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第1話

 フェス・ティマ。またの名をレアと言い、彼女こそが永劫の時を生きる無限の魔女と呼ばれているその人であった。


 数百を超えると言われる時の中であらゆる魔術を修め、扱える属性もベイクという例外を除けば人類未到の三つ。


 全ての魔法に携わる者たちの頂天が彼女なのだ。


 その存在の在処はまことしやかに囁かれているだけで曖昧なものばかり。


 例えば天空に住むとか、次元の狭間だとか海の底等々。よもやこのような街中に雑貨屋を構えているなどとはきっと誰も思いもしていないはずである。


 姿とてその美貌こそそうはお目にかかれないであろうものであるが、身形に関しては白いシャツにベージュのズボン、そして濃紺のエプロンドレスと在り来たりである。


 纏う雰囲気にも威厳だとか凄味のようなものはまるで感じられない。同じ魔法使いであるはずのアルフレイであってもそれは同じだった。


「しかし驚いたな、その成り。若作りはもう止めたってワケか。昔はもっとこう……ちんちくりんだった」


 店の二階、居住空間であるそこのリビングにて四角いテーブルを囲う四人。ベイクの左右にそれぞれセキレイとアルフレイが、彼と向かい合う位置にレアが座り、テーブルの上には焼き菓子と紅茶が人数分用意されている。


 遠慮無く菓子を貪りながら、そんな伝説の存在とはほど遠く見えるレアへとベイクは親しげに接していた。


「もう一度引っぱたかれたい?」


 そしてレアもまた彼に対して実に親しげであり、そう言う顔はしかし浮かれたような笑顔であった。


 まさか――と肩を竦めるベイクに対し、レアは続けた。


「貴方が消えてから色々あったの、一番大事だったのは戦争ね。海の向こうの別の大陸との戦争。ね、坊や」


 レアはカップを口元で傾け、温かい紅茶で口を潤すとちらとアルフレイを見て微笑みかける。


 身形こそ平々凡々でも、その美貌からなる笑みは驚異的で、アルフレイはドキリと胸を鳴らし顔を赤くしてしまう。レアのそんな妖艶な視線から逃れるようにうつむきがちになりながらアルフレイは肯いた。


「その頃からボクの居た大陸はおかしくなり始めていたんです。いきなり此方と接触を試みたかと思うと、話し合う暇も無く戦いをけしかけた。上の人間たちが正気とは思えなかった」


「にべもなく断ったのは此方だけれど、それでも突然だったわ」


「先ほどレア殿を襲ったのは異端審問官です。元々は魔法を扱う者の多かったボクらの大陸で、禁忌に触れた者や法を破った者を裁くだけの機関でした」


「戦争が一応此方の勝利という形で治まった後、友好関係を結んだ向こうの大陸から持ち込まれたの。おかげで魔法を扱う者たちの肩身は大分狭くなった。だから私もこうして身を隠していたってワケ」


 どういうワケかバレてしまったけれどね――困ったように笑いながらレアが肩を竦めた。


 彼女とアルフレイの説明を受け、セキレイと半ば世捨て人をしていたベイクは新たな情報にそれなりに感心したような態度や声を発した。


「――どーでもいいが、シショーとはどーいう関係なワケ?」


 そんな彼の隣から、ずっと黙っていたはずのセキレイが突如として声を挙げた。しかも話の本筋とはまるで関係ない、明らかに私情からの問いであった。


 おい――と呆れた調子でベイクが彼女を止めようとするが彼女は「シショーも、この人とはどういう関係なんだ?」と冷ややかな目を彼に向けて訊ねた。ベイクは呆れ果てかぶりを振る。


 それに対してクスと笑ったレアは、手にしたカップをソーサーへと音も立てずに置くとテーブルに肩肘を突き、頬杖すると僅かに傾いた顔をベイクへと向け、翠色の瞳で見詰めながら言った。


「昔の仲間。ベイクにとっては私は、ね。でも私にとってベイク、貴方は――」

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