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第3話

 燃える残骸の中にベイクは立ち尽くす。

 それはゴーレムであり街であり、戦いの終わり。

 そこで彼は六対に及ぶ噴炎の翼を携えたメガセリオンフォームと呼ばれる形態で佇み、鋭利な爪の生えた五指の合間に握り締めるのは赤い球体。ゴーレムの核石である。


 燃え上がる髑髏(どくろ)の眼孔の奥で揺らめく青い炎がそれを見詰め、やがて核石は彼の手中で握り潰される。

 大量の火の粉を散らしながら吐いた溜め息。ベイクは夜空を見上げた。星達以外、何も無い虚空だけがあった。


「バカシショーッ、危うく丸焦げになる所だったぞっ」

「良いじゃないですか、セキレイ殿。ねえ……?」

「投げた事は謝っただろ!?」


 そんな彼の元にやって来たのは煤汚れたセキレイと、何処か他人事な調子で適当に憤慨する彼女を宥めるフレイ。

 どうやらフレイはセキレイが自らに行った酷い仕打ちを根に持っているらしい。謝ったと言うセキレイにも彼はそっぽ向いてしまう。


「もう……って、シショー? なんだ、何かあるのか? 星から何か話しかけられた……?」

「……いや、なんでもない」

「じゃあシショーも謝れ! ワタシを焦がしたことっ」

「はっ、ヤなこった。トロいテメェが悪いんだよ」

「あーっ! そう言うこと言うのかシショーはっ」

「いやァ、でも確かにセキレイ殿にも非はありますよねェ」

「〜〜……こんっ、のォッ」

「ひぎゃあっ!?」


 取り巻く炎が消え失せ、元の人としての姿に戻ったベイクはそう言ってさっさと二人に背を向けてしまう。

 せっかくの心配を無下にされた事で食って掛かろうとするセキレイだったが、そこにタイミング悪くフレイが余計な一言を放り込んでしまった。


 セキレイの怒りの矛先はフレイへと向き、自業自得ながらも彼は飛びかかって来た彼女に頭を齧られてしまうのだった。

 哀れなフレイの悲鳴を背に受けながら、最寄りの街へと避難している筈の、ゴーレムと化して壊滅した街の住民達を追って歩み出したベイクは先程何か懐かしい感覚を得ていた。


 あれは何だったのか。

 それを考えていると不意にある名が口を衝いた。


「……フォルトゥナ……? まさか、な……」


 何を言っているのかと己に対し嘲笑したベイク。

 彼はいい加減にしろといつまでもじゃれ合っているセキレイとフレイに声を掛ける。

 三人はまた旅へと戻るのだ――



 それから一月ほど――

 三人の旅に大した波乱は無かった。

 セキレイにしてみればベイクとの訓練が最大の波乱であり、それが毎日欠かさずにやってくるとなれば、野党だの獣だのは波乱などとは到底呼べない。


 だから不謹慎だとしてもこの時間は自分に与えられたご褒美なのだろうと、彼女はそれまで身に纏っていた戦闘を視野に置いた装束の一切を脱ぎ捨てて、白く右胸側に黒いストライプが二本走ったビキニを纏った姿を披露する。


 そして白い砂浜を砂塵を巻き上げて広大に広がる青い空の下、青い海へとセキレイは突撃した。


「うぅぅわぁぁぁあっ!!」


 周りの人たちが仰天するほどの声を上げ、寄せては返す波がそのまま返ってこなくなるような勢いで、何なら身体強化が放つ稲妻を纏いながら彼女は海へと遂には突入。

 勢いが良すぎたのかセキレイはそのまま水上を駆け巡る。


 煌めく水飛沫の中、弾けるような笑顔で夢にまで見た海の、その上を走るそんな彼女の姿を当然ながら奇異の目で見る人々。

 そして波打ち際で佇み、引いた顔をして彼女を見るフレイ。


 それらを他所にベイクはこの世界には存在しないカラフルなパラソルとビーチチェアを腕輪の機能から取り出しては広げ、そこで傷だらけながら鍛え抜かれた岩のような肉体をブーメランパンツ一丁で惜しげもなく見せ付けながら寝転んでいた。

 傍らには特産果実のジュースを置いて、心地良い潮風や人々の平和な声を耳に心を落ち着ける。これらのために世界を救ったのだと思えば、彼の荒んだ心にも少しの潤いが戻る。


 やがてフレイは泳ぐと言いながら水面をひたすら走り回っているセキレイから目を離し、あれで良いのかとベイクの元へと歩み寄りながら訊ねた。

 彼も水着を着て、一応は海を楽しめる格好をしていたが何処かその心は海には無いようであった。


「ヤツは海、初めてだからな。まあ、少しくらい良いだろう」

「スゴい目立ってますよ……」

「無い胸でビキニなんか着たがるくらいだ、目立てて本望だろうよ……」

「そう言うことじゃないんですけど……」


 ベイクは上体を少し起こし、傍らのジュースをフレイへと手渡した後、掛けたサングラスをずらして海を走るセキレイを見ると鼻を鳴らして笑うのだった。確かに面白い……と。


 ――彼らがここ港町のデアンセンへと到着したのは二日前のことであった。

 ここからフレイの故郷たる大陸までの船が出ていると言うことなのでやって来たがベイクの危惧していた通り、問題の起きている大陸へは現在船を出していないという。


 さて困ったなとベイクはしかし存外落ち着いていて、一人慌てるフレイは使命を果たせないと泣き崩れる始末。ちなみにセキレイは海のことばかりだ。


「どーしたら良いんですかぁぁあっ! 僕、僕は……僕は僕は、僕ぅぅ……っ」

「デカい、広ぉぉいっ! 海、すごぉぉいっ!! シショー! シショーッ!! 泳ごう、泳ごうっ」

「ベイク殿っ、ベイク殿なんとかしてくださぁぁい! 海を干上がらせるんでもなんでも良いですから、大陸へ、大陸へ渡るためになんとか……なんとかぁぁ……!!」

「釣りだ! 釣りしようっ。川じゃ釣れない魚いっぱい釣ろう! こんなっ、こんなデカいヤツッ」


 海を見詰め佇むベイクの足元に縋り付き、そこに涙でもう一つの海を創ろうとしているフレイと、そしてそんな二人の周りを走り回るセキレイ。

 二人からの自分勝手な物言いを受けてなおベイクは(だんま)り。


 しばらくして一息吐いたベイクの顔を、セキレイとフレイの二人は待ってましたと瞬時に見る。それは穴を空けるかのように。

 そして彼はそんな二人に笑い掛けると言うのだった。


「……一眠りしたら考える」

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