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ミラーの講義

 本人が転移してきたのではないのは分かる。

 だって、目の前にいるのは影。


『ラウバイ、ハンローゼ。お前らの意向はとっくに知っている。本来であれば、私はお前に教える筋合いはない。よりによってハンローゼを選んだ連中をあざ笑って終わりだ。だが、カイルはお前を選んだ。魔法媒体の能力は決して人を幸せにしない。能力保持者のその全てが不幸なまま死んでいる。だからカイルの手助けとしてやってやろう』


 その影に向かって

「ししょー! 見えないかも知れないですけど! ハンローゼは勉強のしすぎで気絶してて聞いてないですよ!」

 ミガサさんの突っ込み。


『……カイル、なんでよりによって、こんなややこしい女選んでるの』

 ミラーさんの呆れた声。


「……わ、私と、ハンローゼの意向って……」

 ラウバイが顔を青ざめさせている。


『判断に迷いを与えるようなことはしない。だからお前も黙れ』

 その言葉にラウバイは黙る。


 影はこちらを向き

『未来は自分の手で掴み取れ。そう言ったのを憶えてる?』

 僕への問いかけ。


「はい。その言葉を胸に、学園で生活していました」

『ならばよし。掴み取る、ということはただ選ぶ事ではない。共に切り開くということ。困難があれば、共に乗り越えること』

 頷きながら、拳をにぎる。


 本当にこの人、良いこと言うな。さすが世界最高の魔法使い……


『だから、今すぐこの女を叩き起こせ。水ぶっかけろ。3日もいらん。私の教え方なら1日だ。ただ、その間は一瞬の気のゆるみも許さん』

「そ! そんな! ハンローゼはさっきまでずっと勉強をしていて! せめて起きてから……」

 ラウバイのフォロー


 その言葉に影は振り向き

『お前に喋る権利を与えた記憶はない。黙れ。それともバラされたいのか? 学園ではなく、国に』


「……っっっ!!!」

 ラウバイはなにかを隠していて、ミラーさんがそれを知っているのは分かる。でもなんの話だろう。


「……ミラーさん、ラウバイの言うとおりです。既にハンローゼは疲労しています。明日に……」


『ミガサが10日かかると言った。意味が分かるか? ミガサは知識の塔で最先端の魔法学問を教えている女だぞ? 未知のものを一から教えられる能力は塔でも随一だ。そんな女が10日もかかると言うのは、実質こいつはなんにも学んでいなかったという事』


「……ししょー、そういうほめ言葉はですね。もっとちゃんとしたときに言ってくださいよー」

 ミガサさんの愚痴。


『そんな怠け者にく時間などない。起きないなら知らん。私は講義を進めるだけだ。カイル、ハンローゼの元に行きたいのならば、お前が責任をもって起こせ』


「……は、はい」

 なんか物凄い強圧的だけど、反論できない。


「……し、ししょー? 失礼なんですが。あの師匠って、現代魔法語って……」

 ミガサさんが恐る恐る言う。


『その通りだ。現代魔法語なんてウンコ教えられるか。私が教えるのはハレル語だ』


 それにずっこけるミガサさん。


「ハレル語!? そんなの教えてどーすんですか!?」


『ハンローゼの魔法となんと呼ぶか。【使役魔法】と呼んだり、【召喚魔法】と呼んだり様々だ。それは適当に呼んでいるわけではない。本来の体系は【使役魔法】なんだが、ハンローゼの能力が至らず、使役が不可能だから、単に召喚するだけの【召喚魔法】と呼んでいる。んでだ、その使役も召喚も現代魔法語では全くフォロー出来ない。古代魔法語もだ。古代魔法語でまともな【使役魔法】の記述はない。あるのは唯一ジェラハグドーム様が残した、ハレル語での【召喚魔法】だ。だから卒業条件として、ハレル語の修得とする。ハレル語の本が読めれば誰も文句は言わん』


