魔法媒体の隠れた効果
「帝国内で揉め事になりそう」
「はあ」
ハンローゼの留年が決まった翌日。
ミガサさんが突然学園に来た。
「グラドニアがここに来て急に『魔法媒体』について問題視してきた。また、手紙であなたにアプローチしていたらしいマリネス公国もグラドニアに同調している」
「……メルィの件ですか。でも今更では?」
「ビネスト公国があなたとハンローゼの事を正式に発表した。その能力はドラゴンの使役……まあ、実態は呼ぶだけなんだけど。それにしたって強力なのは間違いない。そして、ロミスニアの必死なアピールがやっと功を奏した。今更だけど『魔法媒体』の価値にやっと気付いたみたい。間抜けな話ね」
「……で、でも。僕はもうハンローゼって決めていまして」
「素晴らしいわね。師匠も『あの子が決断したことを尊重してあげたい』だそうよ。それはそれとして問題があってね。ハンローゼは強力だけど、留年が決まった。つまりその能力は使いこなせていないということ。それは『魔法媒体』が強力すぎて使いこなせていないんだろうとなるのは自然。そんな強力すぎる力は、自分達でも使いたい、みたいなね」
「……それ、でも元々みんな伝えていましたよね……?」
決めてからガタガタ言われても
「そう。あなたにとってはそれでいいのよ。判断を変える必要はないわ。それを言いにきたの」
グリモアの学園は帝国に所属していない。帝国と敵対している聖女の国々からも学園生を受け入れている。国々の争いからは完全に自由というのが建前になっている。
「ハンローゼの卒業に関しては、当事者のビネスト公国からも『学園生の卒業の可否は全て学園に決定権がある』とお手紙を頂いていますし、我々もどこから抗議が来てもそのつもりです。ですが、それにより帝国が乱れるのもまた本意ではありません。ですので、年にとらわれず、学園はいつでもハンローゼの試験を行い、認定すればすぐに卒業を認めます」
つまり、学園は学園なりに「国巻き込んだ争いごとに巻き込まれたくない」との事です。
んで、このハンローゼ。
「それで? カイル。ハンローゼはどこにいるのですか?」
先生が呆れた顔で聞いている。
そう、ここはテスト会場。
僕とハンローゼが呼び出されて来たんだけど、ハンローゼが来ない。
「……呼んできます」
ハンローゼには友達がいない。最近ラウバイが色々面倒みてくれているのだが
「行き先は知らない」
ラウバイは寮の入口で疲れていました。
「あの根性なし、朝から『もうやだ、テストやだ』って言って部屋から飛び出したのよ。行き先不明」
ハンローゼがちゃんと伝わる言葉でラウバイに伝えただけでも凄い、と思ってしまうレベル。
「割とグラドニアは騒いでるみたい。学園は『卒業認定はいつでもやる』って言ってるし、僕としても協力したいんだけど」
「ロミスニアが来て協力を求められたわ。ハンローゼの邪魔をしてって。あまり表立って手伝えなくなるわね」
ラウバイは手を顔で覆いながら
「ハンローゼのこと、よろしくね」
学園の周りは荒野しかない。
ハンローゼはあっさり見つかった。
「ううう……」
学園出た先にデカい鳥が『グエーーー』と鳴いていて、そこに向かったらいた。
「ハンローゼ。先生が待ってるよ。学園に帰ろう」
「……やだ、やだ。もうやだ。試験、嫌い。落ちるの、やだ」
ああ。それはわかる。
出来ないことはともかく、落ちるというのは確かにキツい。
「……そうだね。だったら僕と一緒にやろう」
「……うん、うん。一緒。頑張る」
隣で鳴いているデカい鳥を見ながら……って、あれ?
「え? あれ? なんでこんなの呼び出せてるの???」
「?????」
ハンローゼは朝からいなかった。僕と一緒に魔法を使っていない。
なのに、ここには大きな怪鳥がいる。
「……あれ?」
え? あれ?
そこに、ラウバイが慌てた顔でこっちに走ってくる。
「ラウバイ! ちょうどよかった。あの、この鳥は……」
「ええ! そうよね! ロミスニアもそうなの! あの娘明らかに魔法量が底上げされている! 秘術の使用に成功した。あなたの『魔法媒体』は一時的な増強だけではない! 何度も繰り返すことで魔法量の底上げになるんだわ! だとすれば……」
だとすれば。
つまり
「国への囲い込みはこれによりとんでもない効果を生む。一時的な効果ならばまだしも、国所属の魔法使い全員の底上げまで可能なのよ? いい? あなたの評価が国によってマチマチなのはあくまでも『一時的な効果しかない』からよ。一人が強化されても強国にとってはあまり意味が薄い。でも『魔法媒体』が、能力の底上げにも使えるならば全然意味は変わる!」
ラウバイの言葉に
「……わ、……わ」
慌ててるハンローゼ。
「……ハンローゼ。やることは変わらない。試験に合格する。でもこれで分かったけど、僕と手を繋がない、現状のハンローゼの能力で十分な力があるよ。今の状態でコントロール出来るように頑張ろう」
「うん! がんばる!」
笑顔でハンローゼが頷いた。
夜、ラウバイとロミスニアが二人で僕の部屋に来た。
ラウバイは微妙な顔をしている。
「あのね! ラウバイから聞いたと思うんだけど! 私の力が底上げされてるの! 聞いたら他の娘もそうらしいわ!」
にこにこしてるロミスニア。
要は「きっとこれで国は考えを変える! だからまた来て欲しいの! 国も前向きになったわ!」
微妙な顔をしてなにも言わないラウバイ。
なので
「ごめん。もう今更ビネスト公国に不義理は出来ないよ。ハンローゼにお世話になるのは変わらないから」




