第8話
再び男との斬り合いが始まる。
セキレイの身体能力は天才的で、女性故の非力ささえ見なければ切れや速度に関してはベイクにも劣っていないし、三人の内では最も腕が立つと見える赤い外套の男をも凌駕していた。
身体強化をかけた男の剣をまともに受け止めないようにセキレイは、防ぐ際には必ずライディーンの峰を使い凌いで行く。それが出来るのはつまり男の剣筋が彼女にはもう見えているからである。
「こんなの魔法を使うまでも無いのに――」
そしてもう一人からの、死角を突いたはずの攻撃を彼女は一瞥すること無く、足音と気配、そして殺気によって距離感とタイミングを見切ったセキレイは避けると、彼の横槍により手を出せなくなっていた赤い外套の男へと剣を振るった。
しかしその剣は容易くも男に受け止められてしまい、しかもセキレイは己の剣に稲妻の一筋も走らないことに苛立ちを覚える。剣に集中出来ないために速度も威力も乗らず、更には魔法すら不発に終わる。故に簡単に防がれる上――
「バカ野郎! 魔法に意識を傾け過ぎるからそうなるんだ! 寝ぼけて小火起こした時の感じで良いんだよ!!」
この野次である。
戦いを見守るベイクはしかし傍観せず、セキレイの戦いを不甲斐ない。やれば出来るのにと彼女が魔法を不発に終わらせたり、本来であれば止めになり得た一撃を集中出来ないせいで防がれたりするとそうやって叱っていた。
「寝ぼけてたんだからそんなの覚えてないよ!」
以前セキレイは睡眠中に誤って魔法を暴発させたことがあった。彼女のみが発現させることの出来る雷の魔法。
ベイクはその時のことを言うが、苛立ったセキレイはついとそんな彼に怒鳴り返してしまった。斬り合いの最中にである。しかしその時、ベイクとそして彼女と直接対峙している男は見ていた。彼女の剣に青い閃光が一筋瞬いたのを。
男はもう一人にも退くよう言いつつ、自らもセキレイの間合いから急遽飛び退った。それを見たセキレイはきょとんと剣を構えたまま目を丸くする。
ベイクは彼女に悟られないよう小さなガッツポーズをすると共にほくそ笑む。そして言った。
「じゃあ思い出せ! どっちか一方じゃその内に必ず限界にぶち当たる、限界をぶっちぎるには両方なんだよ!! 出来なきゃテメエはその短小な一生をどう足掻こうが、勇者と呼ばれることは絶対に有り得ねえ。オレみたいなんざなおさらだ! 惨めな村での、あの生活のがよっぽどマシだぜ」
死なせてやった方が良かったか――だめ押しとばかりにベイクがその言葉を告げた直後であった。
セキレイを爆心地として無数の稲妻が四方八方へと、鎌首をもたげた蛇のように現れては周囲をのたうち回り出す。それらが奏でるは爆音の金切り声であり、稲妻が触れた地面や建物は焦がされ引き裂かれ、ガラスたちは軒並み破裂し住民らの悲鳴が響いた。
そんな惨事の中心ではその全身から稲妻を生やしたセキレイが今にも泣き出しそうな顔をしてベイクを睨んでいた。そして声を出せば噎せ返りそうになるのを堪えながら怒鳴る。
「――横暴なのもその辺にしろ、シショー!!」
尽き出した手のひらから魔力を放出し障壁を作るとでたらめに走り回る稲妻から周囲を庇いつつ、その光景を目の当たりにしたベイクはやり過ぎたかと危惧する。
しかし彼の口元には隠しきれない歓喜の笑みが濃く刻まれていた。それは歯を剥くほどはっきりしたものであり、それをどうすることも出来ないまま彼は告げる。
「したけりゃそのボケどもをさっさと片付けてみやがれ」
「やっつけたら絶対にもう横暴なこと言うなよ!?」
半べそをかいてぐずぐずと鼻を鳴らしつつベイクを指差し言うセキレイに、彼は「さっさとしろ」と急かしつける。今の内にその感触を覚えさせなくてはならないと、事実ベイクは焦っていたからだ。
ベイクの指示を受け、うんと頷き一度目元を袖で拭ったセキレイは怯える二人を見た。が、思い出したように彼女は再びベイクを見ると「絶対だからな!!」と念押し。
彼は適当に「はいはい」と返す。
すんと赤くなった鼻から出てくる鼻水を引っ込めながら、するとセキレイの姿が消失した。




