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第7話

 魚面たちは瞬く間にその数を以てして相対する意思を明確にしたベイクへと折り重なり積み重なって行く。彼らに仲間だとか連携という概念は無いらしい。


 山になった魚面たちに埋もれてしまいベイクの姿は見られない。蠢くそのものたちの姿は蟲の死骸に群がる蟻のようでもあって、ぬらつき脈動する様は巨大な一つの内臓のようでもあった。


 そんな見るに堪えないような不気味な肉塊の合間から、しかし閃光が漏れ出す。それは赤い光であって、同時に何かを焼くようにじゅうじゅうといった音と、嫌な臭いであることに変わりは無いものの香ばしい匂いも漂い始める。


 魚面の一体がその光景に呆けたような仕草を見せた直後であった。炸裂した閃光に魚面たちが纏めて吹き飛ばされる。立ち上ったのは炎だった。


「――テメエらじゃあ一千年掛かったってオレに傷はつけられねえ」


 炎を纏う拳が奔る。唸りを挙げて迫り来る魚面のど真ん中にそれを突っ込んだベイクの目の前で見る間に怪異は膨張し、水分過多な体は沸騰を始めた。


 焼結拳(ベイクリングセスタス)と名付けられたベイクの炎の魔法、にしてその技術は拳を打ち込んだものを急激に熱し融解、蒸発させる。魚面の末路も同じく、蒸発を待たずしてその体は崩れ去った。


 そして間髪入れず背後に迫った怪異へ、ベイクは今度後ろ回し蹴りを放った。これも先の拳と同じく炎を纏い、打ち込む拳と違い振り抜く蹴りにより敵を溶断する。魚面のその面相が横に真っ二つになる。


 お遊びにもならねえ――次々押し寄せる魚面たちを己が身を以てして千切っては投げ、獅子奮迅の活躍をするベイクであったが、その胸中には飽きが込み上げていた。


「この程度ならセキレイに任せても良かったな。オレもまだまだ、師としちゃあ未熟ってことか」


 立ち上る火柱を伴う右のアッパーカットから流れるように左のストレートを放ち、纏めて二体の魚面を殴り飛ばしながらベイクが呟いた。


「そろそろ出てきやがれ。居るんだろ? ――元凶!」


 寄ってきた魚面の首というかエラを鷲掴みにし、その手に炎を纏わせる。魚面はその熱により全身を痙攣させ瞬く間に事切れるが、これまでのように溶解も蒸発もしなかった。


 ベイクはその青い瞳を右へ左へ忙しなく走らせると、自らの予見に従いそれを呼んだ。しかし反応は見られない。


 これだけの規模の結界である。何か発生源があり、それがこの魚面たちを召喚しているに違いない。ベイクはそう思えて仕方なかった。舌打ちする。


「こちとらもう、うんざりきてんだ。自分の運命ってのにも、この不毛なじゃれ合いにも……出てきやがれ!!」


 手にしたままの魚面を、同じく魚面たちの群の中へベイクは放り込む。彼らに慈愛は無かった。落下してくる魚面には見向きもしない。


 水面に叩き付けられたその魚面であったが、それまで事切れて動くことの無かったはずのそれの体が突如痙攣を始め、皮膚が泡立ち始める。


 直後、魚面の遺体が爆ぜ、周囲の魚面たちを巻き込み吹き飛ばした。過熱――沸点を超えてものを加熱させること――と突沸――過熱状態にあるものに刺激を与えると起こる――いう現象を利用した爆発であった。


 ベイクは魚面を過熱し、遅効性の爆弾としたのである。


 しかしそれでも魚面は無限に湧いて出てくる。

 立ち尽くすベイクであったが、異変は起きた――

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