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勇者になりたくない主人コウ~故郷への帰還を夢見て~  作者: 時斗
第ニ部 大国、イーブルシュタインへ……
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第69話:決勝トーナメント開幕!

お待たせ致しました。

第69話、投稿致します。


「小説家になろう」と他サイトに投稿している分で描写、視点を変えております。一応その部分には「☆★☆★☆」マークが付けてあります。




「これで全部か……よっ!!」

「ガッ!? ……ぐぅぅ」


 食事を楽しんだ『リレーション・チアーズ』からの帰り道……、やはりと言うべきか僕達はこちらをずっと窺っていた刺客から強襲されていた。尤も予想通りであり、襲撃を警戒していたこちらにしてみれば驚く事なくただ淡々と相手をしているだけだったが……。


「……死ねっ!!」

「…………甘いよ」


 不意をついたつもりらしい刺客からの攻撃を余裕をもって避けると、すれ違いざまに峰打ちで相手の背中へと強烈な一閃をお見舞いする。……他の連中同様、その一撃で崩れ落ちると……、そのまま衣服を残して溶けるように消えて行ってしまった……。


「師匠の方に行った奴で最後だったみたいですね……」

「後処理はこの散乱した武器や衣類を始末するだけだから楽っていっちゃ楽だが……、なんか味気ねえな」


 ……刺客は全員で10数人といったところか……。僕はしゃがみ込んで人の姿をとっていたモノを確認する。


「用済みとなったらすぐさま消す、か……。先程まで飲み食いもしていた普通の命だったのに……いや、ホムンクルスだっけ……?」

「そうみたいだな。正直俺も見たのは初めてだ。しかも、ここまで精巧にヒューマンの姿に模したモノってのは……聞いたこともねえ」

「錬金魔法自体がとても希少(レア)なものですからねえ……。初歩中の初歩……ってレベルの魔法ならセシルさんが使えたって話だったかな? でもその時話に出てきたホムンクルスは明らかにソレとわかるモノらしいですよ? こんな一見するとヒューマンそっくりっていうのは……」


 アルフィーの言葉を聞き、改めてホムンクルスの残骸を調べると……、ちょうど液体のようになっていたモノが蒸発するように消えてしまうところだった。僕はその光景に何ともやるせない思いを抱く。


(どうやって創り出しているのかはわからないけど……、『生命(いのち)』を冒涜しているような嫌悪感、かな? 物凄く胸糞悪い……。まるで命を使い捨ててるみたいだ。これを行っているのはやっぱり……)


 今のところ証拠はないから決めつける事は出来ないけれど……、現状一番怪しいのは例の皇太子だ。例のダグラスはこの国ではかなりの権力を持っていた……。やはり屑を束ねるトップも……。


「……大丈夫か? あまり背負い込む(しょいこむ)なよ。コイツらがこうなったのはお前のせいじゃない。お前、変なところで抱え込みそうだからなぁ……」

「…………ああ、僕は大丈夫さ。有難う、レン。まぁいずれにせよ……明日にはわかると思うよ。恐らく僕の相手は……」


 間違っていなければ自分の対戦相手はアイツ(・・・)だ。僕を消そうと画策しているなら、確実にアイツを差し向けてくるだろう……。表向きは事故を装いつつ、確実に抹殺する為の刺客として、ね……。


「今日はもう休みましょう、師匠。……まぁ、明日試合なのにこんな時間まで吞んでいた自分たちが言う事じゃないんでしょうけど……」

「何だぁアルフィー……、なんか俺がお前らを付き合わせたみたいに聞こえるぞぉー」

「うわっ……と、付き合わせたも何もその通りでしょう!? レンさん、ちょっと呑みすぎですよっ! アンタも明日試合でしょうに……っ!」


 アルフィーに肩組んで絡みだすレンに苦笑しつつ、彼の言う通り気にしていても仕方ないかと頭を切り替え、僕達は滞在場所へと戻っていくのだった……。






 ☆ ★ ☆ ★ ☆






 決勝トーナメント当日、僕はシェリル達を伴い試合会場へと訪れていた。少し早めに来すぎたか……、まだ人もまばらで閑散としている会場の控室に入った僕達。モニカちゃんとブーコさんは後から応援に駆けつけてくれるという事で、アルフィーを護衛として置いてきたのだが……、アイツ、食べすぎたのか朝辛そうにしていたな。


「どうせレンに勧められるがまま、自分の限度を超えるまで付き合っちゃったのでしょう? 全く、レンはいくら食べても翌日にはケロッとしているから、アイツのペースに合わせたら駄目なのよ……。コウ、貴方の従者でしょう? ちゃんと見ていてあげないと駄目じゃない……」

「…………面目ない」


 僕にも言い分はあったが……、アルフィーがああなってしまったのは事実なので、言葉を呑みこむ。とりあえずモニカちゃん達に任せてきたから……、少し休めば回復するだろう。……ジェシカちゃんに知られたら怒られるだろうな。ちゃんと彼を見ておくと言ったのに、すぐにこんな事になってるんじゃな……。


