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勇者になりたくない主人コウ~故郷への帰還を夢見て~  作者: 時斗
第ニ部 大国、イーブルシュタインへ……
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第54話:名家

第54話、投稿致します。

少し長くなりそうだったので、2話に分けました。次の話は、出来れば近い内に投稿したいと思います。




 テイルナバの町を盗賊達から解放した翌日、会談の行われる王都へと向かう道中……。


「……あんな話なら聞かなきゃよかったな」


 鈴鹿に跨りながら、僕はそうボヤいていた。後ろに乗っているアルフィーは苦笑いを浮かべつつ、


「師匠、気にしたら負けですよ。確かに胸糞が悪い話でしたが、ああいうのって割と普通の事なんです。偉い方が来たら俺たち平民なんて……。あ、ユイリさん達は別ですよ!? あくまでそういうのもいる……ってなだけで」

「……気遣いはいらないわよ、アルフィー。確かに……、珍しい訳じゃないわ。権力に胡坐をかく人種は……やっぱり多いから」


 ユイリは溜息交じりに答えると僕に向き直り……、


「……コウも見てきた筈よ? 冒険者ギルドにいた、貴族だからと威張り散らしてサーシャに迫っていた連中もそうだし……、あのオークションでの帰り道に襲われた時だって、黒幕はシェリル様を手に入れようとしたある貴族だったわ」

「……そうだったね。やっぱり……何処の世界も屑は同じって事か……」


 自分がいた元の世界だって、権力者の一部は好き放題やっていたものだった。僕はそれを思い出し……、同時に先程聞いた話について考える……。






 これは儂の蒔いた事じゃ……。囚われていた本物の町長を助け出した時、ポツリと漏らしたのがそんな一言だった。憔悴しきった町長が力なく語り出した懺悔……。


 ……イーブルシュタインは数多くの小国がひとつの国として纏まった連合国。その為、経緯はどうあれ様々な諍いが起こったりもする。何せそれぞれの国によって文化も違うし技術、文明レベルだって異なるのだ。いくらイーブルシュタインという国の一部だといっても、その地域によっては栄えていたり、逆に廃れていたりと……、貧困の差も激しかった。


 そんなバラバラな状態の地域を管理する存在が……『名家』と呼ばれるものだ。曰くストレンベルク王国でいう貴族のようなもので、イーブルシュタインの皇族に連なる者や国の中でも影響力のある勢力……、そして合併もしくは取り込まれた国の有力者といった存在らしいのだが……、その権力は絶大で普通の一般人はまず逆らう事が出来ない。名家の機嫌を損ねでもしたら……、そこは蹂躙の対象となる。そのように……国民からは恐れられていた。


 またイーブルシュタインは立憲君主制を取っており、トップである『帝皇』を戴くと同時に評議会という有数の権力者が集まって国を運営している。しかしながら、その評議会のメンバーもその殆どが名家である為、事実上皇族と名家によって国として成り立っているといっても過言ではないようだ。


 そうした中で、テイルナバの町はストレンベルクとの辺境の地域にありながら、その一帯を纏めていた名家も一定の力も持ち、旅人も立ち寄ってくれる事もあり、そこそこ繁栄していた町だった。そのままいけば何も問題はなかったが……、治めていた名家が変わった事から歯車が狂いだしてしまった……。


 ある日、新しく変わったという名家の長男が視察に来るというので、町を挙げての歓待をする事となった。町の特色を出し、綺麗どころを集めて接待の準備も完璧。もし気に入って貰えれば、町の未来も明るい……。そう思っていたのも束の間、やってきた名家の長男というのがこれまたとんでもない人物だった。取り巻きと見られる者達を引き連れ、まさにやりたい放題。暴れる、乱暴はする、挙句の果てには町の娘を攫ってきては、皆で無理矢理輪姦する等と……町民の悲鳴は絶える事がない……。


 そして、不運にも一人の女性が名家の長男の目に留まった。ある町民の妻で、この町で一番の美女とも知られていた女性だ。人妻という事で最初の乱交接待の被害は免れていたものの……、取り巻きの一人が彼女の事を聞きつけ、名家の長男の号令の下、その人妻を差し出す様求められてしまった。差し出さなければ町の破滅……、夫となる男性には我慢して貰おうと家に向かえば、既に逃げ出した後で……。町民一体となって追跡に移ったのだ。


