第4話
どうだ――セキレイが訊ねる。
「まだまだ、アラが多すぎて何度怒鳴りそうになった事か」
と、ベイクが答えると彼女の得意そうであった顔は意気消沈。褒めてもらえると期待してしまうほど、どうやら彼女の中では先の戦いが良かったらしい。
そんなセキレイの顔を見てベイクは鼻を鳴らし笑って、そして徐に立ち上がると彼女の頭に右手を置き、まるで犬にするようにしゃくしゃに掻き乱す。
セキレイもセキレイで、乱暴なベイクの手から逃れるようにかぶりを振るが、広大な手のひらからは逃れ得ない。
やがて触れるとぴりぴりと痺れる感触のあるセキレイの髪から手を退けたベイクは言った。
「……が、上出来だ」
良くやったな――そうして彼はセキレイへと、極自然に笑い掛けるのであった。
「――ああっ!!」
それを聞いたセキレイは暫くいまいち実感を得なかったようであったが、徐々に彼の言葉の意味を理解し出すと意気消沈していた表情は明るく晴れて行き、そして最後には立派な笑顔の花を咲かせる。
そんな彼女の顔へと、一筋の光が差し込んで、思わず彼女は目を細めた。
ベイクも振り返り、同様に光に目を細めながらもその手でひさしを作ると、ふと微笑む。
「おお、朝日だ……! キレイだな、シショー!」
すっかり空から払われた闇。そして姿を取り戻した空は既に夜が明け、山の向こうより丸い太陽がその顔を覗かせていたのである。セキレイがはしゃいだ声を出して、建造物の頂であるその縁へと掛けて行った。
それをベイクも追い掛けて、そして二人は揃ってそこに並び立ち、朝日を浴びる。ベイクが言った。
「バカが、別に朝日くらい珍しいモンじゃないだろうが」
「バカはシショーの方だ」
なんだと――セキレイの発言にベイクがムッとして彼女を見る。セキレイもムッとさせていた顔をしかしすぐに解し、再び彼から朝日へと顔を向けと言う。
「ワタシたちで取り戻した太陽だぞ。カクベツなんだ」
そう言うセキレイの表情は実に晴れ晴れとした良い笑顔で、呆れでもしてやろうかと思っていたベイクであったがそれを見るとどうにも微笑むことしか出来なくなってしまうのであった。
「……それも、そうか」
――こんな気持ちはいつ以来であろう。ふとベイクは昇る朝日を見詰めながら思う。遠い記憶の果てにそれを見付ける頃には、既に別の出来事が起こっていた。
二人の耳に届いたものは、歓声だった。
記憶の旅を中断したベイクと、そしてセキレイの二人が街を見下ろす。二人の視力は魔法の強化もあってとても良い。とは言え、頂から見下ろす街は遠い、そこに見えるのは何かコナダニのように蠢くものであった。街の住民たち、その生き残りである。
「シショー……なんか、感動的だ」
「予想よりは居るな。あれだけ残っていりゃあ、街の再建も夢じゃねえ、か」
二人に向け手を振る人々。浴びせられる歓声に、これまで感じたことの無い達成感だとか充実感のようなものを覚えたセキレイはその目を潤ませている。
だがベイクにとっては慣れたもの、彼は別の懸念を懐く。するとその懸念はすぐに姿を現した。
何かが割れたような音が響き、足元に揺れが生じる。
キョトンとするセキレイがベイクを見ると、彼女の視線に気付いたベイクは鼻を鳴らして笑って言った。
「崩れるぞ」
「へ――?」
直後であった。
建造物の全体に走った亀裂。一気に駆け抜けたそれらにより形状を維持できなくなった建造物は一気に瓦解を始める。
二人の居る頂上ももちろん例外などあり得ず、ひび割れ砕け散り、そして二人は破片と共に落下した。
「うそぉぉぉお――!?」
セキレイの悲鳴が響く。