「ユイリ、貴女の仰りたい事はわかりますが、その辺にしておいて下さいな。コウ様も反省なされているのですし……」

「姫は相変わらずコウに甘いですね……。はぁ、もういいわ。それより……王女殿下、貴方の応援に来て下さるそうよ」


 王女殿下……、という事はレイファニー様か。


「……わざわざ王女殿下が応援に来られる事もないと思うけどね。試合だって今日は午前と午後で1試合ずつしか無いんじゃなかったっけ? その2試合で僕達ストレンベルク王国の人間が参戦するとは限らないだろうに……」

「他ならぬ貴方がその考えを否定しているんじゃない? 少なくとも、貴方の試合は組まれていると思うわよ? 理由は……言うまでもないでしょう?」


 まあ……ね。ユイリの言う通り、僕の試合は恐らくあるだろうな。それも第一試合……、相手は刺客を送ってきている人物の手の者。もっと言えば……、既に僕は一度対峙している。


「まだ時間もあるようですし……、それならば彼女にご挨拶しておいた方がいいのでは?」

「ええ、大きなくくりで言ってしまえば組織のトップが応援に駆けつけてくれていますからね。コウ……、それでいいかしら?」

「ああ、わかったよ」


 決勝戦とかならまだしも……、最初の試合から来て頂くなど恐れ多い……。心配は無用と言っておかなければ……。そう思いながらユイリの案内の下に会いに行こうとしたのだけど……、


「そこを通して下さい! 一体どういうつもりなのですか、貴方方は……っ!」

「何度も言わせるな。ここは誰も通さないよう言われている。探し人か何か知らんが他を当たれ」


 王女殿下の下へ向かっている途中、何やら一角が騒がしい。そちらの方へ行ってみると……、一人の女性が二人の門番らしき男たちに通せんぼされているようだった。しかも、止められている女性は……!


「コンスタンツ嬢……? 一体どうしたの!?」

「ああ、ユイリ様……! 実は、王女殿下の姿が見られなくなって……! こちらの方に行かれたと思うのですが、この方々が通してくれないのです……!」


 そうだ、確かレイファニー王女のお付きの女性だ! 彼女がユイリにそう訴えると、目の前の男たちが、


「ここには誰も来ていないと言っているのだ。それなのに……そこの女は部屋に入ろうとする。我々はそれを止めているだけだ」

「……なら一度部屋を見せてくれてもいいのではないかしら? そうすれば彼女も納得すると思うのだけど?」

「だから、ここは誰も通さないように命じられているのだっ! 貴様ら、言いがかりをつけるつもりか!?」


 ……埒があかないな。どうやらコイツらは譲るつもりはないらしい。さて、どうするか……。思案しているとユイリは、


「いいからそこを通しなさい……。殿下のお付きである彼女がここまで言うのよ……、確かめていらっしゃらなければすぐに立ち去るわ。だから、道を開けなさい……!」

「貴様……っ! 駄目だと言っているだろう! 我々はアーキラ殿下に命じられているのだ。貴様らはそれに逆らうつもりか……!? 言うならば我が国に歯向かうという事と同義なのだぞ……!」

「だから何……? 私はストレンベルク王国のシラユキ公爵家の者よ……! 王家に従い、お守りする任も帯びているわ。レイファニー殿下直属の侍女、ミリーネ公爵令嬢がここまで言っているというのに確認すらもさせず追い返そうとするなんて……、貴方たちこそ我が国に対し無礼を働いている事に気付いているの……? もう一度言うわ……、道を開けなさいっ!!」

「グッ……、き、貴様……っ!」


 ユイリの気迫に明らかに腰が引けている様子の彼ら。今ならば素通り出来そうだな……。僕は連中が怯んでいる隙にスッと押し通る。


「っ……!! 貴様っ、ま、待てっ!!」


 そう静止させようとするのを振り切り、強引に扉を開くと……、


「なっ……!?」

「え……コウ、様……?」


 客室として使われているのか、そこまでは広くはないその部屋の片隅に、アーキラ皇太子に迫られ今まさにキスされそうになっていたレイファニー王女の姿がそこになった。部屋に踏み込んできた僕達に驚いたのか、壁に押し付けていた彼女の両手を離すと、その機を逃さずスルリと抜け出たレイファニー王女がこちらへと駆けてきて……僕の後ろに隠れる。


「これはこれは……、勇者候補殿とシラユキ公爵令嬢ですかな? どうしてここに? 一応、婚約者同士の語らいを邪魔してほしくなかったので、彼らに申し付けていたんですがね」

「先程から何度も申し上げているではありませんかっ! (わたくし)達が婚約者となった覚えは無いと……!」

「……王女殿下はこう仰ってますが?」


 レイファニー王女が僕の背に隠れた時、一瞬顔を歪ませたアーキラ皇太子だったが……、すぐに表情を戻してそう語りかけてきた。すぐさま王女が反論し、それを受けて僕が彼に言葉を返すと、


「全く……先程もお伝えしたでしょう、レイファニー王女。既に外交ルートを通じて契約が成された事柄である、と。むしろ、どうして貴女が知らないのです? いくら政略結婚となろうとも、それらを知らないというのは些か問題なのではないですか? おまけに他国に来ておいてルールも守らず……、このような暴挙に打って出るなど、一体どういうつもりなのかな?」

