ミガサの教え方
ミラーさんからの手紙。
それは読めない言語で書かれていた。
「師匠は性格悪いからハレル語で書くんです」
ミガサさん。
ハレル語。
「古代語のことでしたっけ?」
「そうです。師匠はこの言語が一番正確に自分の趣旨が伝えられると愛用しているんです。私もハレル語は読めるから良いものを、割と苦情来るんですよ。こんなもんで返事すんなって」
ミガサさんが怒ってる。
「んで、3日!!!??? ハンローゼは何年学園にいるのよ!? それで憶えられねーんだぞ!!! 師匠、私が古代魔術語を10日で憶えたからって、当たり前だと思ってんじゃないだろうな!?」
10日で憶えたって。
「とはいえ、師匠の命は絶対です。ハンローゼ……あれ? あいつは?」
あ。
「……逃げましたね」
呆れた声のラウバイ。
いつの間に。
「……連れ戻しなさい。カイル、寝ないでやるわよ」
ハンローゼはすぐに見つかりました。
先生も警戒していて、部屋から走って逃げようとするハンローゼを取り押さえていた。
「3日とかむりーーー」
泣いてるハンローゼを見下ろしながら、ミガサさんは
「泣きたいのこっちだわ!!! お前覚悟しとけよ!!! 寝る時間なんてねーからな!!!」
ミガサさんはそう言うなり、現代魔法語の教科書を開き
「私が古代魔術語覚えた時はな! 塔の最高顧問とスポンサーの二人に囲まれて『お前覚えなかったら分かってんだろうな?』みたいなプレッシャーの中で無理矢理詰め込まされたんだよ!!! あれに比べりゃどんな環境もマシだわ!!!」
そしてハンローゼに
「ゼル! アビダ! クエン! この三単語が基本だ! さあ書け!」
「……やだ、勉強やだ。」いつものように泣いて抵抗するハンローゼに
「じゃあ魔法使いなんて諦めて国に帰れ! 王族だからチヤホヤされなれてんのか!!!??? 私が教えて無理なら学園に言って退学させてやるよ!!! もう誰が教えても無理だとな!!!」
ミガサさんの言葉にポロポロ泣いているハンローゼ。
「で、でも。分かんない。そんな、急に言われても……」
「急じゃねえ!!! 二年やってたんだろうが!!! これで無理なら諦めろ! 退学届けだせ! そして両親に馬鹿でごめんなさい、って謝りにいけ! いや、馬鹿じゃねーな。怠け者でごめんなさい、って謝るんだよ! お前努力したことねーだろ!!!」
僕もラウバイも、先生もここまでハンローゼに言ったことはない。そのせいか、ハンローゼは泣きながらも座り、書こうとする。
「違う! ゼルのスペルはそうじゃない! 基本を間違えているから読めないんだ! いいか!泣こうが喚こうが! お前は憶えるまでここから出さないし! 三日たって憶えなかったら、お前は両親に怠けたことを詫びに国に帰るんだ!!! 国と両親に、せっかくの機会なのに遊んで過ごしてなにも掴めませんでした! って泣きながら詫びるんだよ! それが嫌なら憶えろ!!!」
ミガサさんの強すぎる言葉。でもハンローゼは、指摘されたゼルのスペルをノロノロと直していく。
「よし! 次はゼルのスペルの発展系だ! ゼルアルスタを書け!」
ミガサさんの教え方はスパルタそのもの。でもその学ばせ方は物凄い分かりやすかった。
基本形を書かせ、それの発展系を教えて、どのように分岐していくのか教えていく。
「……めっちゃ分かりやすい」
「……ハンローゼもちゃんと理解してるし」
言い方はスパルタだけど、教えてる内容はとてもやさしい。
これ本当に3日で教えられちゃう?
そんな期待もあり、ラウバイと僕も一緒にお手伝いをした。
その初日の夜。
「無理」
ミガサさんの一言。
ハンローゼはうつ伏せになったまま気絶している。
ぶっ続けで勉強した結果、気絶。
「気絶したから無理じゃない。私も徹夜で憶えられるとは思ってない。3日が短すぎる。10日あれば出来る。ちょっと師匠と話をする」
10日。それでもすごいなー。思いながらミガサさんを見る。
ミガサさんは遠距離会話の魔術装置を耳にあて
「……あ、師匠。珍しいですね。起きてるなんて……あ、あの手紙の件は後でキレますからね……え? ああ、そう。3日は無理です。10日は…………。は?」
ミガサさんは絶句する。
「10日あれば出来る言うとるんじゃ!!! 10日待てんのか!!!!」
向こうの声は届かない。
でも会話内容からわかる。10日じゃダメだ。と言っている。なんで? という困惑はこちらにもある。
「……え? ええ……? はぁぁぁぁっっ!!!????」
絶叫。
「なんでそんな大事なこと私に言ってねーの!!!??? 世界巻き込んだ大事じゃんか!!!」
あ、なんか向こうの声も聞こえてきた。なんか向こうも大声出してる。
「てめえ!!! 師匠だからって調子にのんなよ!!! やれよじゃねんじゃ!!! 無理難題押し付けて、出来ねえもんはしょうがねえと匙投げられるこっちの身になれ!!!」
叫ぶミガサさんの前に突然、蜉蝣のような影が現れ
『騒ぐなビッチ。そこまで言うなら仕方ない。私が教えてやるよ』
ミラーさんの声が部屋に響いた。




