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第11話

「アンタも命を燃やすのか?」


 ベイクが問う。


「いいや、そうしなくても済むよう改良した。フガラクのおかげだ。ヤツのおかげで、余は望むもの全てを手に入れた」


 歩むドゥームの足元。床が割れるとその下より鉄で出来た無数の(アーム)が現れ、それぞれが手にした装甲を彼へと着せて行く。


「じゃあ、ムダじゃなかったか」


 然り――歩む度にその身を鉄鬼へと変貌させるドゥームは、最後、その頭部を兜で覆う間際ベイクの言葉に肯く。


「なら……心置き無くテメェをぶちのめせる」


 ドゥームの兜に赤い瞳が四つ、輝きを灯すと同時にエンゼリカに続きベイクも戦闘態勢に移った。両腕には手甲が嵌められ、握り締めた両拳を持ち上げ脚は律動を刻む。


「レムナス・クォークリンブルレイム、ウェン・クォークリンブルレイムの遺児がエンゼリカ・クォークリンブルレイム。父と母の仇……討たせていただきます!!」


 ベイクの背後より、宙に浮かせた魔法円を踏み台に駆け上がったエンゼリカが飛び出し両手を左右に振り広げる。そこに展開していた魔法円が無数に分裂し、それら一つ一つから閃光が放たれた。


 閃光は狙いをドゥームへと絞ると、四方八方から彼に襲い掛かる。だがドゥームは手中の魔法円を拡大させ、周辺に障壁を築くと閃光のことごとくを弾き飛ばしてしまう。


 しかし、鉄鬼を着込みエンゼリカの魔導を防いで佇む彼の目の前には、エンゼリカの攻撃と同時に駆け出していたベイクが既に立っていた。彼の間合いである。


 鉄拳をベイクはドゥームの障壁へと叩き付ける。無論阻まれるものの、ベイクは雄叫びを挙げると同時に拳を捻る。まるで障壁へと捩じ込むように。そしてその通り、彼の拳は障壁を突き破り、ガラス細工が如く粉々に砕き吹き飛ばしてみせた。


 そこからさらなる追撃へ。ベイクが踏み込む動作を見せると、ドゥームの纏う漆黒と真紅の鉄鬼が初めて身構えた。


「むっ……!?」


 しかしベイクはそのまま追撃へと――打って出ない。代わりに浮かべたのはしたりと言ったような笑みであった。

 ドゥームが一瞬の動揺によりその動きを鈍らせる。そして――


「――ドゥーム……!!」


 彼の背後に突如として現れるエンゼリカ。鬼の形相を浮かべ、声をも荒げた彼女が振りかぶった右手に魔法円がやはり複数重ね合わされ描かれている。事前に展開していたそれらを組み合わせる、ベイク考案の超級魔導の短縮発動である。


 ドゥームの反射速度を上回る鉄鬼の機能(システム)がエンゼリカを感知し、彼の意思に関係なく振り返ると裏拳による迅速の迎撃を試みる。そしてそれは成功し、鉄鬼の巨大な拳が彼女を打ち砕く――かに思われた。


 拳はエンゼリカをすり抜け、空回りする。鉄鬼の中のドゥームの双眸が見開かれた。


「こっちだ!!」


 それは魔導による幻影だった。

 実体のエンゼリカはベイクの背後。彼の影に身を潜め、ドゥームが罠に掛かった直後にベイクの頭上を飛び越え彼へと迫る。


「かっ……やるな」


 だが――奇襲は成功したかに思われた。エンゼリカの戦いを見守るベイクの表情が強張り、肩が揺れる。鉄鬼の背面の装甲が浮かび上がり、するとなんとそこから二本の腕が伸び出てきたのだ。


 奇襲には鉄鬼が対処し、それ以外にはドゥーム自身が対処する。フガラクからなる人機一体の業がなせる妙技。今のドゥームには二つの心臓同様に二つの意思が備わっているのである。


 隠し腕が手中に魔法円を展開し、エンゼリカの魔導を魔法円で直接受け止める。どうやら障壁を築く時間までは用意できなかったようだ。

 まだ終わってはいない。ベイクは一度は助太刀に出て行こうとした足を引っ込める。


 魔導の輝きを纏った拳を押し付けるエンゼリカ。その強引さはベイクのようであった。

 ぎりぎりと噛み締めた奥歯が軋む。その音を聞きながら彼女は叫んだ。鉄鬼が隠し腕の指の幾本かが弾け飛ぶ。


「どうして、どうしてみんなを……なんで!」


「はっ……貴様らに持たざる者の気持ちは分かるまい。分かるかよ……分からんよなあ! 魔導がなんだ!? それが扱えぬからなんだと言う!? それだけだ、それだけのことで貴様らは我々を人以下と看做(みな)したのだ! 出来損ないと追いやった」


 そう、魔導とはこの世に於いて普遍のもの。普遍であるはずのものであった。しかし大地に満ちる人の中には先天的に魔導を扱うことの出来ぬ者たちが居た。


 魔導ありきの世界は、魔導を持たぬ者が生きるにはあまりにも辛いものであった。


 魔導はおろか、地位も名誉も、ありとあらゆるものを手にしながらまるで持たざる者など無いかのように自らの悲劇ばかりを嘆くエンゼリカへとドゥームは激昂する。


 知らなかった――はずもなし。エンゼリカとて持たざる者が居ることを知っていたし、それらがどのような扱いをされていたかも分かっていた。


 ――だが、だからなんだと言うのだ。だから父も母も、民たちも皆殺したのか。そこまでのことなのか。


 ――分かるまい!


 ドゥームの言葉がエンゼリカの脳裏に過る。

 分かりたくない――彼女の心が軋み、悲鳴を挙げた。


「何が違う? 見放し、見殺しにしてきた貴様らと我々がした事に違いがあるか!? 殺す気が無かった? 死なせてきたことに変わりあるまい!! 俺は見てきたのだ、俺のために、俺を生かすために死んで行く父を母を、兄弟たちを。何も成せず、無念の内にただ憐れに、惨めに朽ちて行くだけの人々を。全てはたかが魔導のため、それが無いと言うだけの理由で……貴様らが殺したのだ!! 貴様らが、貴様らが!!」


 これは報いだ――怒り、悲しみ、嘆き。全てが力となりドゥームの第二の心臓を鼓動させる。

 送り出される魔素により魔法円を構成する魔導はより濃く、強くなる。


 憎しみの権化たるエンゼリカの身勝手にドゥームの感情は弾け、劣勢であった魔導のぶつかり合いは彼女を押し返すまでになる。


 ――しかし、それでもまだエンゼリカは踏ん張った。

 ドゥームの言う事は正しい。けれど認めたく無い。両親が、民草が殺されて当然であったなどと思いたくない。


 これが自分勝手な思いだと、彼女の何処か、何かが訴え掛ける。心が揺れる。――それでも、それでも……


「――貴方が私から全てを奪った!!」


 これだけは変わらない。

 流れ出す涙は誰がためのものか。


 エンゼリカの絶叫と共に眩い光が生じ、炎も二人も、傍観するベイクを、この場のあらゆるものを飲み込んだ。

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