「そ、それは……! ですからそのような事、報告があがってきていないどころか、書類を見たことも……」

「ですから……、それはそちらの問題でしょう? 此方には重要書類として保管しております。当然、そちらの玉璽も押されたものですよ。貴女の父君も了承されているという事ではないですか、レイファニー王女?」

「…………その件については此方でも調査致します。ですが……貴方が専属の侍女すらも押しのけて強引に王女殿下を連れ出されたのでしょう?」

「連れ出したとは穏やかではありませんね、シラユキ公爵令嬢。むしろ、彼女が自ずからこちらに参られたので、それを迎えただけです。まぁ、婚約者同士で交流を持ちたかった事は否定しませんがね。なのに貴女は止める彼らを振り切り、強引にこの部屋に乗り込んできた……。彼らが私の命に背いて迎え入れる事はないでしょうからね。これは問題ではないですか?」


 そう言って畳みかけるように此方に非があると主張するアーキラ皇太子。流石にユイリも分が悪いかな? だけど、忘れている事があるようだな。


「……王女殿下が自らこちらに来られたという話だけど、それはおかしくないですか? 一国の王女がお付きの者も伴わずにやって来る訳がないでしょう。貴方は迎え入れたと言いましたね? では、どうして王女付きの侍女がこの部屋に入ろうとするのを足止めしたんですか? 正式に招待したのであれば、迎え入れたのちに婚約者と語らいたいと伝えればいいじゃないですか」

「それは……、だから婚約者同士で交流するのに邪魔されたくなかったからですよ。なので……」

「だから、どうして部屋に通さなかったのです? 部屋に招いた後でそう説明すればいいでしょう? まして……、この部屋に入った時、すぐに王女殿下は貴方を押しのけて此方に来られました。明らかに貴方と一緒に居たくなかったという事ではないんですか? それでいて良く交流を深めていたなどと言えますね。一国の皇太子ともあろうお方が他国の王族に対して一方的に語らいあうなんて許されるんですか? 例え貴方の主張通り婚約者同士であったとしても、節度は守るべきでは? 王女殿下は嫌がっているように見えましたけど? 一方が拒絶しても許される契約となっているんですか、その婚約者云々とやらは。別にストレンベルク王国は貴方の国の属国という訳ではないんですよね? それなのにそのような応対をなさるなど……、その契約とやらにはイーブルシュタイン側が有利とでも記載されているのですか? もしそうならば王女殿下の父君が納得されるとは思えないんですけど」


 僕がそう反論すると、アーキラ皇太子はグッと押し黙ってしまう。話術士で得た能力(スキル)『怒涛の正論』……この世界にはまだ存在しないだろうから命名まではしていないけど、心の中でマシンガントークとルビを打っているが……、その効果も相乗ってアーキラ皇太子の論調の隙をつき、相手のそれを上回る勢いで論破していくと、ユイリ達も調子を取り戻したようだ。僕の言葉に気を取り直した王女殿下とユイリが僕に続く……。


「……彼の言う通りですわ。それに……(わたくし)はお離し下さいと申し上げましたわよね? それなのに強引に迫ってきたばかりか、外交を盾に破廉恥な事をされそうになりました……。彼らが乗り込んで来てくれなければ、そのまま押し切られるところでしたわ」

「百歩譲って婚約が事実なのだとしても……、強引に事を進めようとするのは如何なものかと思いますけど? それに、臣下としては王女殿下の身の安全が最優先事項です。それを押しのけておいて勝手に入ってきたのは問題だと言い張るのは無理があるのでは?」


 ユイリ達からもそのように畳みかけられて、ぐぬぬと口を噤んでいたアーキラ皇太子だったが、やがてあからさまに溜息をつき肩をすくめると、


「……ふう、まあいいでしょう。些か口の利き方が気になるところはありましたけど……、彼は異世界から呼ばれた勇者候補殿という事ですからね。まぁ、貴方の弁達者さに免じて許しましょう」

「…………はぁ、そうですか」


 何勝手に話を纏めようとしているんだ、コイツ……。別にお前に許されようとも思ってないよ。もし、こちらの主張に明らかな矛盾があったら『怒涛の正論』は上手く働かない。最初は王女殿下達に反論していたコイツが何も言えなくなってしまったのは、単純に僕に押されただけではなく何か後ろめたいものもあったのだろう。……やっぱり例の屑(ダグラス)といい、やっぱりこの国の連中はヤバい奴が多いな。自分の都合が悪くなると切り上げようとするなど……、最早コイツに対して敬称をつける気もなくなってしまった。


(……これはほぼ確定、だな。一連の刺客騒動も、恐らくコイツが糸を引いているに違いない。先日から思っていたが、勇者候補などと口にしているけど、他の人たちの反応とは異なり敬う気持ちも感じられない……。まぁ、別に敬ってくれなくてもいいんだけどさ)


 僕がそう思っていると、ここは引いた方が良いと判断したのだろう、このいけ好かない男は体裁を整えながら、


「こんな状況では最早交流も望めないですね……、ここは此方が退いておきましょう。気分を害してしまったのならばお詫びしておきます。ご無礼をお許し下さい、レイファニー王女」

「……いえ、こちらも確認不足でしたわ。本国に問い合わせてはいたのですが……、至急確認致します」


 ……ここまで強気に出ている以上、契約は結んであるのかもしれない。だけど十中八九何かしらの小細工がされているのだろう……。そのまま出ていくのかと思いきや、ふとシェリルの方へ視線を向け……、


(今……シェリルの方を見て笑った……?)