 運が良かったのか、二人の足取りを掴む事ができ、無事捕らえる事が出来た。何とか妻を守ろうとする男を取り押さえ、泣きながら夫に縋ろうとする人妻を引き離し、拘束してそのまま名家の長男の下へと送る……。余程気に入ったのか、名家の長男はひとしきり愉しむと彼女を連れて行くとして、漸く町を去っていった……。


 その時は罪悪感もあった。一応名家の長男に何とか夫の下に返してやれないかと伝えたが……、返ってきたのは言う事が聞けないなら町を潰すぞという脅しの言葉だった。それでも、町を潰し掛けた二人にも非があると思い、人妻を差し出す事で町も救われたからこれで逃げた事は帳消しにしよう……。そう思い込む事とした。


 ……妻を奪われた夫は、町民に痛めつけられた身体を引きずるようにしながら、失意の中で町を出て行った。そんな身体で何処に行く!? 気持ちはわかるが、そんな状態で町の外に出るのは自殺行為だぞ!? そんな声に耳を貸さず、町を出て行ってしまったのだ。町民も結果的に男の妻を差し出させてしまった罪悪感もあり、余計な事をしないで欲しいという気持ちは押し殺して、結局は男を見送った……。


 それから月日が経過し……、やがて冷静になって町を出た男に対する罪悪感に苛まされるようになった先日、町に下りてきた盗賊達に人質を取られてそのまま町を支配されてしまった……、という事らしい。一応は名家からの支援も受け、冒険者ギルドを立ち上げる前に襲われた事で、あんなランクの低い盗賊なんかに乗っ取られてしまったが……、これも全て儂らの招いた事じゃ。そう言って町長は罪の告白とばかりに僕らに向けて打ち明けられたのであった……。






「本当にあんな胸糞悪い話を聞かされてさ……。こう言っては何だけど、助けなくてよかったんじゃないかとまで思っちゃったよ。まぁ……、助けたといっても実行したのはユイリだし、一番悪いのは町の人たちじゃなくて名家の人間なんだろうけどさ……」

「……ストレンベルク王国とは異なり、イーブルシュタイン連合国は規模も大きく小国の集合体という側面がありますから……。それに、全ての名家の方々が皆そうではないとは思いますわ。今まであの町を治めていた方は真面(まとも)だったようですし……」


 シェリルはこう言うけど……、この時点で僕のイーブルシュタインという国の評価はズタボロだ。出迎えに来たあのアーキラって皇太子といい……ファーレルにやって来た時、ストレンベルク王国ではなくこの国だったとしたら……。僕は間違いなく誰にも心を許さず、ただ只管(ひたすら)に元の世界に帰る事だけに固執していたと思う。


(そう考えれば……、シェリルは兎も角として、レイファニー王女やユイリ、そしてレン達と……、随分気を許したものだよな……。仲間というより……友人か? いや、もっと近い存在なのかもしれない……)


 少なくとも、レンやジーニスなんかとは気軽に話せる仲だし、鍛錬や依頼(クエスト)に同行するだけでなく、酒の席も付き合ったりもする。デスハウンドや魔神とも共闘し、共に死線を潜り抜けてきたっていうのもあるかもしれないけれど……。

 基本的に僕のお目付け役として近くにいるユイリとも、それなりに上手くやれているんじゃないかとは思っている。向こうは任務で僕やシェリルの傍にいるのかもしれないが……、それでもある程度心は通じ合っていると感じているのは、恐らく僕だけじゃない筈だ。


「まぁ、彼らも後悔しているんでしょう。別に私達に許しを請うている訳じゃないし、それで許されるとも思ってなかったみたいだから、私達としては取り敢えず聞き留めたくらいでいいんじゃないかしら? それでもし旅の中でその夫婦と会う事があったとして、その話を聞いてどうするかも私達が考える事ではないし……」

「断罪に来てくれても構わない……だっけ? それも被害に遭った彼らからすれば聞きたくもない話じゃないか? 僕がその立場だったらあの町に戻りたいとは思えないし……」


 もし復讐したいと考えてたら、僕らに関係なく行うだろうし……。僕からすれば罪悪感に耐えられないから、少しでもその思いを分かって貰いたくて話をしたようにしか思えないんだよね……。此方としても話を聞かせてくれなんて頼んだ覚えもないし……、むしろ巻き込んでくるんじゃないとしか……。

