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走れ走れ走れ


 店を飛び出ると綾波は遥か彼方を走っていた。


「結構早い……でも」

 雪乃に追い付きたい……そう思っていた俺は、せめて足の速さ位はと小学生の頃から速く走る為の知識と多少の練習をしてきた。


 今なら、雪乃に追い付ける程度には速い……。

 俺は一度深呼吸をし、綾波に向かって走り始めた。


 そして走りながら考えた。


 捕まえて……それから……どうしよう……って。


 いや困った……妹に急かされた追いかけ始めたのはいいけど、何も思い浮かばない。

 そもそも逃げた原因は? 泣いたから? じゃあ、なぜ泣いた? きっかけは俺が本を読むって言ってから? ……いや、違う……今日は最初から様子がおかしかった。

 つまり前回会った時に切っ掛けがあったと言う事だ。


 制服姿の綾波は遠くからでも目立つ。俺は見失う事なく綾波を追う。

 一歩一歩近付く綾波……でも心の距離が一歩一歩、1秒1秒離れて行っている気がする。


 早く捕まえなければ……これ以上離れたら……俺達は二度と戻れない気がする。


 ──俺と雪乃の様に……。


 そう考えた時、俺の目から涙が溢れた。

 俺は走りながら、泣いていた。


 嫌だ……綾波と離れるなんて……嫌だ。


 離れたくない……失いたくない……。


 そう思った瞬間に全てがわかった……そうか……これが……恋するって事なのか……。


 妹が海外に留学する時も、雪乃の本心を知った時もかなりのショックを受けた。

 でも……それはただ寂しいという感情の延長だった。


 そして妹はいずれ帰ってくる、雪乃も近くに住んでいるから普通に会えるだろうって……最終的にはそう思う事でその寂しさから逃れられた。

 じゃあ綾波は、学校が始まれば会える隣の席だから……とは思えない。そんな事ではこの気持ちから、この不安な気持ちから逃れられない……。


 多分俺は誰かに依存していないと生きていけないのだ。

 一人では生きていけない弱い人間なんだ。


 妹の時は雪乃、雪乃の時はあやぽんと、依存する相手を変えてきた。


 でも……綾波は違う……依存ではなかった。綾波の正体が、あやぽんと知る迄は。


 綾波とは、ただ会いたい、ただ話したい。それだけだった。でもそれだけで十分満たされていた、幸せだった。

 命令される事もなく、命令する事もない、対等に、ただひたすら対等に話しをするのが幸せだった……対等に……ただ対等に……そうか……。


 綾波はそのまま公園に逃げ込む、しかし革靴だったせいか芝生に足を取られ極端にスピードが落ちた。


 綾波が俺の目の前に迫って来る。


 俺は最後の力を振り絞り、ゴールテープを切る瞬間の様に身体を前のめりにし、思い切り手を伸ばし綾波の腕を掴んだ。


「きゃ!」


「つ、捕まえた……」


「い、いたい……離して!」

 一瞬手の力が緩む、神様からのお願い、神様からの命令……。

 でも俺は離さなかった。

 離したくなかったから、もう離れるのは嫌だったから。

 俺から逃れようと暴れる綾波、髪を振り乱し、眼鏡が足元に落ちる。


「はあ、はあ、く、日下部君! 離して、お願い……こんな顔見られたくない!」


「はあはあ、はあ、はあ、い、嫌だ」


「駄目……こんな顔じゃ……日下部君に……嫌われる……」

 汗と涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔、見られたくないと、俺から顔を背ける。

 でもそんな顔を俺は美しいって、綺麗だって思ってしまった。

 

「綾波なら……どんな顔だって構わない……綾波なら顔なんて関係ない」


「……嘘! 日下部君は……綾が好きだから、私が綾と同じ顔だから!」


「違う!」

 俺はそう言って綾波の腕を引くと自分に近づけそして、そのまま綾波を抱き締める。


「ひ、ひううう!」

 俺に抱き締められた綾波が奇声を発する。

 でも、俺はそれに構わず、そのまま綾波を抱き締めた。もう二度と離したくない……そう思いながら綾波を強く強く抱き締めた。






 



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     新作!         
  娘の様な義理の妹に恋なんてするわけが無い。          
  宜しくお願いします。(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
― 新着の感想 ―
[一言] 疾走れ 疾走れ 疾走れ くさーかべー おいつけ おいつけ だきーしめろ
[良い点] 主人公が、これまでの経験から成長しているのがわかる。
感想一覧
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