 彼女には現在『認識阻害魔法コグニティブインヴィテイション』を掛けている。結構強めに掛けていて、知らない人から見ればその辺の石ころのように気にされない位に作用されている筈だ。シェリルに魔法が掛かっているのを知っていて、彼女の至近距離にいる僕達だって意識しなければ分からないというのに……。


(気のせいか……? ただあの笑み……、何か気になる……)

「ああ……、そういえばコウ殿、無事決勝トーナメントに出場が決まったようですね。凄いじゃないですか。貴方の組にいたシームラはイーブルシュタインの中でも十本の指に入る強者(つわもの)だというのに……。流石は勇者候補と云われるだけの事はありますな」


 僕の思考を中断させるように人を食ったような感じでそう話しかけてくる。


「シームラは国からも勧誘している程の実力者でね……、少々やりすぎてしまうところが玉に瑕だが、そんな彼を相手取ってトーナメント進出を果たすなど、中々出来る事ではありませんよ。いやぁー見事見事! もしお役御免になったら我が国に来ませんか? 例のカードダスの件もありますし、便宜も図りますよ?」

「……遠慮しときますよ。ストレンベルク王国に不満はありませんし、何よりこの国に居たら命がいくつあっても足りなさそうですから」

「ハハハッ、これは手厳しいですな。一部の馬鹿が暴走した事が悔やまれますよ。まぁ、心の片隅にでも留めておいて下さい。試合、応援してますよ。それでは……グッドラック! レイファニー王女殿下にシラユキ公爵令嬢も御機嫌よう……」


 そう言って部屋を出ていくアーキラ皇太子。……最後までおちょくっている感じがありありと出ていたな……。奴が居なくなったのを見計らって、


「…………こほん。コウ様、先程は助けて頂き有難う御座いました。踏み込んで来て下さらなければ間違いなく、唇を奪われておりましたわ……。もしかしたら、もっと大変な目に遭っていたかもしれません……」

「それよりも王女殿下……っ! どうしてコンスタンツ嬢も連れずに、お一人で行動なんて……っ!」


 ……確かに一国の王女ともあろう方がお付きもなく歩き回るのは変だ。彼女はそのような事をされる人には見えないけれど……。そんな僕の疑問に応えるようにレイファニー王女は、


「……恐らく、呼び寄せ草のせいね……。気が付いたら私はこの部屋に誘い込まれていて、そうしたら扉が閉まってアーキラ殿下が現れたのよ」

「よ、呼び寄せ草!? で、ですがどうして……! 王女殿下のアミュレットが働かなかったの……!?」

「……そうね。私の持つ『抗魔のアミュレット』があれば無効にできる筈だけど……。呼び寄せ草が改良されていたのか、それとも……何かしらの能力(スキル)を使われて一時的にアミュレットを無効化されたのか……、いずれにせよ、危ないところだったわ」


 呼び寄せ草って……、その名の通り誰か呼び出したい人に仕掛けると自然に呼んだ人物の下へ訪れてしまうという……、確かトウヤも使用しているとされた魔法工芸品(アーティファクト)だったかな? 色々な状況でも応用できそうだし、悪用されればトウヤの一件しかり極めて厄介な道具(アイテム)みたいだけど……、対策自体は出来るという事だった。もしレイファニー王女の考察が正しければ……、早急に対応策を考えねばならない。


「…………私が護衛に就きますか?」

「いいえ、ユイリは今まで通りコウ様達の身の回りを警戒していて。私の方は……暫くの間グランにお願いするわ。……グランには負担を掛けてしまうけど、空間系能力(スペーススキル)にも対処できる彼以上の適任者はいないし、ね……」


 と、そこまで話したところでレイファニー王女が、それよりも……! と身を乗り出してくる。


「今日から本戦が始まりますが……、くれぐれも無理はなさらないで下さいね! ユイリ達からも報告を受けてますが……、どうもイーブルシュタイン側で何かしら画策しているのは、まず間違いないと思いますわ。ですから……勝敗などは気にせず、危ないと感じたらすぐに棄権して下さって結構です。本当は……貴方にこんな大会などには出て頂きたくなかったのですけど……」

「それはもう仰らないで下さい、レイファニー王女様。この大会に出場すると決めた以上、優勝するつもりではおりますが……、貴女のお言葉は肝に銘じておきます」


 自分の目的の為にも……、いくら罠を仕掛けられていようとこの大会に出る事にしたのだ。危ないからと今更尻尾巻いて逃げる訳にはいかない。……その為にグランによって特殊な空間を展開して貰い、ガーディアス隊長に嫌というほどしごかれたのだから……。


「…………貴方には危険な目に遭わせてばかりで、『時紡の姫巫女フェイト・コンダクター』として不甲斐なく思いますわ。こんな事態となるのなら、怪しげな動きを見せていたイーブルシュタイン主催の会合を、何としても回避するように働きかけるべきでしたわ……。全く私を婚約者だなんて……、同盟間の条約でも謳われている通り、儀式によって『勇者召喚(インヴィテーション)』を行った時点で私は貴方と……!?」