 ……そんな風に思ってしまう僕は冷たい人間なのかもしれないけど……。


「コウ様……もう、よしましょう? 確かにあまり気分のいいお話ではなかったですし、コウ様のご想像通りであるのでしょうけど……、気にしていても仕方ありませんわ」

「シェリルさんの言う通りだぜ? あんなの聞き流しとけばいいんだよ。あの連中もある意味被害者みたいなモンだしな」

「…………そうだね。ゴメン、心配かけたね」


 確かに気にしていても仕方ないな。あまりに胸糞悪い話を聞いて……少し冷静さを欠いていたようだ。気に掛けていてくれた仲間たちにそう謝罪すると、


「そうよコウさん、気にしちゃダメよ。国が違えば考え方も違うし……、私達なんて小さな村の出身だったけど、そんな横暴な貴族なんていなかったし、もし仮に同じような事が起こっても……あの町に人達のようにはならないと思うわ。そうよね、ジーニス?」

「あ、ああ! フォルナの言う通りだぜ。あんな連中の事なんて忘れちまうのが一番さ! な、ウォートル? お前もそう思うだろ?」

「う、うむ……。何か話が上手く噛み合っていないようにも思えるが……、気にしない方がいいのは確かだ、コウ」

「……ハハッ、気を使わせてゴメン、ウォートル。ジーニス達も……。ユイリ、今更だけど……、今どのあたりにいるんだ? イーブルシュタインの首都まではまだまだ掛かるカンジ?」


 頭を切り替えて、僕はユイリにそう問い掛けてみる。


「……本当に今更ね。そうね、このペースでいけば明日の夕暮れには到着するかしら? 今日は関所を通って、町を2つか3つ経由する形になるかしらね。さっきのテイルナバよりも大きい町だから、盗賊に乗っ取られているなんて事も無い筈よ」

「あんな事、普通ありませんよ……。イーブルシュタイン、前にシーザーさん達と来た時はこんな物騒な国だとは思わなかったぜ……っと、見えてきましたよ、関所!」


 言っている傍から……、何やら城壁が連なっている建物が見えてくる。まるで万里の長城のように……、自由に出入り出来ていた今までと違い、それぞれで隔離されている感じなのだろうか。ストレンベルク王国との国境にもあんなのなかったのに……。


「基本的にお金を払えば自由に行き来できる筈よ。まぁ……指名手配なんかされたら、その限りではないけれど……」

「……僕達、仮にもこの国に呼ばれてやって来てるんだよね? それでもお金、取られるの? 話が通っているとかない?」

「連合国ですから、それぞれ独立しているところがあるので……。ですが、後で旅に掛かった費用は立て替えて下さるとは思いますよ? ……恐らく、ですけれども」


 少し歯切れが悪くそのように話すシェリルに世知辛い何かを感じながら、僕達は目の前に見えてきた関所へと入っていくのだった……。











「今日はここまでかしらね……。ちょうど次の町も見えてきたところだし……」

「……一日歩き通しだったからな、いい加減くたびれたぜ。やけに魔物(モンスター)とも遭遇したしよ……。この付近の連中、ちゃんと討伐してんのかよ……」


 うんざりといった感じでレンが背筋を伸ばしながらそう言ってスケートボードを抱える。ジーニス達も漸く休めるとホッとしているみたいだった。僕やシェリルと違って徒歩での移動となる彼らは大変だっただろうなと慮り、


「悪かったね、魔物との戦闘も任せちゃって……」

「気にすんな、コウ。只でさえ、お前に差をつけられがちなんだ。俺としてもこの辺で挽回しておきたかったからちょうどいい」


 そう言ってニヤリと笑うジーニス。そんな彼を呆れた様に見ながら、


「またジーニスったら……。コウさんに変にライバル意識持っちゃって……」

「……そう言ってやるな、フォルナ。ジーニスの気持ちも分かってやれ……」


 何だかんだと仲の良いフォルナさん達の会話を聞きながら僕は、


「ボヨよん、そろそろ『趣味部屋休憩処コレクションレストスペース』に戻るか?」

「えー……、もうすこしみんなといたいよ~……」


 シウスや鈴鹿の周りをぴょんぴょんと跳ね回っていたインテリジェンススライムのボヨよんに呼び掛けると、そんな返答を返してくる。


「気持ちは分かるけど、流石にスライムを連れて戻るのは拙いみたいだからさ……。シウスやぴーちゃんも戻らせるから、一緒に戻ってくれ」

「うー……、あしたもよびだしてよ?」

「わかった、町から出たらね」


 僕の言葉に取り敢えず納得してくれたボヨよんは、展開した趣味部屋休憩処コレクションレストスペースに戻っていった。他国で魔物を連れ歩くというのも憚られた為、テイルナバの次の町からはアサルトドッグであるシウスにも新たに部屋を宛がい、ついでにぴーちゃんにも部屋を作ってあげた。

