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勇者になりたくない主人コウ~故郷への帰還を夢見て~  作者: 時斗
第ニ部 大国、イーブルシュタインへ……
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第53話:垣間見える闇




「うわぁ、敵襲だ!」

「ぐぅ……、応戦し、ぐわぁ!?」


 早朝、宿屋の主人に聞いた盗賊達がねぐらとしている洞窟を急襲し、今まさに驚き戸惑う盗賊を叩き伏せているところである。見張りをイレーナさんが無力化し、洞窟内をマッピングしながら今の様に遭遇した盗賊達を速やかに鎮圧……。かなり強引ではあるが……、今のところは特に問題は起きていない。そもそも……、


「なっ! どうして侵入者が……!? 見張りは何を……ぎゃっ!!」

(特別、脅威を感じないんだよな、コイツら……)




 RACE:ヒューマン

 JOB :盗賊

 Rank:18


 HP:16/76

 MP:7/12


 状態コンディション:普通




 敵性察知魔法(エネミースカウター)で表示された盗賊のステータスは低い。何時ぞやの海賊達とは比べ物にならない弱さだ。叫ばれない内に回し蹴りを放ち……、その一撃ですぐさま昏倒してしまう盗賊。……まぁ、安全靴の鉄の部分で蹴りつけたからというのもあるのかもしれないが。


「順調だな。特に罠らしい罠もねえし……、そんな大きな洞窟でもねえみてえだから、間もなく全容が見えてくんだろ」

「そうですね、これだったら俺達だけでも対応出来てると思います」


 レンの言葉にそう相槌を打つのは冒険者のジーニスだ。今回、この盗賊討伐に参加しているのは、ほぼいつものメンバーである為、連携等も取りやすい。仮にワラワラと盗賊達が押し寄せたところで問題は……。


「こっちだっ! 侵入者がいるぞっ!!」

「馬鹿め、袋の鼠だっ! 覚悟しやがれっ!!」


 ……言っている傍から、全く。まぁ、流石にこれだけ動き回れば向こうも気付くか。次々と押し寄せてくる盗賊達。前方に加え、背後からも……と。……もしかしたら、洞窟にいた盗賊全員が集まってきちゃったのかもしれない。


「ふん、わざわざ倒さ(やら)れにきたか」

「油断しちゃダメよ、ウォートル。ユイリさんっ!」

「大丈夫よ、フォルナ。ちゃんとイレーナが誘導した結果だから。挟み撃ちといっても、向こうが連携している訳じゃないわ。でも貴女の言う通りよ、フォルナ。皆、油断しないでねっ!」

「了解ですっ! いっけぇ、ジャマダハルっ!!」


 そう言って勢いよく飛び出したアルフィーに続く様にして、皆が敵の襲撃に備える。ウォートルがまず盗賊を引きつけ、そこにレンが、ジーニスが、そしてシウスまでも盗賊に飛び掛かるが……、敵も相当な人数であり、その合間を縫って後続であるシェリル達を襲おうとする盗賊の前に僕は立ちはだかる。


「そこを退けぇ!!」

「誰が退くか、馬鹿め」


 マインゴーシュと呼ばれる短剣を僕に突きつけようとする盗賊を前に、僕は冷静に愛刀『左文字』を構えると、


「なっ!?」

「……甘いっ」


 正眼の構えから敵の武器をいなす様に払うと、無防備になった脇腹に刀を振り下ろす。


「がっ……!!」

「峰打ち、だ」

「おのれっ!! コイツさえブッ殺せば、後ろの上玉が手に入るっ!! 纏めてかかれっ!!」


 やれやれ、まだ実力の差がわからないのか……。ある程度強くなってみて、分かった事がある。自分の今の力を知り、レン達を始めとした強い人たちを知る事で……、向かい合う相手の力量が掴めるようになってきた。勿論完璧という訳ではないが、そこは敵性察知魔法(エネミースカウター)を併用すればさらに分かりやすい。


 僕は自然と五行の構えのひとつ、先程と同じ武器を正眼にして相手を見据える『水の構え』をとり……、強引に攻めてくる敵の一人が射程に入ったところで容赦なく刀の峰で叩き伏せる。


「はぁーっ、『侮辱剣』!!」

「……またその技か」


 ここの連中が何度か放ってきたその剣技を見切り、外させて無防備になったところをすれ違いざまに倒す。……当たりさえすれば実力にそぐわない威力を叩き出し、さらにはその技の名前の通り挑発された時同様、視野狭窄状態に陥ってしまう剣技らしいだが……、そもそも当たらなければどうという事は無い。

 某ゲームに威力の高い似たような技の蔑称で『ワロスエッジ』という言葉が頭を過ぎり……、以後その名前を当てはめる事に決めた。


「この『投げナイフ』で……っ!」

「オレの斧を喰らえっ、『大木断』!」

「……『外道剣(ポイズンエッジ)』っ!」


 ……ご丁寧に何をするかを自分で言ってくれてる為、とても対応しやすい。飛んできたナイフを弾き、斧の斬撃をいなして毒を纏った斬撃を受け止める。何故か驚愕する盗賊達を薙ぎ払い、あるいは叩き伏せて次々と無力化していく。


