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第2話
一
押し寄せる漆黒の闇。浮上する島。そびえ立つ巨大な樹。
海水と闇に浸されて行く街から響き渡る狂騒の声。
――そして、賛歌。
迫り来るその闇の中、蠢く異形のものたちの影。
無辜の民は食い散らかせ、勇士たちは引き裂かれる。
赤と黒、その中を泳ぐ誰のものとも知らない肉塊たち。
それを踏み散らかして行く怪異たち。
肉の花が咲き、肉の蔦が這う荒廃とした街を、赤い水溜まりを跳ね飛ばしながら男は駆けた。
それが命であり、この悪夢から故郷と世界を救うために。
無事この街を逃れられるよう、男のために多くの者が犠牲となった。そのためにも。
――希望を見出せ。
星詠みはそう言った。
星詠みは自らが見た光景を男に見せた。
希望の在処。
それは誰もが語るお伽噺。
――女神よ、どうか慈悲を。その慈悲を。
男は駆ける。
黒を掻き分け、赤を蹴飛ばし。
かつて居た民ではない、新たな民たちをその背に引き連れて。
――慈悲を!
そう何度も何度も懇願しながら、何も見えない闇を駆ける。
希望は微かな光。それを道標にして。
その光が、この闇を、悪夢を終わらせてくれると願いながら。