 もっと言えば、鈴鹿やシェリルの希望で一角獣のリーウィアにも馬房代わりに待機部屋を用意している。最初の町であのような事があったから、成るべく自分たちで管理しておきたいというのが本音だ。


「……正直なところ、僕としてはイーブルシュタインの町々とあまり関わり合いになりたくないんだけどなぁ。別に野宿でもいいし……」

「……そこはお願いだから納得して。それに、貴方だけじゃなく姫もいらっしゃるのよ? ……二人を野宿させたなんて、上に知られたら大目玉喰らうのは私なんだから……」

「師匠……。前から思ってましたけど、師匠はもっと自分が貴賓だという事を自覚した方がいいですよ……」


 疲れた様に話すユイリを気の毒そうに見ながらアルフィーが僕の後ろで溜息交じりにそのように漏らす。


(貴賓、ねえ……。今までそんな立場にいた事もなる事もないと思っていたのに……、まさか貴賓なんて言われる日がくるなんてなぁ……)


 それが異世界に呼ばれて、勇者と扱われて……。いくら違うと言ったところで、現時点において自分が勇者なのは間違いないみたいだし……。事実、ストレンベルクの上層部からは完全に『勇者』として貴賓扱いされている。こういった護衛体勢に加え、給金等でもただ『王宮の饗宴(ロイヤルガーデン)』の一員ってだけでは多すぎる程貰っている気もする。日々の鍛錬においても何時勇者として覚醒してもいいように経験を積ませる思惑もあるんだろう。……尤も、鍛錬に関しては自分でも必要だと納得しているからいいんだけど……。


「本当なら、イーブルシュタインの各々で話を通してくれてたら良かったのだけど……。カードゲームの一開発者というだけでは少し弱かったのよ。向こうにとっては王女殿下と『勇者(・・)としての(・・・・)トウヤ殿がいればいい訳だから……。今は王女殿下への歓待とやらで会議を伸ばして貰っているけど……、早く向かわないと終わってしまったなんて事になったら……」

「……別にいいんじゃない? そりゃあとんぼ返りになるのはアレだけどさ……」

「……これがイーブルシュタインだけの会合だったなら、そもそも王女殿下も向かわれなかったわよ。幾ら向こうが殿下を指名されても、王が向かわれたでしょうね。他の同盟に参加されている国も一堂に会しての世界同盟会議だから、『招待召喚の儀』を行われたレイファニー殿下と、召喚された『勇者』殿が立ち会う必要があるの。……こう言うと誰かさんが否定するかもしれないから、正確には『勇者候補』である者、と言った方がいいかしらね?」


 そう言いながらジト目で僕を見るユイリ。……流石にここで勇者じゃないから等と言える程、僕も空気が読めない訳では無い。勇者『候補』というのが二人いたという事を伏せて貰っているのも、元を正せば目立ちたくないという僕の我儘という部分もある。僕はひとつ溜息をつきながら、


「……わかった、もう何も言わないよ。……それで? その会議が行われる皇都とやらは後どれくらいで到着するの?」

「此方で本日休まれたとして……、恐らく明日には到着するかと思いますわ、コウ様。……わたくしが以前に地図で見たところの逆算ですので、今もどうかはわかりませんけど……」

「多分、シェリルさんの計算であってるぜ。ここシュライクテーペの町から皇都には1日で行ける。何度か行ってるから間違いねえ」

「この城塞みたいのに囲まれた町がシュライクテーペっていうのかい? さっき通った町よりも随分大きいよね、ここ。もしかして、関所の時の様にまた通行料とか取られる訳?」


 シェリルの解説に同意するように話すレン達を見ながら、僕は関所で発行された通行証を取り出す。概ね、何処から来たのかとお金を払えば通してくれたので、厳しくチェックされたという印象はなかったが……、町に入るだけでまたお金を取られるというのは御免こうむりたいけど……。


