魔法媒体という能力
今日から新連載です!
「カイル! 今日は私の部屋に来て勉強しようよ!」
「あー! なに抜け駆けしてるの!? カイルは私と一緒にいるの!!!」
「かいるー♪ 抱っこしていいー?」
僕に絡みついてくる美少女三人。
平凡な宿屋の息子。お金なんてないし、容姿も平凡だと思う。
でも、このグリモアの学園で美少女達にモテモテになっている。
それは僕に対する好意というよりも、その能力。
「おお! カイル! 極炎魔法のテストをするからこっち来てくれ!!!」
筋肉ムキムキの教師
「それ終わったらこっちだ。探索魔法の臨界点を探るからな」
美形の男性教師。
そう。僕がモテる理由は
『カイル! 夜は私のところに来てね!』
魔法媒体という特殊能力のおかげだった。
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魔法。
1000人に1人の割合で使用できる特殊能力。
この魔法により、手から炎を出したり、物を凍らせたりできる。
特に水魔法と氷魔法は生活に必須で、その才能の持ち主は生涯豊かに暮らせることが約束される。
魔法の素質はメジャーなものは『火・水・風・土・光・闇』の『属性魔法』と呼ばれるもの。
これ以外にも特殊な素質がある。
僕は属性魔法ではなく、特殊な素質。
その特殊な素質とは
『魔法媒体』
この世界には魔法の素質がある子供が無償で通える学園がある。
でもそれは「魔法が使えれば」である。
それがキッカケで学園にスカウトされるのだが、僕はこの『魔法媒体』の能力に全く気が付かないまま、宿をやっている両親の手伝いをしていた。
そこそこ裕福な暮らしでなんの不満もない。あるとしたら、この宿を継ぐ長男と仲が悪いので、いつかはここから出て行かないとなー。ぐらいである。
漠然とそんなことを思っていたら、ある時泊まりに来たお客さんが僕に話しかけてきた。
「あら~? あなた珍しいですね~?」
酷くノンビリした声。
豊満な身体の女性。服装からして魔法使いなのは分かる。
「珍しい? ってなにがです? 師匠?」
隣にいる女性が話かける。
師匠と弟子。
見た目は同じぐらいの年に見えるけど
「『魔法媒体』の素質持ちですよ、この子」
その瞬間、僕はなにかに探られるような感触を覚え、悲鳴をあげる。
「うわ!?」
「マジだ! 『魔法媒体』持ちじゃないですか!?」
弟子の方の人がなにか魔法を使ったらしい。
「それも『魔法媒体』しかないタイプですねー。これだと本人も他人も気付きませんよー」
「学園に報告しましょうよ! 『魔法媒体』なんて、伝承通りなら……」
弟子の喋っていることを、師匠と呼ばれた女性は止め
「今の生活は幸せですか~?」
違うことを聞かれる。
「……え?」
「これから『魔法媒体』について説明しますが、まあ基本的にはあなたにはなーーーんにも出来ません。『魔法媒体』は能動的になにかをする能力ではないのです。だから、あなたが今の生活で満足しているならば、こんな能力のことは忘れて過ごすことをお勧めします」
「師匠マジで言ってます!?」
「ええ。『魔法媒体』は能動的になにかをする能力ではない。記録を見てもこの能力の持ち主は大抵悲惨な目にあっています。受動的な生き方は人を幸せにはしない」
そう言いながら、改めて僕の目の前に来て
「宿屋の生活は快適でしょう? 不満が無いならば忘れなさい。受動的な能力である以上、決断は能動的にするべき」
ノンビリとした声の人は、この時には普通の喋り方になっていた。
「決断する上で言いましょう。あなたの『魔法媒体』という能力について」
その人は、まるで僕を憐れむような顔で
「あなたに触れると魔法量が倍増します。魔法量というのは天性で決められたもの。多少の努力で若干は変わりますが、倍半分なんて変わらない。そして我々のような研究者の魔法使いはともかく、冒険に出る魔法使いにとって魔法量は死活問題。あなたの確保には争いが起こるでしょうね」
後で知ったが、僕の才能を見つけてくれた人は『知識の塔』という世界最高峰のアカデミアの人で、『魔法の革命者』と呼ばれていた人だった。
その人は僕に手紙を渡してくれて
「現状を変えたいと決断したなら、この手紙を持ってグリモアの学園に行きなさい。そうでないなら忘れなさい」
まるでそれに合わせるように、僕と兄の仲はどんどん険悪になっていた。
僕の中で「いざとなれば宿から出て行く」もいう気持ちが目覚めたから、というのが大きい気がする。
兄が継いだら僕はどうしたらいいだろうか?
