第5話
「おちっ、落ちてる! シショー! 落ちてる!!」
どうしよう――破片の中を逆さまになりながら、一生懸命四肢を暴れさせて何とかしようとしながら騒ぐセキレイのすぐ傍らでは、同じように逆さまになり落下していながらも落ち着き払い腕組みすらしているベイクは言った。
「落ち着け。こういう時大事なのは落ちてると慌てることじゃねえ。自覚して、受け入れろ。落ちてることをな。なんかあるだろ、助かる方法……」
ちらとベイクがセキレイを見る。逆さま同士で顔を見合い、片やセキレイは彼の言葉にキョトンとしている。だがすぐに合点がいったようで、彼女は己の手のひらにぽんと拳をついた。
「そっか、分かった! えーと……ワタシは今、落ちている! どーしよう!? ワタシは今、落ちている!!」
ベイクから大きな溜め息が溢れた。
どうやら“落下を受け入れる”。この一点しかセキレイは理解出来ていないようだった。その事実を受け入れるのが精一杯で、次にどうすべきかをまるで考えられないでいるらしい。
仕方ねえ――諦めの言葉を呟き、ベイクはセキレイに言った。
「その翼とか、どうなんだ?」
「つばさ!?」
またも目を丸くするセキレイにベイクは呆れ返り、かぶりを振りながら彼女の背に備わった青い翼を指差す。
彼の指先を追いかけてようやく、自らが背中に一対の翼を設けている事に気が付いたセキレイは「羽だ! 羽が生えてるぞワタシ! シショー!!」と目を回しながら驚嘆を叫んだ。
「ああ、良かったな。これでお前も家のトリどもの仲間入りだ。メシは連中と一緒で良いよな」
「イヤだ!」
「ならさっさとソイツ使って飛べよ」
任せろ――と鳥と同じ食事にされては堪らないとセキレイは自らの翼を機能させるべく集中する。風を切る音以外無く、沈黙する二人。少しして彼女の翼がピクリと動いた。
そして――
「――ダメだ、シショー! 羽なんて生えたことないから、動かし方が分からない!!」
ベイクからまた溜め息が溢れ、彼はやはり呆れてかぶりを振った。傍らではそれでもなんとか翼を動かそうと何故か手足を振り回すセキレイ。
そして挙げ句制御を欠いたのか、彼女の短い悲鳴と共に翼は雷に変わり飛び散り、消えてしまう。
もうダメだと頭を抱えたセキレイにベイクは「やっぱりまだひよっこ……と言うよりマジでヒヨコだな」と鼻で笑うとルシファーへと呼びかけ全身に鎧を纏う。
すると鎧の背面にある十二の噴射口から火を噴き、その勢いで姿勢を立て直したベイクは宙でいまだ藻掻くセキレイを掴まえ、そして脇に抱えると一緒に落下するいくつかの瓦礫を蹴散らしながら、地面に激突すると言う直前で飛翔することに成功するのであった。
「シショーが飛べるなんて知らなかった」
「言ってないからな」
「なんで言わなかった!?」
「必要ねえだろ、オレが飛べるかどうかなんざ」
「それは……そうだが……でも、シショーのこと何も知らないのがなんか……悔しくて……」
なんだそりゃ――下らないとベイクは吐き捨て、力無く四肢をだらりと垂れ下げるセキレイを脇に抱えたまま待っているであろうレアたちの元へと飛んで行く。
――この日、世界は再びの危機に曝されているということを人々は知った。
そしてその危機に立ち向かう勇者もまた帰って来たのだとも……