「王女殿下? どうかなさいました?」


 喋っている途中で口を噤み、僅かに頬を朱色に染めたレイファニー王女に僕はそう訊ねると、


「な、何でもありませんわっ! ……こほん、私は勇者様をお呼び出しした以上付き添う使命を帯びているので、今更婚約者云々という話が持ち上がるのはおかしいのです。仮にその前に政略婚などの話があったとしても、一部の例外を除き全て白紙に戻る筈ですから……」

「成程……、召喚した責務として傍で支える、と……。そう言えば、先代の勇者は召喚した姫巫女様と一緒になられて王位に就いたとの事でしたっけ? 確かディアス隊長がそう言っていたような……」

「先代勇者様だけでなく、歴代の勇者様は皆、一緒になっているようですわ。そもそも、儀に応じてお呼びする勇者様の候補は姫巫女と波長のあう者という事ですからね。本来の召喚ではお呼びする際にお互いに納得されて来て頂く訳ですからね……。謂わば自身の理想の相手を……っ!?」


 また会話の途中で口ごもるレイファニー王女。さっきから……一体どうしたんだ?


「…………王女殿下?」

「い、いえ! お気になさらずに! と、とにかく試合、頑張って下さいね! 心より応援しておりますわ……っ!」


 そう言うやいなや顔を紅潮させたまま侍女を伴って行ってしまう。それを見ていたユイリ達が小さく溜息をつきながら、


| 《「王女殿下……、そこで逃げちゃ駄目でしょうに……」》

| 《「……まぁ、レイファは王女に姫巫女といろいろ立場もありますから……」》


 ちょっと聞き取れない声でユイリとシェリルが話していたようだけど……、まぁ気にしていても仕方がない。


(……僕は所詮、不完全な形でこの世界にやって来てしまった紛い物の勇者だ。本来呼ばれるべきだった人物とは比べる事も出来ないだろう……。何せ僕は何の変哲もない、只の一般人なんだから……)


 レイファニー王女とは初めて出会って時より、どこか惹かれるような想いを感じてはいた。単純に彼女の美しさからくるものかと思っていたが……、先程レイファニー王女がアーキラに手籠めにされそうになっていたのを見て、不思議と胸にこみ上げてくる感情があった。……そう言われれば、イーブルシュタイン連合国に入った際にアーキラに連れられていった時にも……。


「……コウ? どうかしたの?」

「コウ様……?」

「……いや、何でもないよ。僕達も行こうか? そろそろ時間だろうし、ね……」


 ユイリ達に声を掛けられ僕は思っていた事を振り払い、そう答える。……今更考えても仕方がない事だ。元の世界に帰還すると決めている以上、例え運命で結ばれるべき相手であろうと……その気持ちには応えられないのだ。自分の世界にまで付いてきてくれるというシェリルの想いにすらも……、不幸にしてしまうと恐れて避けている僕にそんな資格はない……!


 誰にも伝える事が出来ない気持ちを抱えたまま、僕は彼女たちにそう促し部屋を後にするのだった……。






 ☆ ★ ☆ ★ ☆






『……さて、それでは盛り上がって参りましたところで、第一試合……勇者候補として出場してくれたコウ選手と、我らがイーブルシュタインが誇る絶対能力者アブソリューション・ホルダー、シームラ選手に入場して頂きましょう……! 昨日の総当たり戦(バトルロワイヤル)からの因縁をすぐさま解消する事となりましたが……、果たしてどのような試合展開となるでしょうか……!』


 仰々しいトーナメント開幕を伝える司会の言葉を冷めた形で聞き流しながら、僕は武舞台にあがると待ち構えていたシームラの前に対峙する。


(やっぱり……アイツと当たる事になったか)


 決勝トーナメント第一試合、僕は昨日戦ったシームラと戦う事となった。よりにもよって第一試合、それも明らかに僕を殺そうとしている相手をぶつけてくるなんて、ね……。こんなあからさまな展開に苦笑していると、奴は僕を見るなり不敵な笑みを浮かべ挑発するように言葉を投げかけてきた。


「1日の猶予があったんだ。心残りが無いよう満喫できたか?」

「満喫だって? ……一体何を言ってるんだ?」


 その言葉の裏側は理解しつつ、僕はそう相手に返す。


「勿論……これから不幸な事故が起こってしまうからよぉ……、この世からおさらばする前に満喫できたか、と聞いてるんだ」

「不幸な事故、ねえ……。逆に聞きたいんだけど、そう言うお前こそ覚悟は出来ているのか?」

「覚悟? 何の話だ?」

「その不幸な事故とやらが……お前に対して起こってしまう覚悟さ」


 僕が逆にそのように言葉を投げかけると、シームラは一瞬ぽかんとしたようだったが……やがてその意味を理解したのか、ククッと笑って馬鹿にするような笑みを向けてきた。


「クックック……。何を言うかと思えば………面白い冗談だっ!」

「っ!!」


 そう言うや否や……、奴は恐ろしいスピードでこちらに対し武器を突きつけようと迫ってきた! 間髪入れずに襲い掛かってきたその一撃を身を翻して辛うじて回避する。


『おおっと、シームラ選手、いきなり瞬天衝を放ったぁー! それを躱すコウ選手!』


 疾風突きをさらに鋭くしたような、そんな技か……。アナウンスが流れてくるのを他人事のように感じながら、次々と繰り出される攻撃に対処していく。


「おらおらおらおらおらっ!!」

『止むこともない怒涛の攻勢を仕掛けるシームラ選手を、コウ選手は躱し続けているーっ!! これは……いつまで躱せるのかーっ!?」


 幸いにして……奴の攻撃は全て見えている(・・・・・)。血塗られた長剣を僕に突き立てようとする一撃一撃を、躱したり受け流したりして対処していくと、瞬間シームラの姿がぼやける……!