という気持ちがずっとあった。宿屋の息子として、宿屋以外の仕事なんて出来そうにないし、他の宿屋に就職というのも考えにくい。この規模の宿屋なんて基本的には身内でやるものだし、大規模な宿屋ではやることが違いすぎる。
だから
「兄さんと上手くいく自信がないから、僕は出て行きます」
手紙を預かってから60日。
両親に相談したら、顔を真っ青にして止めてくれた。
「一応行き先はあります。紹介状もあるので。頑張ってきます」
両親は三日に渡り止めてきたが、僕が「兄もやりにくいと思いますし」と喋っている時に
「カイルが決意してそこまで言ってくれているんだ。行かせてやってくれ。カイルが出て行かないなら、俺が出て行く」
と長男が入ってきて話が終わった。
両親は僕に十分な金貨を与えてくれて、送り出してくれた。
馬車でたどり着いたグリモアの学園。
紹介状が無いと入れない施設だが、その手紙を渡すなり驚かれ奥に通された。
そして10人以上の魔法使いの教師に囲まれ、身体を探られ
「君をこの学園に迎え入れる」
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部屋に貼っている標語
『未来は自らの手で掴み取れ』
これは、僕の才能を見つけた人からもらった手紙からとった。
僕の能力は、他の魔法使いの能力を倍増するもの。手を触れて魔法をつかうと、限界を超えた結果が現れる。
だから僕を囲おうとする。
それに対して、僕は出来るだけ自分の意志で……
「かいるー♪ あけるよー♪」
ドアを勝手に開けて入ってくる美少女。
土の魔法使いルーフェル・アルテイン・ティオーナ
貴族の三女で、渾名はルーフェ。
クリクリした目で、貴族だというのに平民の僕にも普通に接してくれる。
というよりも……
「えへへ。今日もお勉強しよー♡」
そう言って僕に抱きついてくる。
身長が低いのに……その胸の部分が大きい。
それをプニプニ押し付けられたら、その断れません。
勉強というのは魔法の練習。真面目に練習だから勉強なのだ。
土の魔法には、上位の大地魔法というのがある。
この大地魔法は、土魔法を使える人の中の一割未満しか使いこなせない。
ルーフェもそうだった。それが僕と触れ合ってからは使いこなせるように。
そしてこのルーフェ、普段は明るい娘なのだが
「あのね、今日も淫乱ビッチどもが話しかけてたけど無視するのよ? カイルは私のパートナーだからね? わかった?」
グルグルしたような目で話してくる。
部屋の中で二人キリだと、かなり危ないことを喋ってくる。
怖い。割とキレると怖い、というか、底知れない怖さがあって、なんか逆らえないのである。その結果いいなりになってしまうこと多数。
『未来は自らの手で掴み取れ』
そうですね。掴み取りたいです。このままじゃ流されて終わりそうだし。
「じゃあ練習だー♪」
僕に抱き付いたまま発動する魔法。
ルーフェの魔法が強力になっているのは自分にも分かる。
僕自身にはなんの能力もないが
「ふふふ♡ これなら! 宮廷魔導士になれる!!!」
野望でぎらついた目をするルーフェ。
そうなんですよ。この女の子達、みんな野望があって僕を利用しているのは丸わかり。
僕自身とかどうでもいい。
なんだけど
「カイル! 一緒に宮廷行こうね! 実家には話通してるからね!!!」
周りの女の子達が勝手に未来を決めて行きます。僕はどうしたらいいんでしょうか?