第6話
四
「ベイクゥ……ケリぃつけようやあ!!」
帝都防衛の鉄鬼及びその子機との戦闘により炎に呑まれた街の中、果たして幾度目の戦いとなるか、衛士フガラクが駆る鉄鬼“ドハツテン・ミヤビ・ナナシキ”がベイクとエンゼリカの前に立ち塞がる。
ベイクを倒すために機体を替え、改造を施し、それを操る己自身をも鍛錬したフガラクの実力は、恐らくはこの世で一番と言って差し支えないほどの隆盛を極めていた。
始めはただの障害にもならない路傍の小石程度に思っていたベイクも、蹴飛ばす度に硬く、そして重くなり、此度に到っては岩をも越えた壁として眼前にそびえた彼からその目を逸らすことが出来ずにいる。
――もはや、お守りをしながらでは戦えない。
「離れていろ」
え――自らを庇うように前に出ていたベイクからそのように言われ、彼の背中を見守っていたエンゼリカは思わず聞き返す。
「――その必要は、ねえぜ」
刹那、ベイクの目から燃ゆる桜が彫刻された鉄鬼が消失する。否、ほんの僅かにそれの影は捉えていた。だが、それでも一瞬エンゼリカへと意識を向けていたがためにベイクの反応は鈍り、その時既に背後へと回り込んだ鉄鬼が手にし、振るった鉄槌による一薙ぎによって勢い良く跳ね飛ばされてしまった。
そして炎上する石と鉄で出来た家屋へと突っ込んだベイクはそのまま、崩壊して出来た瓦礫に呑まれ炎に包まれる。
遅れ馳せながら事態を理解したエンゼリカがベイクの名を叫ぶ。そして彼女は目の前にある鉄鬼の背、角を生やした怪物が彫られた巨大な壁へと両手を差し向けた。手中が赤い光を放った。
「止めろ!」
エンゼリカが魔導を行使しようとした間際、瓦礫と炎を吹き飛ばし、火の粉をその身に纏わり付かせながらベイクがその健在する姿を現した。
彼の制止を受けたエンゼリカは何故と問うが、ベイクは鉄鬼を不敵な笑みのままに見詰め続けつつ「ムダだ」とだけ告げる。そして気付く、もはやベイクも鉄鬼も、誰も彼女を見ていない事に。
己の非力を思い知らされ、悔しさに歯を食い縛るエンゼリカであったが、事実は事実。変えられぬものだと理解もしていて、それが更に悔しさを引き立てるが彼女はゆっくりと両手を降ろし、徐に後退りして行く。
「今のでも、無傷かよ……」
鉄鬼、フガラクが驚嘆をしかし至極愉快そうに口にした。
だがベイクは「まさか」と小さくかぶりを振る。そして微かに震える左腕、そこに開いた五指を手中に握り締めながら言う。
「強ぇ、な……」
辛うじて防御に間に合わせたその左腕を支配する痛みと痺れを力みにて強引に押し殺し、しかして獰猛になる笑みを禁じ得ぬ中、ベイクの右手首の腕輪が瞬いた。
「本気、で――」
鉄鬼が右手に握り締めた鉄槌を構える。強く輝いたその赤い一つ目は心なしか、褒美を前にした子供のような感喜を宿しているようにも見える。
「――行くぞお!!」
轟――ベイクがそれを言い終えるか否か、鉄鬼の足元が爆ぜる。その姿が瞬き、次の瞬間にはベイクの眼前へと移動を終え、鉄槌を振りかぶる。
そして歯を剥き、明確な笑みを顔面に貼り付けたベイクへと振り下ろされた。




