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第1話

 動き出す街。

 大地と混ざり創り上げられたるは地上百メートルに到るほどの巨大な土人形――つまりはゴーレムである。


「こんな規模のもの創り上げられるのなんて、それこそベイク殿並みの魔力がなければ不可能ですよっ」

「だったらシショーと同じくらい魔力持ってる魔法使いが創ったんだろっ! 信じらんないケド……」

「だったら! それはもう人じゃない……っ」


 その体表、動く街中を駆け抜ける二人はセキレイとフレイ。

 斜めになる表通りを勢いに任せて駆け抜けるセキレイに引っ張り回される形でフレイの問答はゴーレムの主についてだ。

 彼女に襟首を掴まれひらひらと揺れるフレイはコレの術者を規格外の魔法使いだと言うが、そんなものが存在するのかという疑問は両者に在った。


「シショーは人だぞ!? だったら、人に出来るってことだっ」

「そりゃあっ、そう……なのかなぁ……」

「そうなのっ」


 三つ編みにして一つに束ねた白金の髪を翻しながら、セキレイは壁になった道に建つ崩壊寸前の家屋達へと視線を次々に投げて行く。アレも違う、コレも違う――


「フレイ! 何処っ!?」

「え? あっ……ええと――この先ですっ」

「アレかあっ」


 先程まで道を走っていたはずが気が付けばそびえ立った壁と化した道を走る……と云うよりはセキレイに引っ張られ飛んでいるという方が正しい今のフレイは己のそんな状況に恐怖していた。


 そこにかけられたセキレイの質問に、フレイは遙か真下に広がる地上を見下ろしては青くした顔で急遽、レア特製の杖を二振り召喚すると彼はそれの尖端に取り付けられた、水晶で出来たかのような虹色に輝く球体同士を打ち鳴らした。

 キン――と高く静かな鈴の音のような音が響く。

 音には魔力が込められておりそれが通過した場所にあるものを所持者の意識に伝える機能がある。


 そしてこの街の、少なくとも彼女ら二人の付近に存在する“逃げ遅れた住民”は二人。

 フレアの頭に伝達されたのはセキレイの進行方向、歪む三叉路の中央の建物の三階。

 彼がそのことを伝え、セキレイが了解した時、道中の石畳が隆起を起こし小型のゴーレム達が姿を見せる。


 しかし連中を相手にしているだけの時間は無い。

 動き出した巨大ゴーレムの影響で体表面の家屋は次々に崩壊している。目的の建物ももうもたない。

 どうするのかとフレイは思う。そして気付く、己の身体が妙に強く引っ張られていることに。


「え……ちょ――ええっ!?」

「後は、任せたぁぁあっ」

「ベイク殿みたいぃぃぃ……っ」


 左手に掴まえていたフレイを振りかぶり、そして豪快に建物へと向けて投てきしたのはセキレイだった。

 彼女の手を離れ、宙を勢い良く飛んで行くフレイの悲鳴は木霊し、それは現場を離れ巨大ゴーレムからも離れ、すれば更に離れた場所にある小高い丘の上に集まった人々の元まで届いていた。


 より正確には、その先頭に立つ一人の男の耳に……だが。

 鈍色の髪をした青い目の、顔に火傷を負った彼はベイク。


 彼は常人の耳には遠すぎて聞き取れないフレイのその悲鳴を聞き取ると口元を歪めて笑みを浮かべ鼻を鳴らした。

 そしてがりがりと頭を掻くと肩を竦めながら言う。


「……オレだって人を投げ飛ばしなんざしねえっつの」

「アンタ……見えてるのか?」

「目が良いもんでね。それより、そろそろここを引き上げる準備しといてくれ。もうすぐ済む」


 ベイクの何事かを理解しているような態度と口ぶりに一人の青年が怪訝そうにしながら訊ねた。

 するとベイクは彼に振り返りながら如何にも適当な調子で返すと、青年にそう告げる。


 そして一人巨大ゴーレムの暴れる方へと向かい歩き出したベイクに青年は危険だと忠告し引き留めんとするが、彼はジーンズのポケットに片手を突っ込んだまま、もう片手でそんな青年に手を振るだけ。

 集団から少し離れてからベイクはゴーレムを見詰めると笑う。

 彼の青い瞳に映るのは、今まさに背にした剣を引き抜き身構えるセキレイの姿であった。

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