うちの子可愛い
皆様、どうも初めまして。俺は勇者のアルフレッド。アルとでも呼んでくれ。
突然だが、勇者ってどういうイメージだ?
魔法も剣技も強くて、世界の窮地を救う存在。大人から子供まで全ての人間の憧れ。
うん。まぁ、そんな感じだろう。俺もそう思ってた。
じゃあ、勇者より強いやつはいるのか?そんなことはほとんどの人間が考えたことないだろう。だって、勇者は最強だから。勇者と同格なのが魔王であり、勇者より強い存在なんて神だとか精霊王だとか…まぁ、つまりそもそもの話、格(というか住む世界)が違うもの。俺もそう思ってた。
ああ、そう思ってた
何を言っているのか分からないと思う。例を挙げよう。例えばだ。魔物の群れに囲まれたとする。倒すよな。もちろん。だけどな?俺が魔物を5体ぐらい倒している間に魔物の群れは全滅している。無論、魔物の群れが5体しかいなかったというオチでは無い。魔物はざっと30体以上いただろう。原因はこいつだ。
「…ん。終わった。」
年齢は10歳ほど。その年齢ならば平均身長だ。髪は黒で眼は金。何より可愛い。どこの少年―クロはある日、森の中で見つけた。本人は何も覚えていないようだったが、口減らしだろう。ここ数年は不作だからな。捨てられていたのだ。ほっておく訳にもいかず、だからといってどこかの村に預けても、また捨てられるのがオチだ。仕方なく旅に連れて行くことにした。
「行こ。」
「はいはい。大丈夫か?」
「ん。」
口数が少ない少年だが、手間がかからなくていい子だ。自分のことはある程度自分でできるようだし、俺の旅にもついてこれる。少年にしてはちょっと落ち着きすぎてるが、まぁ…いいとしよう。問題は実力だ。なんだコイツ。動きが全く見えない。素早いとかそんな次元じゃない。一歩も動いていないのに魔物が一瞬で死んでいく。何かの魔法を使っているようにも見えない。気がつけば護身用にと渡したナイフは血まみれで、魔物は全滅しており、彼自身にも返り血が飛んでいる。
「あー。一応これ、洗った方がいいかもな。」
「ん?」
「返り血。最上級の装備とはいえ血がついたまんまじゃ気持ち悪いだろ?」
「なるほど。川とか、ある?」
「ちょっと先だけど、まぁ、10分もせずに着くだろ。」
「れっつごー。」
まぁ、いっか。可愛いし。俺は考えるのをやめた。
一人っ子の俺はとことこ着いてくるこいつの可愛さにやられた。うちの子可愛い。すんげぇ可愛い。
最上級装備?当たり前だろう。この子に鎧なんぞ着せられるか。竜鱗やダンジョンのボスからしか取れないであろう品質の魔石。希少鉱石をふんだんに使い、最高の腕を持っていると言われているドワーフに製作をお願いしたものだ。出来上がったのは俺と同等…いや、それ以上の装備。竜鱗・魔石・希少鉱石…その他諸々を糸にして、それで作った化け物装備。
「この服、好き。汚れたまま、ちょっと嫌。アルが、くれた、服だから。」
「服で喜ぶ子供ってどうなのよ…。」
「…?アルが、くれたの、全部、大事。」
「…ありがとな。」
「ん。」
これでもプライドはあるわけで。俺は「やばい。めっちゃ可愛い。尊すぎる」と思っても態度には出さない。
…本音は変態だだと思われて距離を置かれたくないだけなんだよなぁ。
でもまぁ、この子と旅を続けていて思わない訳では無い。「勇者、いらなくね?」と