「――っと!!」


 ピピピッという『敵性察知魔法(エネミースカウター)』の警戒音(アラート)に、咄嗟に死角へと回り込んだシームラの剣を己が左文字で受け止める。ギリギリと鍔迫り合いになった際にシームラが言葉を投げかけてきた。


「中々やるじゃねえかっ……! 俺の動きに反応できるとはよっ!!」

「そっちこそ随分余裕を見せつけてくれるじゃないか……っ! 先日のように風の力に頼らなくていいのかい?」

「あの力を使ったらすぐに終わってしまうだろっ!? それじゃあ面白くないんだよっ! この魔剣、ダーインスレイブが……貴様の血を吸わせろと荒ぶってるんだよぉ……っ!!」


 そのまま力任せに押し切ろうとしてきたシームラをいなし、すぐさま奴からバックステップで距離をとる……。力の方向をずらされたシームラだったが、体勢を崩すことなく無造作に剣を肩に担ぐようにしてゆらりと僕の方へと笑みを向ける。


「まさかここまでやるとは思わなかったぞ? 一瞬で俺の前にひれ伏させ、観客の前でせいぜい痛ぶってやるつもりだったが……」

「……お前さ、仮にも強者と名乗るなら相手の力量くらいは推し量れないと不味いんじゃないの? 少なくとも、お前を殺せるくらいの力はあると思ってるんだけど?」


 グランや本気になったレンにはまだまだ敵わない僕だけど……、以前のように瞬殺されるような事はなくなったんだ。隊長からの地獄の特訓の件もあるし、目の前のシームラに圧倒されるような事も無くなっている。そんな僕の言葉を聞いた奴は嘲りの表情を浮かべ、


「ふん……、相変わらず減らず口は健在のようだな。まぁ、予想以上に楽しませてくれそうな貴様に免じて、今は(・・)俺の『絶対颶風』は使わないでおいてやるよ」

「『今は(・・)』、ね……」


 無防備であるかのように両手を広げながらそう挑発してくるシームラ。僕は慎重に奴との距離を取り警戒したまま構えていると、


「どうした? 今が千載一遇の好機なんだぜ? 俺が『絶対颶風』を発動させたら貴様に勝機はな……」


 余裕そうな奴に対して鎌居達を放り込んでやると、当たる寸前で真空の刃が何か(・・)によって激しい衝突音をかき鳴らしながら消滅してしまう。言葉が途中で中断されるもシームラは、


「人の話は最後まで聞くものだぞ? 全く、のこのこ貴様がやって来ていれば、今のちんけな技と同じ運命を辿ってたというのに……」

「なんでお前の茶番に付き合ってやらないといけないんだ? ……時間の無駄だ。さっさと掛かってこいよ……きちんと粉砕してやるからさ」


 僕は誘うように刀を相手に向けて構える。『霞の構え』……というやつだ。それを見たシームラは舌打ちしつつ、


「全く、相変わらず人をイライラさせるのが上手い奴だぜ……。コイツはあっさりと死なせてやろうっていう俺の慈悲でもあったんだぜ? そんな人の好意を無に帰すとは……余程死にたいらしいな」

「……先程も言った。何度も言わせるな……、いいから掛かってこい! 返り討ちにしてやるよっ!」

「っ! 調子に乗ってんじゃねえぞ! この糞虫がぁっ! ……そんなに死にてえなら今すぐブッ殺してやるよっ!!」


 遂に怒りが頂点に達したのか、何やら詠唱を始め出したシームラを注意深く窺いながら自分も精神を集中させる……。 相手に合わせるように詠唱破棄にて唱える魔法は……、


「……大いなる奔流、疾風の渦を重ね合わせ、彼の者の前にその暴力を示せ……『竜巻魔法(トルネード)!』

「……『対抗魔法(カウンタースペル)』!!」


 シームラの魔法が完成した瞬間、僕の『対抗魔法(カウンタースペル)』を炸裂させ、立ち消えとなる。その事実に奴はかなり驚いたようだ……。


「な、何だとっ!? 俺の魔法がかき消されっ……!?」

「天神理念流、攻めの一閃……『天明神風剣』!!」


 愕然とするシームラの隙をつくように、はやての如く距離を詰め闘気を纏った一撃を放つ。流石のシームラも虚を突かれたところに、天神理念流の中でも最速の突撃術の前には避ける事は出来なかったようだ。急所は外したものの……、左肩を撃ち抜かれた後、すぐに僕から離れて怒りの表情を浮かべる。


