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卒業試験

 ハンローゼとお勉強。

 なのだが、ハンローゼはもう逃げたり、泣いたりしなくなった。


「……がんばる」

「ミガサさんの話が伝わったのね……」

 ラウバイが少し微笑む。


 ミガサさんはかなり厳しく話をしていたんだけど、伝わっていたらしい。

「……それで、この文字が、『お蕎麦』って意味で……」

 ハンローゼはゆっくりと読み解いていく。


 文字の習得は思いのほか順調。

 実際ハレル語は文字三種あるから大変なだけで、そのうち一種を読めるようになれば読み下せるようにはなる。問題は


「おそばは、すぐにたべれて、おいしい」

「……間違えていないわよ。いや、内容は間違ってるんだけど」

 ラウバイが呆れた顔。


 本当にそう書いてある。

 ハンローゼがふざけているわけじゃない。

 そこに書いてあることは、とある女性の食べ歩きの話である。


 とある女性って、ミラーさんの事だと思うけど。


 塔の飯がマズい。馬鹿なのか。から始まり、蕎麦は食べやすくて美味しい。凝った料理はすぐ出てこないから嫌い。とか。本当にそんな話なのである。


 こんなの読ませてどーすんだ。

 そう思うのだが


「ここから読み取れるものがあるって、ミガサさんが」

「……塔の飯はマズい。外の飯が美味しい。蕎麦が好き。友達は果物が好き。ここからなにを読み取れと???」


 ラウバイは呆れてる。


 すると

「……お蕎麦。おいしい。すぐくる。だから……」

 なんかハンローゼが書いてる。


「……は?」

「……え?」

 ハンローゼが書いているものを見て、僕とラウバイが変な声を出す。


「……???」

 ハンローゼが書いているもの。


「……な、なにこれ?」

「……これ、魔法構成???」


 その魔法構成がなにを指すか分からない。

 でも明らかに魔法構成。


「……? ちがう。 これ。書いたまま」

 書いたまま???


「おそば、おいしい、すぐたべる」魔法構成をなぞりながらしゃべるハンローゼ。

 それに目を見開くラウバイ。


「……あ、あああっっっ!!! これか!!! これがミラーさんが言っていた文字の書き起こしか!!! ハレル語は文字構成に角度が決まっている!!! ミラーさんみたいに一文に流し込まずに! 単文で書いたら確かにこうなる!!! なんなの!!! あの人、こんなこと考えて文章作ったの!!!??? 化け物かよ!!!???」

 ラウバイが絶叫。


 ごめん、僕には意味が分からない。

 書いたらこうなる?


「?????」

 ハンローゼも理解していない。

 とりあえず


「そのまま書いてみて」

「うん」


 ハンローゼはゆっくりとだが書いていく。

 それは文字というよりも、図形のよう。文字が積み重なり、段々と形になっていく。


「……こ、これ」

「……単なる日記と思ったのが、実はそれを正記表記すると、構成のような形になる。……いえ、単なる正記でもないのね。ハンローゼみたいに、抜くものを選別しないと図形にならないわ」


 抜くもの。

 ハンローゼは首を傾げながら

「……? 抜いて、ない」

「接続のレナン字を抜いて……あ、そうか。ハンローゼはまだこれ読めないのか……」


「うん。わかんないのは書いてない」

 ハンローゼとラウバイはぴったりくっついて話をする。


 うむ。僕だけ分からないのはマズい。

 僕も勉強しないと



 20日後。


「ふあーーーーーーーー」

 欠伸をするミラーさん。


 めっちゃ眠そう。


「20日も寝てたからですよ、師匠」

「3日も起きてたからですーーー」

 ミラーさんとミガサさんの二人が学園に来た。


「ミラーさん。ハンローゼのハレル語読解はかなり進んでいます。それで卒業試験はミラーさんが行って頂けるので?」

 学園の先生が聞く。


 それに

「ええ。それではハンローゼ。私の渡した本を」

「はい」

 教科書と、ハンローゼが書き下した魔法構成。


「ミスが多い」

 一目でミラーさんが答える。


「……うわ、できてんじゃん」

 ミガサさんはビックリ。


「弟子、出来て当たり前だ。3人がかりだぞ。誰かは気付く。ただ、ハンローゼ。この構成文自体は自分で作ったな。それは見れば分かる。合格だ。胸を張って国に帰りなさい」


 合格。

 その言葉にハンローゼは

「…………ふ……」

 ふ?


「ふぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああんんんんんんんんんんんっっっっっ!!!!!!」


 ハンローゼは幼子のように大泣きする。

 僕の胸に抱きついてきて

「ふぃぃぃぃぃぃぃっっっっ!!!!!!!」

 涙と鼻水を胸に押し付ける。


 合格。


「……師匠、優しいですね」

 ミガサさん。


「ジェラハグドーム様の意向は80年明かされなかった。魔法使いの怠惰は万死に値する。ハンローゼは少なくとも怠惰ではなかった。ならば合格よ。こんな簡単な事に気付かない者が多すぎる」


 怠惰。

 確かにこの20日間のハンローゼは毎日かかさず勉強していた。


 でもきっと

「ずっと頑張ってたんだよね。ハンローゼ。良かったね」

 ミガサさんが「怠けていたことを両親に詫びろ」と怒っていた。

 でも、ハンローゼは怠けてはいなかった。

 テストから逃げたりはしていたけど、頑張ろうとはしていた。


 足りなかったのは理解力。


 それを証明したかった、というのもあるんだろうな。


 ずっと泣いているハンローゼを見ながら、ラウバイが半泣きになっている。


「……こ、こんなに苦労するとは……思わなかった……」

 それは思う。本当に。


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― 新着の感想 ―
[一言] 筆記体や行書体で書くとただの文章だけど、楷書体やブロック体でひらがなだけ抜き出して書くと文書構成だった……なのかな? ああそうか!「ハレル語は文字構成に角度が決まっている」 だからジェラハ…
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