魔法媒体とはなにか
女の子にモテたら嬉しいですか?→はい
勝手に未来を決められたら嬉しいですか?→いいえ
それだけである。
なのだが、その違いが分からない人達が多い。
「カイル、付き合って」
長身の女性。
この娘も学園生。
真面目で美形で、同性の女の子達からモテモテ。
魔法使いは女性が多いからこの学園も女の子の方が多い。だからそういう女性同士の付き合いもよくは見るけど、このイレフルードも女の子同士で付き合ったりしている。
男にはあんまり興味がなく、僕のことは単に魔法媒体が便利だからぐらいの関係……のはずなのだが
「イル様、こんなのに話しかける必要はありません。私が代わりにやります!」
いつもイレフルードと一緒の取り巻き、ファーミルが張り切って喋る。
「そこのカレー! イル様のお手を煩わせる前に黙ってやりなさい!!!」
このファーミル、本当に面倒くさい性格をしていて。ファーミルを無視してとりあえず僕はイレフルードに手を差し出す。
魔法媒体の能力は基本的に密着して発動するからだ。最低でも手は繋がないと意味がない。
なんだけど。
「あーーーー!!! イル様の御手を触ろうとするなんて!!!」
これである。
それも毎回これなんだもん。
「ファーミル、うるさい」
イレフルードの言葉に黙るファーミル。
「今日は遠隔の氷魔法に挑戦するから」
そう言うなり僕を包み込むように抱きしめてくる。
女性にしては長身、僕は背が高くないから、少し彼女の方が大きい。
香水のいい匂いにクラクラしていると、いつものように、そう、彼女はこれをやるとき、いつも小声で囁いてくる。
「わたしのものになりなさい。わたしの奴隷になりなさい。そうしたらきもちいいことしてあげる。下民のあなたに抱かせてあげるわ。他の女も使ってもいいわよ。だから私に従いなさい」
洗脳をするようにずっと囁くのだ。本当に怖い。またいい匂いに包まれながら、汗の匂いも混ざってくるからクラクラしてくる。
長身でも柔らかい身体。
本当に流されそうになるが
「いつまでくっついてるんだーーー!!!」
ファーミルが騒いで終了。
毎回これ。
「……ルーフェみたいな、クソビッチに靡いてはだめよ。またね」
そう言って、耳にキスされた。
『魔法媒体』という能力とはなんなのか。
触れるだけで魔法量が倍増する。というのは簡易的な説明で、実際はかなり複雑な話になる。
「そもそも『魔法量』とはなにか」
グリモアの学園に入りたてで、まだ僕には知識がない。
そんな僕の為に個別で授業が組まれたりしている。
「物事を知るためには、用語をしっかり抑える事です。よく混同されますが、『魔力』と『魔法量』は別のものを指しています」
僕は先生から渡された巻物を見ながら話を聞いていた。
「魔力というのは実は二つの要素があります。憶えていますか?」
「……え、ええっと。魔法量と、瞬発力……です」
巻物に書いてあったのでそのまま読み上げる。
「そうです。魔力と呼ばれるものは、魔法量と瞬発力の総合的な評価を言います。この『瞬発力』というのは同じ魔法でも、瞬発力が違う人が使うと、威力が変わります。同じ氷魔法でも範囲が違うなどです」
一回習ったんだけど、ここらへんの話は難しい。
「ところがです。氷の魔法だけでも魔法の種類は100種類を超えます。また、最近は合成魔法というものまで開発されており、『瞬発力』が低いなら低いで、他の魔法で挽回できてしまうのです」
威力は低くても、他の魔法を使えば挽回できると。それは確かに分かる話。
「次に魔法量。これがあなたに関わる話です。大抵の魔法使いの言う『魔力』とはこれを指します。魔法は魔力を使う。こういう表現が溢れているのは、魔力=魔法量を指しているからですね」
「ふむふむ」
そこらへんの話は何回か聞いてはいるんだけど、こんがらがる。
僕の『魔法媒体』は『魔法量』を倍増させる能力なのに『魔力』を倍増ってよく言われる。
「この魔法量というものについて。これは魔法を使えば使うほど無くなっていきます。
そして先程の『瞬発力』にも関わる話なのですが、強力な魔法を使うと一気に空になり気絶してしまう」
そう。ここはよく言われる。魔法量が少ないと使える魔法に制限が出ると。
「この魔法量が倍化するメリット……実際は倍どころじゃないんですが、これが魔法使いにとって重要すぎるのです。魔法量が多くあれば、基礎魔法を大量に使うこともできるし、強力な魔法も使用することも出来るようになる。魔法使いには様々な仕事がありますが、魔法量が関係ない職業は殆どありません」
それで、僕みたいなのが重宝されると。
「特にあなたを狙っている魔法使いは皆貴族です。宮廷魔導士に採用されればその未来は約束されます。流されることなく、自分の意志で未来を掴み取れ。そう、ミラーさんから言われています」
ミラーさん。
この人が僕の『魔法媒体』を見つけてくれた。
僕は大きく頷いて、決意していた。
授業が終わると、ひとりの女の子が待っていた。
「一緒にかえろー♪」
僕を取り合ってる女の子は5人いる。その中の一人ロミスニア。
他の女の子達がいる時は来ない。僕が一人になると唐突に来るのである。
どうも僕の行動パターンを追跡魔法で抑えてるらしいんだけど。
「帰りながら練習するからねー♪」
ロミスニアは僕の腕に抱きつきながらずっと魔法を唱えている。
魔法量が増えている状態に慣れると、実際に魔法量が底上げされる。
だからこういう風になるんだけど。
そんなロミスニア。
僕にまとわりつく女の子達はどっか壊れてる娘が多いんだけど、特にロミスニアは
「カイルはなにされたいの? なんでもしてあげる。お金欲しい?」
こんな感じ。
前もいきなり金貨持ってきて、顔面にぶつけてきたのだ。
「あんまり、そういうのはー」
「ここは頭おかしい女多いから、早く出て行った方がいいよ。私の故郷グラドニアに行こう」
結局これ。
みんな誘ってくる。
理由は能力。
(……本当にちゃんとしなきゃ)
僕は寮に帰りながら色々考えていた。