「ここでは先程の通行証を見せるだけで入れる筈よ。さあ、行きましょう」






「ああ……疲れた。何アレ? どうして関所を通る時より面倒くさいの?」


 僕は町に漸く入れたところで、溜息交じりにそう吐き捨てる。


「知らねえよ、前に来た時はこんなんじゃなかったしよ……。まさか滞在料なんて取られるとは思わねえし、町長でも変わったのか? こんな事やってんじゃ町の往来もなくなって、結果的に寂れてくだろうに……」

「……シェリル様の扱いにも相当苦慮してましたしね。ユイリ様、大丈夫でしたか……?」

「ええ……、まさかシラユキ公爵家の名前を使って、正式にストレンベルク王国の貴賓であると証明しなければならなくなるとは思わなかったわ……。それでも納得せずに姫を留めるようにと言ってたからね、彼ら。本当にどういうつもりかしら……」


 かなりイライラした様子で憤るユイリに、僕は苦笑しながらも最初に感じた嫌な予感が脳裏に過ぎり、


「……この分だと、ここも碌な場所じゃなさそうだね。さっさと宿屋に向かおうよユイリ。場合によっては……、シェリルも趣味部屋休憩処コレクションレストスペースで休んだ方がいいかもしれない」

「……そうね。でもどうして……、隠蔽されていたのかしら? 普通こんな情報、すぐに伝わるのに……。確かこの町にも常駐してるシラユキ家の者がいる筈……。後で接触する必要があるわね……」


 生返事でそう返すユイリ。相当頭に来ているようだ。まぁ、特にシェリルに対して食い下がってきたあの守衛たちには僕にも思うところはある。まさに最初に危惧していた通りにお金を要求された上、シェリルに関しては正式なストレンベルク王国の者じゃない筈と言ってきたのだ。……もう何度そう思ったかもわからないが、本当にこのイーブルシュタインという国は碌なところじゃない。


「……確かにあまりウロウロしていたくないですね。さっさと宿に向かいましょう」

「この町は区画によって分かれてるからな。確か商業区に宿があった筈だぜ。……俺の知る通りだったらの話だがな」

「活気はそれなりにあるみたいだけどね……。じゃあ案内し……」

「おい、そこのお前たち! 聞こえんのかっ!」


 案内をレン達にお願いしようとしたところで……、僕の声は割り込んできた声に搔き消される。……え? 僕達の事……?


「何をぼんやりしているっ! 大名家の嫡子、ダグラス様が呼び掛けているのだぞ! さっさと来ないかっ!」

「……は? いきなり何言ってるの……? 僕達、今やって来たばかりの旅人なんだぞ?」


 急な物言いに戸惑っていると、衛兵のような者たちが僕らの方にやって来ると、


「いきなりも何もあるか! あのダグラス様(・・・・・・)が呼び掛けておるのだぞっ! 周りの者達の様に、さっさと集まらんかっ!」

「何処の田舎者だ!? この国でも有数の名家であらせられるダグラス様の名を聞いても尚、そのような反応をするとは……っ!」

「……名家だか何だか知らないけど、僕達はこの国に呼ばれてストレンベルク王国から来た者だ。その過程において、名家を敬えなどという指示は無かった筈だけど?」


 少なくとも、事前にユイリ達からはそのようにしろ等とは聞いていない。僕の返答に衛兵たちは憤り、


「貴様っ! この町の実質的な支配者であるダグラス様の配下である我々に口答えすると言うのかっ!!」

「……ユイリ、こう言ってるけど……実際どうなのかな? コイツらの言う通り、従わなきゃならないの?」

「……もしそうなら町に入る事自体避けていたわよ。貴方、ダグラス殿と言われたわね? もしかして、クローシス家のダグラス殿かしら?」

「ほう? オレの事を知ってるのか? だが、知っていてその態度は……ちょっと戴けないな?」


 ユイリの呼び掛けに、前方でふんぞり返っていた偉そうに此方を見下していた金髪の男が答える。それより、クローシス? クローシスって、あの……? 聞き覚えのある名前にまさかと思っている僕を尻目に、ユイリがさらに問いただす。


「貴方、どういうつもりなのかしら? まさか、町の入口の件も貴方の差し金?」

「会うや否や……、色々言ってくれるじゃないか。オレをクローシス家の者と知りながら、よくそんな口を聞けるな? さぞかし名のある家の者であるんだろうな?」

「私はストレンベルク王国のシラユキ公爵家が長女、ユイリ・シラユキよ。クローシス家の現当主殿にも、お目に掛かった事があるわ」

「オレはお前の事は知らないけどな。いずれにせよ、ストレンベルク如き小国の一貴族の分際で少し無礼ではないか? ……少し黙ってればなかなかいい女だというのに、勿体ないぜ?」


 ダグラスとか呼ばれた男が肩を竦めながらそう宣う。……そもそも、何だ? この態度……。仮にも僕たちは他国からやって来ているのだと言うのに……、どうしてこんなに偉そうなんだ?

