっくりとクビを振り。
「逆なのです。緊張感がキレたから倒れたのです。張り詰めていたものが無くなったから倒れた。だからまた緊張関係に戻した」
そして、深い、どこまでも深い眼差しで
「神に選ばれたのに、神の声が聞こえない。それが彼女の悩みでした。だから、発狂寸前まで追い詰めて聞かせるしかなかった。命をかけないと神の声は聞こえない。そのためのこの一連の騒動」
ボーッと聴き入る。つまり
「本来はあなたは、普通に学園に通って、そのまま生活できた。それを振り回した。その謝罪できました」
リグルドさんは深く頭を下げる。
「……きっと」
「はい
「……辛かったのはハンローゼです」
振り回されたのは、きっとハンローゼ。
ここまで卒業に追い詰められなかったもの。
「ああ、彼女には謝りません。彼女もハユリと似たタイプですね。多分追い詰めないともっと苦労しましたよ。今回は知識の塔から二人の天才が直接指導してどうにか、という話ですから。今回の件がなければ、退学で国に帰ったでしょう」
にこやかにリグルドさんは語る。
「……ビネスト公国にとっても。あなたを得たのは最良でしょうね。また、他の国では間違いなく戦乱が起こっていた。貧しい国の中で、人々の幸福のために頑張ってください。あなたなら出来ます」
リグルドさんは立ち上がり
「ルグ、ご苦労様でした。くれぐれも皆様によろしく」
「リグルド様。せっかくのおいでです。是非王宮に行かれてお休みされてください……」
それに首をゆっくり振り
「この国で為すべきことは終わりました。また新しい戦いが始まります。神は努力を尊ばれる。全能力を懸けた闘争なくして、我らに神は語りかけません。ルグ。頼みましたよ」
次回最終回です




