ハンローゼの理解力
ミガサさんがやってきて、教科書を置いて行き帰った。
学園にもミラーさんの卒業条件が告げられ、それに準ずることになった。
日付縛りはなくなり、ハレル語修得で卒業。
一体どれぐらい時間かかるんだろ?
と恐る恐る教科書を開くと
「……な、なにこれ?」
知らない単語がびっしり書いていた。
これ、もしかしてハレル語?
教科書って、これ読めるようになれってこと?
既にミガサさんもいない。
「……私は古代語も読めるわ。一緒に勉強しましょう?」
憔悴したラウバイがハンローゼと僕に呼びかけ
「部屋に行くわよ」
部屋、僕の部屋です。
ハンローゼとラウバイに挟まれ
「……私は聖女様の意向を受けて潜り込んだ」
ラウバイの言葉。
「え!?」つまり、ミラーさんの言っていたことは……
それに首を傾げるハンローゼ。
「……え? なんであんたは首傾げてんの?」
ラウバイは凄い目でハンローゼを睨む。
「……せ、せいじょ?」
その言葉に困惑するラウバイ。
「……まって? カイルの前だから良い子ちゃんになろうってしているんじゃなくて? あんた、まさか国からの指令、最初っから最後まで理解出来ていなかったとか……?」
それに更に首を傾げ、斜めになるハンローゼ。
「くに。わかる。わたし、卒業する」
「……話題が話題なだけに、ちゃんとそのあたり話をしていなかったけど、まさか、あんた本気でなーーーーんにも理解しないでやっていたの?????」
ハンローゼの意向。ラウバイの意向。
つまり
「ラウバイは聖女と呼ばれる隣の大陸の主に送り込まれたスパイで、ハンローゼをサポートしろって言われた。それはハンローゼが聖女の意向を受けてきた人だから。という感じ?」
それにラウバイが大きく頷く。
それでラウバイは「私の身体を好きにしていい」とまで言っていたのか。
ラウバイの抜け目の無さ、その行動は分かる。
問題は
「……じゃあ、ハンローゼもスパイ……?」
この娘が???
ハンローゼは斜めになったまま。
「……すぱい???」
分かっていませんね。
「……ビネスト公国は聖女派が優勢になった。カイルを引き込み、聖女の力にたとうとした。まあ私でも良かったのよ? でもハンローゼは……なんというか。自然体で不自然だから、多少変でも誤魔化せるだろうと私はサポートに回った」
なるほど。
「……んで? ハンローゼ。聖女様のことは全く知らないの……?」
「……だれ? それ?」
おお、なんという。
つまり、陰謀劇だったのに、陰謀の手先となるハンローゼには全くそのつもりは無かったと。
「お父さん、卒業しろって。だから、カイルと一緒なら」
「……もしかして、カイルを連れてこいって事も理解していなくて、単にカイルと一緒なら卒業しやすいだろ、ぐらいで声かけていたの???」
うんうん、頷く。
「カイル、優しいし。ラウバイも。だから」
頭を抱えるラウバイ。
僕も頭を抱えたいですね。
要は結果的にそうなっただけで、ハンローゼはなにをしているのかもよく分かっていなかった。
伝わっていたのは
「学校は卒業しよう」だけ。
「……んで? でも約束は守るんでしょ? カイルはビネスト公国が面倒を見る」
うんうんと頷くハンローゼと僕。
「じゃあ卒業するために頑張りましょう……んで、この教科書を読め……」
ラウバイがミラーさんの本に目を通すが、どんどん困惑した顔になっていく。
「……なにこれ?」
なにこれって。
「これを読んだら卒業という事では?」
「……魔法の話なんて書いてないわよ??? これ。間違えたんじゃないの???」
困惑するラウバイ。
でも座って
「……まあ、とりあえず読めるようになりましょうね」
『あの教科書は間違いではない。あれが読み取れれば合格、との事です』
ミガサさんと遠距離会話装置で会話。
「……ラウバイが言うには、全然魔法の話がないと」
『ヒントですけど。【読み取れ】です。読めるようになれ、じゃないです』
どういうこと???
『師匠は性格悪いです。そのつもりで読むように。別にあの本を読むだけなら10日もあれば読めるはずです。それで、なにを読み取れた? が問題になります』
読めると、読み取れるは違う?
『……どこまで言っていいのか。ハンローゼに無理にあの文字を読ませる必要もない。ただ、読んだだけでは正解にならない。そこをハンローゼが理解できるかが試されます』
つまり、あの本は謎かけってこと?
『そう、でも言ってて思いました。師匠のアプローチは正しいですね。未知の魔法と向き合うのです。必要なのは知識量ではなくひらめき、って事でしょう。頑張りなさい、カイル』