「き、貴様……っ! この俺に、傷を……っ!!」

「……油断しているからだ。そのくらいで済んだんだからラッキーだったと喜ぶべきだろ?」


 ……尤も、命にかかわるような場所は狙っていなかったが……、上手くいけばそのまま戦闘不能に追い込めないかなとは思っていたんだけどな。シームラはワナワナと血走った眼を僕へと向けていたが、


「……魔法を破った事が自慢のようだが……、何か勘違いしてねえか? 俺は別に魔法に頼る必要はねえんだよ……!」

「クッ……、周囲を風が……!」


 これは……魔法じゃない! 奴の絶対能力か……!? 疾風の刃が常時僕に対して襲いかかってくるようになる……。この状況では再び詠唱を始め出した奴を止める事は難しくなったな……。自分の首元を狙い澄ましたかのような鎌居達を躱した瞬間、シームラの魔法が完成した。


「……苦しみを齎す暗黒の風よ、命奪う猛毒となりて我が敵を蝕まん……『猛毒旋風呪法(ベノムウインド)』!!」

「痛っ――!」


 ……暗黒魔法ってやつか! 阻止できなかった敵の魔法が疾風の刃と共に僕に向かって放たれる……! 例によって異常を無効化したという報告を感じ取っていると、続けて詠唱を唱え終わったシームラが勝ち誇ったように、


「猛毒で苦しむところに更にコイツを叩きこんでやろう…………呪縛を宿せし闇の旋風よ、我が前に立ち塞がりし全ての者を巻き込まん……『麻痺旋風呪法(パラライズウインド)』!!」

「うぐっ! くぅぅぅ……っ!!」


 何時か喰らった時と同様の暗黒魔法が傷ついた部分を容赦なく斬り刻んでいく……。確かこの魔法を受けたシェリル達は全身が痺れて身動きが取れなくなっていたっけ……? それらの魔法をまともに喰らった僕に勝利を確信したのか、


「ククク……、これで貴様は猛毒に蝕まれたまま身動きも取れなくなった訳だ……。さあて、どうやって料理してやろうか……」

『ああっ! 何とかシームラ選手の猛攻を防いでいたコウ選手だったが、どうやら致命的なダメージを喰らってしまったようだーっ!! これは絶体絶命かぁー!? もう降参してしまった方がいいのではーっ!?』


 ……ダメージは負ったが毒や麻痺などの異常は既に『自然体』の効力で無効化している。どうやら奴はその事に気づいていないらしい……。僕はそれを利用し倒れこんだまま相手を窺う事にした。


「さて、どうしてくれようか……。四肢をひとつひとつ剥いでいって達磨にしてやるってのはどうだ? いいアイディアだろう? なあに、俺の『絶対颶風』ならば正確にその部分を削り取ることが出来るぞ?」


 ……タイミングを合わせて『刃傷流(にんじょうなが)し』を繰り出すか? いや、斬撃とは訳が違うから上手くいかないかもしれない。失敗したら手足が無くなるギャンブルに挑むのは嫌だな……。どうしたものかと思っていたら、ふとあるモノを持っている事を思い出し、ソレを数枚取り出すと……、


「よし、まずは腕からだ! 得物を持っている利き腕から切断して……」

「…………いでよ! 魔札召喚(サモン)!!」


 僕は『魔札召喚魔法(コールカード)』を使用し、普遍(コモン)カードとして印刷(プリント)された僕自身のカードを複数枚召喚させる。本来、詠唱も必要ない生活魔法に落とし込まれた『魔札召喚魔法(コールカード)』を格好つけて呼び出したソレらの分身は、使用者に敵対する者を察知し一斉に襲い掛かっていく……。


「なぁっ!? 分身、だと!? あの状況でそんな真似が出来る訳……っ」


 咄嗟に能力(スキル)を使用したのか、2体程は風の刃に切り裂かれるも……、残りはシームラに向かって突進する。その内の一体の攻撃は受け止めるも、死角からもう一体が剣を振りぬき……躱しきれずに掠った傷口から鮮血が迸った。


『こ、これは……っ!? コウ選手が持っていたカードのようなモノから分身を作り出したかと思いきや……、それがシームラ選手に襲い掛かり負傷させた……!? も、もしやこれがストレンベルク王国が各国と共同で誕生させたトレーディングカードダスシステムなのかぁ!? 魔物との戦いでも有用だと聞いてはいたが……、まさか対人戦闘でも効果があるとは!?』


 ……対人というよりも、使用者に(・・・・)敵意を持った者(・・・・・・・)に対して効果があるんだよ。目の前のコイツは僕を殺す気満々だから……、明確に敵と認識し攻撃したという訳だ。製作者として周知させる為の措置と、使いやすいものとする為に一番手に入りやすい普遍(コモン)カードとなっているから、大した耐久性はないし強い魔物なんかにはすぐにやられてしまう面はあるが……、他ならぬ自分の分身として目くらましに使う事も出来る。……アイツの能力(スキル)も僕と分身を見極められなかったようで、攻撃を仕掛けている分身の方を優先して狙ってしまっていた。


「くそったれがっ!! こんな子供だましなモンで『絶対颶風』を翻弄させるだとっ……!? 巫山戯(ふざけ)た真似を……一匹残らず吹き飛ばしてやればいいんだろうがっ!!」


 よし、僕から注意がそれたな……! 僕はすぐさま大勢を整え、再び飛び出していけるように構えを取る。


「ば、馬鹿なっ!? 奴は今、身動き一つ出来ない筈っ……!!」

「――――……『天明神風剣』」


 先程傷付けた方とは逆の右肩を狙い、戦闘力を奪う……。その目的の下に繰り出された僕の技は、今度は寸分の狂いもなく硬直していたシームラの右肩を綺麗に撃ち抜いた。奴は手にした魔剣も地面に落とし、これで終わりかと左文字を引き抜こうとして、


「っ……!」


 何とも言えない嫌な感覚に刺さった刀をそのままにそこから瞬時に離れると……、さっきまで居た場所を竜巻のような暴風が包み込んでいた……!