 僕の疑問を余所に、ユイリ達のやり取りは続く……。


「話を逸らさないで……っ! どうでもいいけど、私達はこの国の要請に応じてやって来ているのよ! それが、他国の賓客に向けるイーブルシュタインの名家の態度なのっ!?」

「そんな事はオレの知った事じゃないな。むしろ、オレの管理下にやって来てそんな態度を取り続ける事の方が不思議だ。いいからさっさと来い、時間が惜しいんだよ。お前らが従わないと何時まで経っても話が出来ないだろう?」

「おい……、そもそもどうしてテメエの話を聞かなきゃいけねえんだよ? ユイリの言ってた事、聞いてたか? 俺たちは、テメエの国の人間に呼ばれて態々やって来てんだぞ? ……そこにいる何人かも、ウチの者たちだろうがっ。いくら名家の人間だからって……、俺たちにまで拘束力を伸ばそうなんて、何考えてやがんだっ!」


 しびれを切らしたらしいレンがそのように詰め寄ろうとすると……、ダグラスという男の傍に控えていたローブ姿の女性が杖をその手に持ちながら前に出る。


「……ダグラス様に従いなさい」

「引っ込んでなっ! 俺はそいつに用が……っ!?」


 それにも構わずレンがダグラスに近付こうとして……、周りの衛兵が止めようとすると同時にいきなり炎が巻き起こる。咄嗟の判断でレンは躱したようだったが……、今のは何だ!?


「……今のは警告です。次はありませんよ」

「警告だぁ……? 当てる気満々で溶岩灼熱魔法(バーニングラヴァ)撃ってきやがって……。ここで闘り合おうってか?」

「……貴方ならば避けられると判断しました。それに、先に手を出そうとしてきたのは貴方です。この場でダグラス様に歯向かう事の意味……、わからない訳ではないのでしょう?」


 チッと舌打ちをするレン。彼は苦虫を噛み締めたようにして、僕達に囁きかける。


「……面倒な事に巻き込まれちまったな。ユイリも把握出来てなかったんだし、仕方ねえかもしれないが……。相手がここまでする以上、強行する選択肢は消えちまった」

「……そうね。本国経由で抗議してもいいけど……、この町に入っちゃった時点で情報も遮断されてるだろうしね。……迂闊だったわ。せめて事前に確認してから入るべきだった……」

「つまり……、この厚顔無恥な相手の話を聞かなければいけないって事?」

「全く……、では話を続けるか。先程も言ったように、この町の近くにあるC級のダンジョン、『沈鬱の洞窟』にて魔物氾濫(モンスターフラッド)が発生した。諸君らにはシュライクテーペに留まる者の義務として、直ちにこれを鎮静化して貰う!」


 小声でやり取りをする僕達を無視してダグラスがそのような事を宣言し、集まった者達も騒めき出した。


「何で俺達が……っ! そんなのおたくらが何とかする事だろうっ!?」

「ギルド経由で依頼するなりすればいいじゃないかっ! どうして僕達がそんな事をしなければいけないんだっ!?」

「そうだそうだっ!」


 次々に言い募る不満の声に……、ダグラスが一喝する。


「黙れ愚民どもっ! このオレがやれと言ったら……貴様らは黙って従えばいいのだっ! ……それとも、この国でも一二を争う名家、ダグラス・クローシスの言う事が聞けないというのか……?」


 理不尽にもそう言い放つ名家の男に……、騒めいていたのが嘘のように静まりかえる。……言う事が聞けない、と言うのは拙いのかな……? 僕の疑問に反して、周りからは反対するような意見は聞こえてこない。