「現代魔法語詰め込んだ後に、今度は全然体系が違うハレル語!? そんなの出来るわけが!!!」


『お前が3日で終わらんぐらいだ。そこの引き継ぎしたところで無意味。こいつはなにも勉強をして来なかった。だったら今から詰め込むのもなにも変わらん。ほら、カイル起こしなさい』


 起こせと言われても。

 ゆさゆさと揺するがハンローゼはピクリとも動かない。


『では講義を始める』

「まってくださーーーい!!!」


 ゆっさゆっさ揺らしていると

「……はにゃ?」

 起きた。


『起きたな。今までのことは全て忘れろ。これから言うことだけ憶えろ』

 ハンローゼの目の焦点が合ってない。


『カイル、ハンローゼが聞けない状態だと言うならばお前が伝えるんだ。書いた方がいいぞ』

 ああ! なるほど!



 そこから、地獄の1日がスタートした。



「未来を掴み取れ」


 そんな言葉はとても辛いものだったことに、やっと気付きました。


「……ま、まってくださーーーい!!!」

『ラメル、ハルデ、クレイム。これにハムレークを加える。これにより魔法構成の基本であるレルムアーツの形式を持つ。これはクレイムの角度が固定であることが理由であり』


「かききれませーーーん!!!」


「……私よりスパルタやん……」

 ミガサさんが呆れた声を出す。


 ミラーさんはただ一方的に喋っているだけ。なんの配慮もない。


 ハンローゼは一回目覚めたけど、またすぐ寝た。


『この記述の正確性を保つために、古代語と呼ばれるハレル語を推奨する。ハレル語の記載を理解すれば図示の必要もない。ただ、言われたものを描けば魔法構成となる。それが私の師であるジェラハグドーム様が到達した真理。はい、ここまでで質問は?』


「全然記述が追いつきません!!!」

『質問は無いということで次に行く。古代語のなにが利点か。それは三種の文字を内包することだ。これは奇しくも古代魔術語と同じだ。古代魔術語も文字を三種内包する。ただ、それぞれの文字に互換はない。しかし似てはいる。これはどちらかが、どちらかを参考にしたということだが、ここではその論争の紹介は無意味なため省略する。結論だけ述べればハレル語を魔術用に改造したのが古代魔術語だ。つまり古代魔術語が派生した言語。ところがだ。あまりにも魔法用に改造しすぎたために、問題が起きた。これが』

 全然書けません。無理です。今講義してる部分は背景の話だから書かなくてもいいんだろうけど


「……ししょー? こんな話、私にも教えてないし。というか、よく起きてますね」

『……これは意地だ。私なりの意地。私がメイルにお願いをした。カイルに選ばせろと。その結果選んだハンローゼがこうだった。だから私は全力で応援しよう。しかしその応援は無制限ではない。これで無理ならばカイル、諦めなさい。あなたはハンローゼという未来を自分の手でつかみ取れ無かった。人間には得ようとしても掴み取れないこともある。そう思って諦めよう。そう【すべては神の意思】』

 途端に、影が、揺れる。


「え? し、師匠???」

【神の意思。ハンローゼ、ラウバイ。神を裏切り、聖を名乗る邪教の豚に仕える愚か者よ。あなた達は至らなかった。当然の結果】

 声が変わった。影が変わった。


 それにミガサさんが怯えて叫ぶ。


「まさか! メイルさん!?」

【妨害ぐらいは赦してね、ミガサさん。ミラーさんには寝てもらいました。私はリグルド様を尊重しますが、邪教の豚に嫌がらせぐらいはします】


 影はこちらを振り向き

【カイル、寛容に慣れるな。これ以上の猶予は与えない。覚悟しなさい】

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― 新着の感想 ―
[一言] ストーリーの加速と、設定開示(読者は設定ジャンキーで文字数が3つだからあのときの蕎麦屋の縛りになった意味もry)と、ミラーの(ミガサとカイルへの)不器用な愛情と、嬉しいのに喜べない状況のミガ…
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