第6話
邪魔するぞ――一言掛けながら扉からその姿を見せたベイクの目に真っ先に飛び込んできたのは、赤い外套を背になびかせた白の法衣に銀の鎧を組み込んだ男が濃紺のエプロンドレスを纏う女性を張り倒す光景であった。
ベイクに続き扉から顔を覗かせたセキレイが彼に声を掛けようとした時にはもうベイクはそこに居らず、彼女は男たちの方へと顔を向ける。
するとそこでは殴られた女性が倒れる前に抱き留めると共に、尽き出した掌底で殴った男を突き飛ばすベイクの姿があった。
扉から女性らが揉めている戸口付近までは十歩以上はある。ベイクはそれを瞬く間に、それこそ瞬間移動したかのような速度で詰め寄ったのであった。
突き飛ばされた男は後二人同じ格好の者たちが待ち構えている外まで、開け放たれたままの出入り口を抜けて通りまで飛ばされ地面を転がって行く。
その光景を前に、件の二人が動こうとする。
「これ以上続けようってんなら、次からは容赦しねえ。タダじゃ済まさねえぞ」
言い終わるか否か、青い閃光が一筋瞬くと、踏み込もうとした二人の内、一人の喉元に剣の刃が突き付けられる。それをしたのはベイクの意図を察し閃光と化したセキレイであった。
彼女に刃を突き付けられている男は勿論、彼を半ば人質にされてもう一人も動けなくなってしまう。男は腰に提げた剣の柄に手を伸ばそうとしている最中だった。
二人からの戦意は感じられず、これで去るかと剣を突き付けたままで居るセキレイは思ったが、そこにベイクの喝が飛んだ。
直後、男の首からセキレイが剣を翻す。甲高い剣戟の音と共に火花が散る。
遅れて戸口近くまでやって来たアルフレイが見ると、最初にベイクが突き飛ばした男が復帰しセキレイを襲ったようであった。
「……忠告が聞こえなかったか?」
「ムダだ、シショー。コイツら、ヤル気満々って感じだ」
失神しているらしい女性を抱えたまま、苦々しくベイクが舌打ちする。セキレイの言う通り、一人が剣を抜いたことで他の戦意を喪失していた二人もそれを取り戻し、剣を次々に鞘から抜き放って行く。
三人は展開し、唯一表に出ているセキレイを取り囲んだ。彼女は男たちを見回しつつ、最後にその目をベイクへと向ける。許可を得るためだ。
「……シショー!」
セキレイの呼ぶ声にベイクは歯噛みした。
三人の男の格好は明らかにただの強請やごろつきでは無い。正規に支給されているような上等なものである。
ベイクはそんな手合いと問題を起こせば間違いなく面倒になる事を分かっていて、しかし手を出してしまった。ここに来て己の性分を彼は呪う。
しばし悩み、そしてちらと尻目にアルフレイをベイクは見た。そして彼の視線に気付いたアルフレイは、しかし確かに頷く。
――彼からも許可は下りた。後は自分だけ。
ベイクは男三人を見る。力量は大したこと無く、彼から言わせれば石ころも同然である。そして決心する。
「――いいか間違っても殺すな。それに、手こずる事も許さん」
セキレイを見てベイクが言う。注文は横暴なものである。
しかし彼からそれを聞いたセキレイは不敵な笑みをその顔に浮かべ、緊張から僅かに乾いた唇を舌で舐めて潤しつつ、右手にした片刃の剣を手中でくるりと回すと改めて構え直す。そして言った。
「……モチロン!!」
一対三。セキレイの戦いが始まろうとしていた。