「……はっ、ははははっ……! まさか俺をここまで虚仮にしてくれるとはな……。より惨たらしく、悲惨な惨殺体(オブジェ)になりたいらしい……!」

「!? ……空気が、変わった……!」


 奴の底知れない悪意と殺気が僕に向けられると同時に、武舞台全体を得体のしれない何かに覆われたのがわかった。これは、大気の結界……!?


「……こいつは『大気抑留魔法アトモスフィアスタック』にさらに改良を加えたものだ。俺が解除しない限り、この結界から出ようとしたものは完膚なきまでに粉砕される……。貴様が生きて武舞台を下りるには俺を何とかするしかないが……、この通り俺にはもう指一本触れられないだろうよ」


 ……そもそも『大気抑留魔法アトモスフィアスタック』から分らんわ。というよりも、そんなモノにまで魔法は干渉できるのか……。最早何でもありだな……とまぁ、重力に干渉させたりしている僕が今更何を言っているんだってなりそうだけれども……。そんな場違いな事を考えていた僕だったが、流石にこの状況は看過できるものではない。試しに新たに魔札を召喚して武舞台の外へ向かわせたが……、奴の張った膜に触れた瞬間、ズタズタに切り裂かれてしまった……。おまけにシームラの周囲にも風の防御壁のようなものが展開され……、よく見てみると徐々にそれが広範囲に広がっていっているようだ。


「ククク……この『絶対颶風』の防風壁が先に仕掛けた結界と重なり合った時の様子は圧巻だぜ? 貴様が昨日使っていた小賢しい防御法ではどうにもならんだろうな。さっさとくたばっていれば良かったものを……、粘りやがるからこんな目に遭うんだよ! 後悔しやがれ、馬鹿がっッ!!」


 ふむ……、奴が重力の事をどう解釈しているかはわからないけど、『重圧魔法(ジオプレッシャー)』で防げるかどうかは微妙なところ、かな……? 勝利を確信したように高笑いをしているシームラを無視して、僕は色々と試してみるべくさらに数体の魔札を『魔札召喚魔法(コールカード)』にて呼び出す。それらが呆気なく切り裂かれるのを見て、さらに馬鹿みたいに騒いでいるが……、とりあえず現状は理解した。


「どうする!? どうするんだよ!? もっと足掻いてみろよっ!! 若しくはどうしょうもないと悟って命乞いでもしてみるかぁ!? みっともなく頭を擦り付けて懇願すれば、もしかしたら俺の気が変わるかもしれねえぞ~~!?」

「…………全く、みっともないのはどっちだか。まだ勝った訳でも無いのに、馬鹿みたいに大騒ぎして……、当初の冷静キャラの(ツラ)も剥がれてきてるじゃないか。大体……どうするもこうするもないんだよ。ただ……、勝つだけさ」


 僕が溜息をつきながらそう答えてやると、奴の思った通りにならなかったのが気に障ったのか、


「減らず口は死ぬまで直らないらしいなっ! 俺に指一本触れる事も出来ないこの状況でっ! どうやって俺に勝つっていうのか……っ! ハッ、勇者候補って奴は頭も悪いようだなっ!」

「その言葉はそっくりそのまま返してやるよ。頭が悪いのはお前だろ? 指一本触れられないというのなら……、触れないで勝てばいいだけの話だ」


 出来れば使いたくはなかったが……、最早そんな事を言っていられる状況でもない。仮に『重圧魔法(ジオプレッシャー)』で防げたとしても、大気まで操れてしまうシームラがその気になれば、空気なんかにも干渉出来てしまうかもしれない……。今だって奴が殺し方に拘っているだけだ。すぐにでも僕を殺そうと思えば、出来てしまうポテンシャルが、シームラの『絶対颶風』は充分あると判断する。ほんの少し感じる良心をきちんと押し殺し、僕は静かに刀を抜き放つとシームラに向けて無造作に構える。


「……何の真似だ?」

「わざわざ敵であるお前に教えてやる義理はない」


 僕は奴の問いかけを切って捨てると、手にした左文字をシームラに向け、そっと×の字に印を切る。そして胡散臭く僕を窺うシームラの前で、そのまま剣舞を踊るかのように静かに舞っていくのだった……。




決着が第70話に持ち越しとなってしまいましたので、出来るだけ早く次の話を投稿できるよう努力します……。

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― 新着の感想 ―
[一言] コウは冷静に対処できていますね。ただ一撃で倒すより、相手の手をすべて出させてから倒した方がより絶望感が強いです。    しかしアキーラはむかつくので、今からカタルシスが解消することを楽しみ…
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