第6話
割れた地面から湧き上がった溶岩はベイクが炎の魔法によりその熱を奪うことで蟲たちを巻き込んで即座に凝固し、黒い新たな道を二人の前に作り出した。
四つ全ての属性を人類で唯一司るベイクであるが、その彼が最も得意とするのは炎。つまり火の属性であり、今回生じた炎も家屋に飛び火しながらも壁面を焦がすだけで燃えることはなかった。
「シショーの火は相変わらず利口なんだな」
蟲だけを燃やし、その他一切を触れながらも焼くことのないベイクの炎を、岩石で出来た道を駆けながらセキレイは見て思わず呟いた。しかしその表情は驚愕と言うよりもはや呆れている。
彼女を引き連れる形で一歩先を走っているベイクが振り返ることなく言う。
「火の属性ってのは人が最も多く司るモンだが、制御はその実、四大の中で一番難しい。要らん被害を出しちまうからな。オレもはじめは苦労した」
「シショーでもか!?」
「おう。なんせオレはハナから火力がダンチでな、ちょっとした火のつもりでも一瞬で家が燃え尽きるわ山はハゲちまうわで大変だった。おかげで酷え目にも遭った」
故に火の魔法の鍛錬は何よりも行ったものだと、ベイクは己の顔に焼き付いた痕を突っつきながら言う。
セキレイは今の英雄としてのベイクしか知らないこともあり、そう言われたところで想像すらつかなかった。
――その後も蟲の追撃を危なげなく振り払いつつ、遂にウクバールの中心部へと到達した二人。
その間ずっと走り続け、時に戦闘も熟し、セキレイはすっかり息が上がっていたがベイクは何のこともないようであった。寧ろ蟲程度では先の魚面ほども無いと退屈そうですらある。
そしてベイクがようやく足を止めたことでセキレイもそうして、彼女は腰を折り己に膝に両手をつくとぜーぜーと肩で息を始める。ベイクはそんな彼女にだらしないと言うのだった。
「そ、そんなこと、言われてもな……あ……」
無論言われっぱなしのセキレイでもなく、やれやれと呆れているベイクを汗の雫が滴る顔を上げてキッと睨む。が、同時に目に付いたのは街同様に肉に覆われつつも今だ堂々と立っている石像だった。
世界を救った勇者、ベイクの像。
「似てない……」
「そりゃ、フォウグを倒した時のオレ……らしいからな。だが、もう少し厳つくても良いよな」
石像にされているベイクの容姿は簡素な鎧を身に纏い、今彼が肩に担いでいる大剣と比べるとあまりに貧相な剣をかざしている。左手には竜の首がぶら下がっていた。
頭には兜を被っていて、その隙間に顔面の一部のみが彫り込まれているのみだが造形はどうにも頼り無さげにも見えて、石像と本物のベイクを見比べては呟いたセキレイにベイクは当然と答えた。
そして空を見上げるベイク。追い掛けるセキレイの二人の前にはより巨大さを増した謎の建造物が待ち受けていた。
近くで見ることにより分かったことは建造物は鉄と石で出来ており、それらを赤黒い肉が繋ぎ会わせていると言うこと。そして材料たる鉄も石も妙に捻れていて、それらが組み合わされることにより、全体の醜悪な見た目とは別に精神的に不快感を覚えさせる。
「これが元凶ってことで間違いなさそうだな」
見てみろ――ベイクはそう言って顎で指すとセキレイに見るように促す。
建造物の根本とでも言うべき場所には無数の蟲が蠢いていて、更にはそこから街全体に向けて肉の蔓が次々と伸びて行くのが彼女には見えた。
「じゃあ……ぶっ倒すか?」
「いや、中からのが簡単そうだ」
そう言ってベイクは肩に担いでいた大剣を建造物へと向けて投てきする。
激しく回転しながら建造物へと飛翔した大剣は炎の属性を付与され赤熱したその刃をそれへと叩き付けるが、甲高く何処までも響くような激しい衝突音を奏でただけで弾き返されてしまった。
勢いを失い落下して行く大剣はやがて宙で消失し、するとベイクが掲げた右腕から突如生え出てくる。それを手中で受け止めたベイクはセキレイを尻目に「な?」と一言。
「シショーの剣がダメじゃムリか。案外シショーも大したことないんだな」
手っ取り早く済むかと期待しただけに悔しそうな顔をしながら何の気なしに言ったセキレイだったが、直後頭上に飛来した拳骨を受けて「ぎゃあ!」と悲鳴を挙げる。
もちろん、拳骨を落としたのはベイクだ。
脳天を抱えながらその場にうずくまり悲痛な呻き声を挙げるセキレイを他所にベイクは、建造物がぱっくりと地上に開けている、恐らくは聖堂塔の名残にしてその出入り口であろうそこに向けさっさと一人歩き出すのだった。
「シショーの乱暴もん! こら、待て! シショー!!」




