第4話
そして一晩が過ぎて次の日、フレイが期待をしていたベイクの返事や如何に――
「おら、これで良いんだろ」
「セクシーッ」
「そうじゃないでしょぉぉおっ!?」
宿屋の一階、食事処になっている広間に集結した三人であったが、その時ベイクが見せた白ビキニを前にセキレイとフレイはそれぞれの反応を返す。
どうやらそれが面白かったのかベイクは小さく笑い、セキレイは自らの注文通りの出来に仕上がっている水着を手に取り黄金の瞳を更に輝かせ、そして思わず立ち上がってしまったフレイはそびやかした肩を震わせている。
セキレイは水着を手に席を離れ、他の客らにどうだどうだとそれを見せたりしながら気が付けば姿を消し。
残されたベイクとそしてフレイは顔を片手で覆いながら溜め息を一つ吐きがっくりと椅子に腰を落とす。
そしてテーブルへと突っ伏して頭を抱えると一人、どうしようどうしようとぶつくさ呟き出してしまう。
ベイクはそんなフレイを見て頭を掻くと、小さく舌打ちを一つ鳴らした後言った。
「……落ち着けよ」
「無理っ! ですっ!!」
言った直後フレイにそう怒鳴られてしまうベイク。
その余りの声量に彼は思わず両耳に人差し指を突っ込み、少しでも逃れられるように身体を傾ける。
またテーブルに倒れ、ごんと額をぶつけるフレイに今度はベイクが溜め息を吐いた。
「……聞けよ」
「ぅぅ……なんですかァ~……」
「お前の分もちゃんとある」
そう言って何処からかベイクが取り出した、アロハ柄のサーフパンツをフレイは即座に引ったくると怒りのままに噛み切ってやろうと咥えて引っ張り左右に揺さぶるものの、ベイク印の特製水着は頑丈でフレイの暴挙にもビクともしない。
やがて顔を真っ赤にして疲れ果て、またもやテーブルに突っ伏す羽目になったフレイをベイクは見下ろし、ジュースの入ったグラスを口元で傾けながら告げる。
「船ならなんとかなる、任せておけ」
「……僕、初めて貴方を信用できなくなってます」
「そう言うな。だが、すぐに出航ってワケにもいかねえ。だからまあ、その時が来るまで精々羽を伸ばしておけよ」
海に出ればそんな暇無くなるからな――グラスを空にして一息吐くベイクの言葉にフレイの面が上がり彼の顔を見た。その表情は冗談などではない、とても真剣なものであった。
確かに海でバカンスなどここまでの生涯を振り返ってもしたことなどなかったし、仮にベイクの言う通り船が手に入り、一度この大陸を離れればきっと戦いの連続にもなる事だろう。
向こうの大陸に上陸などしようものならそれは決戦である。
それまでに出来る限り英気を養うことも、戦う者にとっては必要なことなのかもしれない。
そう思ったフレイは突っ伏していた上体を起こし、ちゃんと椅子に座り直すとベイクへとしゅんとしつつも頷く。
「考えるのが好きなヤツだ」
「……え?」
「お前を見てると思い出すよ、昔のこと」
「そう言えば、ベイク殿が初めてこの世を救った時とはどのような感じだったんですか? 悪魔との戦いの伝説は多くありますが、魔竜との戦いについてはそれほど多く語られているものが無い気がして……僕も余り詳しくないんです。良かったら――」
「……大したモンじゃない。少なくとも、お前さんが期待してるようなものは無いさ。なにも、な……」
ベイクのそれは完全に口を衝いて出てしまったもののようで、フレイが興味本位で追究するものの彼はそれ以上広げること無く肩を竦めながら勝手に話を終わらせてしまった。
「むぅ……しかしそれではここまで小馬鹿にされた僕の気が済みませんよ。ならせめてセキレイ殿と知り合った経緯とか……」
「拾っただけだ、犬とか猫みたいにな。そんなに聞きたきゃ良い話がある、昔なトウキョウとか言う――お?」
やや詰まらないと言った様子でフレイがじと目をベイクに向けると、ベイクは彼に取って置きがあるとして代わりにかつて流転の旅を繰り広げていた頃、別次元での冒険話を語り聞かせようとするのだが、そこに突如騒がしい足取りが階段から降りてくるのを二人は耳にする。
この騒がしさはセキレイかと二人だけでなくこの場に居る者たち皆が階段の方を見た。そして数段飛ばしで宙返りなどしながら飛び降りてきては両手を広げるやはりセキレイ――
「じゃーんっ……どーおっ!?」
気の早いことで水着に着替え現れた彼女であるが、一旦は注目していた者たちは既にそれぞれ食事だとか外へと出て行き、挙げ句階段を使おうとする者に彼女は退けとまで言われてしまう。
期待していた反応と違うと、セキレイがぶつくさと言いながらベイクとフレイの居る席へ歩み出すと、その席で肩を竦めかぶりを振ったベイクは言うのだった。
「……だからビキニは止めとけって言ったんだがな」
「ちゃんと引き留めるべきでしたよ、これなら」
「だな……」
そうして三人は遂に海へと繰り出したのであった。




