卒業できないハンローゼ
お世話と言ってもまだ学園から卒業できるわけではなく。
ハンローゼが卒業したら僕も卒業ということになった。
なのだが、このハンローゼ。
「うーうー。もう国に帰る……」
半泣き。
学園側は
「ちゃんと試験に受かって、それから帰りなさい」
国も
「宮廷魔導士になるためには細かいコントロールも必要。ちゃんと学園でそのあたりを学んでから来なさい。急いではない」
そうで、二つとも「ちゃんと魔法コントロールしてから卒業しろ」である。
ハンローゼだけが
「もう帰る」と言ってる。
「ハンローゼ。ちゃんと試験受けよう?」
「うううううっっっ!!! こんなの!!! いやがらせーーー!!!」
卒業には色んな段階がある。
単にいるだけでは卒業できない。
実践と学識が身についてから卒業を認定される。
また、これは「優秀じゃないと卒業できない」わけでもない。
能力が低いなら低いで「キチンとコントロール出来れば」それでいいのである。
グリモアの学園が恐れているのは魔法による力の暴走。
きっちりとそこが出来ていれば、魔法能力が低くとも問題はない。
そしてこのハンローゼ。
全然コントロール出来ない。
『クケェェェ!!!!』
学園に鳴り響くデカい鳥の鳴き声。
呼べはする。
でもそのあとがなにも出来ない。
そして教師は「呼ぶことしか出来ないのもまた能力。それはそれでいい。呼ぶ個体を限定したり、そういうことは出来ますか?」
とやったのだが、これもダメ。
ハンローゼはリリクラという小鳥を呼んだはずなのに、そこで叫んでる巨大な怪鳥が来たわけです。
「ううううう!!! なんでぇぇ!!! むりぃぃぃ!!!」
魔法制御もダメなのだが、ハンローゼは学問でもダメだった。
「ハンローゼ。あなたの魔法制御の問題点はやはり現代魔法語の不習得にあります」
ハンローゼはグリモアの学園で必須科目の現代魔法語が苦手。
その結果魔法書がマトモに読めない。
「六大魔法のようなメジャーな魔術ならば、現代魔法語を読めなくともなんとかなります。ですが、あなたのような稀少な魔法に関しては、現代魔法語はもちろん古代魔法語も習得しなければなりません」
先生の言葉に涙目になるハンローゼ。
僕の魔法媒体によるブーストがあっても、制御できなければ意味がない。
「言葉苦手。国で勉強する……」
「現代魔法語はグリモアの学園ぐらいでしか教えません」
ハンローゼは半泣きのまま練習をしていた。
「まさかの落ちこぼれ」
ラウバイ。
元々ラウバイはハンローゼを応援していた。
今でも協力的でハンローゼに勉強を教えたりしている。
なのだが
「人が教えてるのに、落書きして聞いちゃいないのよ」
やる気がない。
「ハンローゼにはとっとと国に帰って欲しかったんだけど、あれはダメね。まさかあなたの魔法媒体が徒になるとは」
それは思う。だってここまで制御出来ないのは、下手に力が増えてるからだと思うよ。
魔法の力が弱ければそもそも大きな動物は呼べないようなのだ。
だから僕抜きならば、来る動物は限定される。
でも、国は「宮廷魔導士」を望んでおり、あくまでも強力な魔法使いである必要がある。
学園もそのためにそういう教育をしている。
その結果、ハンローゼは使いこなせない強力な力に振り回されているのだ。
「僕も教えてはいるんだけど」
現代魔法語は僕も学んだ。だから、ハンローゼに教えられるのだが、ハンローゼは全然勉強に集中できない。
「ちょっと可哀想なのよね。だってハンローゼの使役魔法は特殊でしょ? 現代魔法語勉強しろって、そもそも現代魔法語で使役魔法に関わる記述なんてほんの僅かよ。それよりも古代魔法語の方が参考文献が多い。それなのに現代魔法語と、古代魔法語には互換性が無いんだもん。そら、身も入らないわよ」
なるほど。特殊だからこその悩み。
でも
「ロミスニアの追跡魔法も特殊だけど、ちゃんと現代魔法語読めるじゃん」
僕の言葉に、苦笑いをして
「私が親から言われてもロミスニア本人を嫌いになれない理由はそれ。ロミスニアはね、真面目なのよ。バカみたいに真面目。必要がなくともちゃんと勉強できてしまうのよ。素晴らしいわ」
ラウバイと話をした後に、ハンローゼと僕は先生に呼び出された。
「先に言います。本年の卒業はこのままでは無理です」
僕は「だろーなー」という顔。
ハンローゼは「ガーン」という顔をする。
「お国と相談してください。どうするかを。学園としては留年してでも制御は必要という判断です」
ハンローゼは半泣きで両親に報告したが、すぐに
『急いでいない。しっかり勉強しなさい』という言葉でそのまま泣いて寝た。
そして部屋にはラウバイ。
「なんで部屋に???」
「ロミスニアは諦めてないわ。まだ国に手紙出してるみたいよ。気をつけなさい」
妖艶に笑うラウバイ。
「今から判断変わるの?」
変わったところで感はあるんだけど
「ロミスニアの追跡魔法の価値が分かってないだけよ。ロミスニアは古代書を読み込んでとんでもない魔法を掘り起こそうとしている。それは、追跡すらしない魔法。望んだ場所の会話が筒抜けになる魔法よ。これが出来るなら諜報の仕事が激変するわ。どうもそれができるみたい」
ロミスニア凄い。
「普通じゃ出来ない。でも魔法媒体なら、ってとこね。気をつけなさい。ハンローゼを選んでね」
そのまま胸を押し付けてくる。
最近ラウバイはこうやってぷにぷにしてくるのだ。
顔が毎回真っ赤になる。
「国は愚かね。ロミスニアには同情するわ」
僕の耳元で、舌を伸ばし、少し耳を舐めながらラウバイは囁いた。




