ミラーからの宣告
長い間休載期間を挟みすみませんでした!
今日から再開です。
「我々グリモアの学園は帝国の庇護におりません」
学園の先生が強い口調で話す。
僕とハンローゼが呼び出されて、また試験の話かな? と思ったら全然別でした。
先生は魔法装置に向かって話をしていた。
帝国本国から「カイルの取り扱いで国が揉めてる。本国が介入するから差し出せ」と連絡が来たそうです。
「カイルもこの場所に呼んで聞かせています。本人の意思は固い。既にビネスト公国への挨拶も済ませています。我々としても帝国への配慮として卒業条件を変えたりはしていますが、それが限界です。そこまでです」
先生、なんか完全にキレてますね。
声だけは最初冷静だったのが、今では遠距離会話装置を振り回すように怒鳴り始めてる。
「いいですか! 我々は中立! 帝国内の争い事は望みませんが! 支配下にはいません!!! そのような願いを聞く筋合いはありません!!!」
『バンッッッ!!!!!』
思いっきり壁に投げつけられる遠距離会話装置。
「先生、それ壊れる」
ハンローゼの冷静な突っ込み。
「知ってます! それはともかく! 学園はあなた方の意思を最大限尊重しますから! 早く卒業するように!!!」
早く卒業。
ハンローゼが試験に受かればいつでも卒業できるようにしてもらった。
そしてハンローゼも僕の力のブーストを使わず、底上げされた能力だけにすれば使いこなせるようになる……はずだった。
なのだが
「むーーーい!!!」
『ゴルゥゥゥゥ!!!!!!』
またなんだか分からない、空飛ぶ生き物が来ました。
僕のブースト無しだからか大きさはそうでもないけど、なんか狂暴そう。
因みに呼ぼうとしたのは小鳥です。
「かえれーーー」
『ぶおぉぉぉぉる!!!!』
全くコミュニケーションは通じない。
立会の先生は呆れた顔のまま
「流石にこれに合格は出せません。なんでもいいからコントロールできるようにしてください。呼ぶだけの能力でもいいのです。せめて呼ぶ種類の限定を……」
仰る通りです。
「もっと言えば使役魔法なんて学園出身で前例がないのですからなんとでもなります。なにより問題なのは! あなたの学力成績!!!」
「むーーーー」
それに触れんなよ。みたいな顔をするハンローゼ。
そう、こんな揉め事になっても卒業させない最大の理由。
「魔法のコントロールは不完全なうえに! 魔法書を全く読めない状態で卒業なんて!!! とてもではありませんが認められません!!!」
ごもっともです。
学園の意地に関わることなんだよね。帝国全ての国が注目してる状況で、ハンローゼがこんな状態で卒業だと、なに教えてたんだ、お前ら。という話になってしまう。
だから最近は教師はかなり強めに教えてくるのだが、それに対するハンローゼの態度は
『脱走』である。
全然勉強する気ない。
「ハンローゼ、だから魔法書読めるようになればいいって言ってくれてるんだから」
「むーーーーー!!!」
勉強が苦手なのは分かるんだけど。
そもそもハンローゼはなんというか……
「多分なんだけど」
横からの声。
ラウバイが腕組みしてる。
「ラウバイ」
「ハンローゼはコミュニケーション能力に難がある。それは伝える能力だけではなく、他人の言葉を理解するのが難しいんだと思う」
……あ。
「つまり。先生がどんなに頑張ってもハンローゼに伝わる言葉を使わないとダメ。試しに私はハンローゼにこういう絵本作ったら、あっさりと理解した」
そう言って絵の描いてある紙を見せてくる。
「……す、すごい。こんなの作ったの?」
どれだけ手間かかるんだろ、これ。
「でもこんなので教えてたら一年でも終わらない。カイル。あなたが本気でハンローゼにお世話になると言うならば、彼女に理解出来るようにあなたが工夫しなさい」
ラウバイの言葉にめっちゃ頷くハンローゼと先生。
いやいや。
「……僕、授業なんて……」
できません。と言おうとしたら
「そうです。カイル。あなたはもう決断をした以上本来ならば学園でやることは残っていません。ですが、ハンローゼがこうなのです。あなたは今から勉強して魔法の教師の資格を取りなさい」
目を輝かせる先生。
教師の資格???
「教師の付き添いということであれば、多少問題があっても卒業は緩くできます。ハンローゼのコレをなんとかするよりも、あなたを教育したほうが早い」
僕とハンローゼの教育。
学園はそれに向かって動き始めた。その一方で国の争いは激しくなっていたそうで。
「ししょーも意味分かんないんですよ。一度塔に引き取るとか、やり方は色々あるでしょうに」
ミガサさん。
忙しい、という割によく学園にくる。
「『知識の塔』は学園より力がありますからね。塔所属にさせてしまえば各国のちょっかいとかはねのけられるのに」
ミガサさんの話を聞きながら僕は勉強中。
「んで? 私は師匠から言伝書いた手紙もらって、それをハンローゼに伝えたいんですけど?」
ここは僕とハンローゼの勉強部屋。なのだがハンローゼはいない。脱走しました。
今ラウバイが鬼の表情で追いかけ回してる。
「本当に勉強嫌いみたいで」
「私引く才能みたいなやつなんですかね。ぶっちゃけ魔法言語なんて憶えなくていいやつですよ」
ギョッとした目でミガサさんを見る。
この人はこのグリモアの学園を首席で卒業して、今は世界最高峰の研究施設『知識の塔』所属。
そして、世界の魔法を変革したミラーさんの唯一の弟子。
そんなエリート中のエリートの発言とは思えず
「……でも、ミガサさんは簡単に読めるからそう思うのでは……?」
天才だからそこらへんが分からないのかな? と聞くと苦い顔をして
「……まあ、ハンローゼほど酷くはなかったけれど。師匠から言わせれば全然ダメだそうよ。私は才能でなんとかしてきたからね」
才能で。
「で、でも。本をいっぱい書いてますよね?」
「現代魔法語でね」
現代魔法語。
学園で習う言語。
魔法記述に必要なことはこの現代で教わるのだが、難易度としてはそこまでじゃない。
ハンローゼはここで躓いてはいるのだが。
「古代語や古代魔法語は不得意でよく師匠と喧嘩するわよ。だから言語なんてー!!! と叫ぶハンローゼの気持ちも分かる。彼女の魔法に関しては現代魔法語学んだってなんの意味もないし。現代魔法語は召喚魔法の記述になんの役にもたたないわ」
ミガサさんは溜め息をつき
「それにしたって、問題なのはあのヤル気のなさね。……ああ、来た」
ラウバイがハンローゼを引きずって連れてきた。
「やーだー! べんきょー、やだー!」
ハンローゼの悲鳴を無感動に聞きながら、ミガサさんは巻物を広げ
「ハンローゼ、私の師匠であり知識の塔の理事であるミラーより言伝を伝えます。知識の塔として、魔法を理由とした争いを望んではいない。一刻も早い事態の収拾のために」
ミガサさんは一度言葉を途切れさす。
そして
「……我が弟子ミガサの協力を得て、3日で言語を習得し卒業せよ…………師匠!!! きいてねーぞ!!!!! こんな大事なこと事前に言えや!!! 手紙は本人の前以外で開けるな、ってそういうことかー!!!!!!」
怒るミガサさんを見ながら
「……3日って」
そこにいる全員が呆然とした。
長い期間休載挟み申し訳ありませんでした。
残り数話ですが、お付き合い頂ければ幸いです