「わかったらさっさと行って来い……。討伐してきたら恩賞も出してやる。……ああ、お前らは少し残れ。ストレンベルクの貴族様ご一行はな……」


 ダグラスの言葉に僕たち以外の冒険者らしき者達はぞろぞろと入り口に向かう……。僕達しか居なくなったところで、


「さて、お前らにも行って貰うが……、随分とオレに舐めた口を聞いてくれたからな。取り敢えずこの場で土下座して貰おうか?」

「……そんな事をしなければならない謂われはないわね。それとも何? 国際問題にしたいのかしら?」

「国際問題? バカを言え……。貴様ら小国が田舎者が何をほざく? いいから言われた通りにしろ」

「お断りするわ。小国小国と……言ってくれるわね。その小国と、本気で事を構える覚悟はあるのでしょうね? 私達は、『世界同盟会議』の関係でやって来ているのよ……? そして、ストレンベルク王国(・・・・・・・・・)がその同盟においてどのような役割を担っているか……、流石に貴方も理解は出来ているわよね……?」

「世界同盟会議……? チッ……、そう言う事か」


 舌打ちするダグラス。少し考える素振りを見せると、


「……仕方ない、土下座は勘弁してやる。だが、魔物氾濫(モンスターフラッド)の討伐には出て貰う。これはシュライクテーペにいる者の義務だ」

「何を言っても無理そうね……。わかったわ、討伐には出てあげる。その代わり、そのままこの町を出て行くわ」

「そうはいかんな。そのまま討伐を放棄する気だろう? そんな真似をしたら、このイーブルシュタインの地の安穏はなくなると思え……。そうだな、そこの女! こっちに来い。お前はコイツらの人質だ!」


 ダグラスは僕の後ろにいたシェリルに目を向けたかと思うと、そんな事を言ってきた。出来るだけ目に留まらない様にと彼女を隠すようにしていたのに……。僕は心の中で舌打ちしながら彼女を庇い、


「……従う必要はありますか? 彼女は僕の連れです」

「貴様には聞いていない。それとも……貴様もオレの言う事が聞けないっていうのか?」

「ええ、従えませんね。力づくでもというなら……覚悟しろよ?」


 ……こんな奴にシェリルを渡すくらいなら騒動を起こした方がマシだ。例えストレンベルク王国に迷惑を掛ける事になったとしても……、それだけは頷けない。僕の返答に周りの衛兵は殺気づくも……、そんな僕を庇うようにさらにユイリとレン、それにアルフィー達も前に出る。


「……正気か? 本気でオレに逆らおうってのか?」

「彼女を人質にするくらいならお前を敵にまわす方がいいと思うけどね」

「……そもそも、この方々は我がストレンベルク王国における最大の賓客なのよ? 彼女に向かってそのような口を聞く事も、我が国に対して宣戦布告するも同然だわ。ダグラス殿、先程も言ったけれど……覚悟はあるのよね?」

「覚悟だと? そもそもその女はストレンベルクの人間でもない筈だ。部下からも報告が来ていた。このシュライクテーペに強引に押し入ったとな。身元のわからない者を連れ込んだ貴様らの方が余程の事をしているとは思わんのか?」

「先程も言ったように、彼女がストレンベルク王国において最重要な貴賓である事はシラユキ公爵家の名において証明するわ。何なら国からも改めて通達してもいい……。この町から出て行くようにいうならば、それでもいいわ。町に入ったばかりの私達がすぐに出て行ったところで、其方も気にする事もないでしょう? どうせ、私達が町に入ってからずっと監視していたんでしょうしね」


 ……そうだ。町に入ってから間髪入れずにこの男の話を聞く事になったんだ。こんな状態の僕達がすぐに町を出たところで何の不都合もない筈……。むしろ、通行・滞在料を払った僕達だけが一方的に損をしているだけだ。それでも町を出て行かせたくないっていうのは……。


「……もし彼女を人質として差し出そうものなら……二度と会えなくなりそうだしね。取り調べと称して、そのまま彼女を囲う気でしょう? 話は聞いているわ……、貴方、クローシス家の嫡男で……、色々好き勝手やっているそうじゃない?」


 やっぱりそうか……! クローシスという名を聞いた時から引っかかっていた。有名な名家の嫡男……。あのテイルナバの町長が話していた言葉を頭を過ぎる……。


『……この町を出て行ったジアルシュの妻……、ユスハを連れ去った名家の名は……』

(クローシスッ! そうだ、コイツこそが……テイルナバの町を陥れた元凶……っ! クローシス家の嫡男か……!)


 なら尚の事、シェリルを渡す訳にはいかない……! 僕は改めてそう決意すると、殺気を強めるダグラスの私兵達から彼女を守るべく、仲間たちと共に備えるのだった……。




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