聖女の手先
今回は全て三人称で、カイル達はでません。
知識の塔。
世界最高峰の研究施設を目指して七年前に設立された。
僅か七年でその名声は世界中に轟き、ありとあらゆる知識が集まりつつある場所。
その最高顧問であるニールの部屋に二人の美女と1人の老人がいた。
普段は知識の塔の最高顧問として悠然とした態度を取っているニールは冷や汗をかきながら3人の言葉に聞き入っていた。
「メイル、端的に言えば敵は聖女そのものではない。聖女の勢力が広がった最大の原因は我等の信仰の乱れ。敵は我等にある」
老人の名はリガルド。
この世界でもっとも信仰者数の多い『神教』のNo.2。
だが、実質神教の動きはすべてこのリガルドが決めており、彼の意向が神教の意向だった。
「ですがリガルド様。聖女の勢力がこの大陸に本格的に上陸すれば止めようがありません。現に既にアラニアは信仰転換しております」
メイルと呼ばれた美女が応える。
それににこやかにリガルドは応じ
「究極的に言えば、聖女の勢力拡大も神の意向。我等が全力を出した結果がそれならば、それが答えです」
「……つまりー」
黙っていたもう一人の女性、ミラーが口を開く
「彼が聖女に取られてもいいとー?」
その言葉に眉を釣り上げるメイル。
だがリガルドは
「そう捉えて構いません。神は怠惰を憎みますが、努力した結果を褒め称えます。こと、ここまで及んだ努力が報われないとするならば、それは最早、神の意向です」
「……ミラーさん。ハンローゼはどうなんですか?」
メイルの言葉に
「ミガサを送り込みましたー。天才ではあるけれど、言語習得に苦労した人間です。彼女の他には教えられないでしょうねー。ただ、正直私には理解できませんー」
ミラーはゆっくりと目を瞑る。
「なぜ聖女の手先と化したビネスト公国のハンローゼに言語習得の手伝いまでさせることを認めるのですかー? 妨害ならば分かりますがー」
ミラーの言葉にリグルドは笑みを絶やさず
「それこそが神の意思だからです」
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「感づかれたと考えるべきです」
「……学園を卒業させないのは感づかれたから?」
聖女と呼ばれる女性が支配する大陸。
この大陸内の全ての国はこの女性に忠誠を誓った。
だが、それが故に彼女はこの大陸内の揉め事以外に力を振るえなくなった。
その力を強化することを探していたときに捉えた情報。
それが『魔法媒体』だった。
「いえ、それはハンローゼの学力の問題でして……」
呆れた顔をする聖女。
「……だとしたら?」
「はい。識都の知識の塔に、神教のトップであるリグルドが訪れ、メイルとミラー、ニールを交え懇談しているそうです。恐らくハンローゼの処遇の件かと」
「……ハンローゼがバレた。カイルは他の国に行かせると?」
「そこなのですが、それが読めません。今まではハンローゼに対して、こちらの意向を汲んだラウバイのバックアップもあり順調に進んでおりました。ここから妨害と言っても……カイルはかなり乗り気だと聞いておりますし」
「そう。ハンローゼの排除までいってから動きましょう。下手に動くのは無し」
「かしこまりました。監視を続けます」
聖女は憂鬱そうな顔をしながら
「……しっかし、ハンローゼは本当にあれね……」
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リグルドとメイルが知識の塔を出た後に、ニールとミラーは二人で話をしていた。
「……ハンローゼが聖女の手先だったのか……?」
メイルとミラーは知っていたが、ニールが聞かされていないこと。
「はいー。ハンローゼ、というかー。ビネスト公国がですー」
ミラーは既に眠そうにしており、首がゆらゆらしている。
「南の小国。俺も行ったことがあるが、あそこは帝国本国に近い。なぜだ」
「なぜだ、もなにもー。聖女の大陸からだとー。南の方がちかいですしー。交易もあるんですからー。交流もおおいー。それで条件がそろったのかとー。あとはラウバイもですねー。あれも聖女のスパイですー」
ミラーの言葉に愕然とするニール。
「……そ、そんなに付け込まれているのか」
「はいー。でもですねー。私から言わせればー。魔法媒体なんて能力はー。受動的な生き方してたら不幸になるんですー。自分で決断してー、つかみとらないとー……。だからメイルに相談したんですー。カイルに選ばせてやってほしーとー」
「……それをリグルドは認めているのか」
「むしろー。手助けまでみとめますー。あのひとは本当にわかんないですねー。メイルはめっちゃ尊敬してますけどー。私からみたらー、単に投げやりなだけな気もしますー。あのひと、神なんていないとか思ってるんじゃないですかねー?」
その言葉に顔を引きつるニール。
「……リグルドの信仰心はメイルが保証している」
「わたしはメイルすきですけどー。信仰心を合わせるつもりはないですー」
それに頷くニール。
「……そうだな。それで? ミガサが教えればうまくいくのか?」
ニールの言葉に殆ど半分寝るかのような素振りで
「……ハンローゼがー、ここまでー、バカなのは想定外ですー。だからー。3日の猶予あたえましたー。3日でハンローゼがー、できないよーならー。それはハンローゼがわるーーーい……」
そのまま、ミラーは机にうつ伏せになって寝た。
「3日!? 3日で教えられるのか!? 無理だろ!?」
ニールが騒ぐが、ミラーは爆睡していた。