 ……このファーレルという世界において能力(スキル)という概念はあるが、元の世界のゲームの様に覚えた技を選択して発動する……という訳ではない。例えば先程繰り出した回し蹴りにしたって、別に普通に蹴りを入れただけだ。今使っている刀術も、身に付いた構えから意識して刀の峰で斬り払うようにしているし、二段斬り(ダブルスラッシュ)やディフレクトのように、別の派生技も幾つか流用する事も出来る。

 実際に元の世界に戻ったとしても、日々の鍛錬において会得したこれらの技は使う事が出来るだろう。……まぁ、重力の関係でこの世界と同じ速さでは動く事は出来ないだろうし、魔力素粒子(マナ)のない向こうの世界で炎を生み出すとかの特殊な技能までは真似できないが……。


 だから正直なところ……、わざわざ口に出して技を叫ぶ必要はないのだ。尤も、僕も会得した技を初めて実戦で試す時なんかは思わず口にしてしまう事もあるけど……、彼らからしてみれば何としても僕を排除したかった訳であって……。まぁ……都合が良かったと思えばいいか。ぴーちゃんなんか戦闘中だというのにも関わらず僕の肩に止まったまま大人しくしているし。


「あれ? これで終わりかな?」

「そのようだな。取り敢えず襲ってきた奴は皆倒した筈だ」

「親玉のようなのは見なかったわね。後は残党狩りといきましょうか? ここから逃げようとした盗賊(やつら)は、入り口で網を張ってるイレーナと呼び寄せた影の者達に任せればいいわ」


 敵性察知魔法(エネミースカウター)にも反応はないし、レンの言う通り近くにはもう盗賊はいないようだ。残った連中は最早戦意を喪失して撤退を始めているのかもしれない。

 僕もユイリ達がしているように、倒れている盗賊達の拘束を手伝う事とした。


「コウ様、大丈夫ですか……?」


 そこにシウスを伴ってやってきたのはシェリルだ。少し心配げな表情を浮かべていたが、


「ああ、問題はないよ。シェリルは大丈夫だった?」

「ええ、わたくしは大丈夫ですわ。貴方が立ちはだかって下さいましたし、シウス(このコ)もおりましたし……」


 僕の様子を見てホッと安心した顔をしたのち、ふわりと笑うシェリルに、


(……そうさ、僕は彼女だけは守り抜かないといけない……)


 出発前よりユイリがシェリルを帯同する事に難色を示していた事を思い出す。確かに、ここでも盗賊達が目の色を変えて僕を突破しようとしていたのは……、恐らくは後ろにシェリルがいたからだ。敵としてみればシェリルは喉から手が出る程欲する魅力があるのだろう。

 それでも……、こうして付いて来てくれた以上は、守らないといけない。僕はシェリルに笑い掛けながらそう決意し、目の前の盗賊達を拘束してゆくのであった……。






「ああ! 助けに来てくれたのねっ!」


 他にも残党がいないかどうか盗賊達のねぐらを捜索していたところ、何やら牢獄にしていたらしい場所に出る。足枷のような物をつけさせられた女性が3人……。彼女らが昨日町から攫われてきた人たちなのだろうか。


「……君等はテイルナバの町の住民か?」

「は、はい……。昨日、盗賊達に捕まって連れて来られたんです……」

「さっきまで居たんですけど……、何でも侵入者がどうのと言って出て行って……」


 レンの問い掛けにそう答える女性たち。……どうやら間違いなさそうだけど……。


「その盗賊どもは俺らでやっつけた。もう安心していいぞ」

「ほ、本当ですか!? よ、よかった……」

「このままだと、私たちは奴隷として売られる予定だったんです! 本当に良かった……」


 ジーニスは彼女らを安心させるべく盗賊どもの事を伝えると、その足枷を外そうと試みる。ユイリの開錠によって戒めから解放された彼女たちは嬉しそうにジーニス達に抱き着いていた。


「貴方も……有難う御座いましたっ!」


 その内の一人は僕にも気付き……、そう言ってやって来ようとしたが、


「えっ……」

「……気持ちはわかるけど、まだ終わりじゃない。ここは敵地で、首領もまだ捕まえていないんだ。……ジーニス!」

「あ、ああ……、コウの言う通り、一刻も早くここを出よう! 君達もほら、一緒に……。ウォートルも手伝ってくれ!」

「うむ……。盗賊共の練度を考えれば我々だけでも問題はないだろう。レン殿……」

「いや、念の為俺も行く。……コウ、お前はどうする?」


 レンの問い掛けに僕はふと考える。……昨日攫われたという人達は彼女たちでまず間違いないだろう。ただ、このねぐらは隅々まで調査する必要もある。首領もまだ逃げずに隠れているかもしれないし、他にもまだ囚われている人がいないとも限らない。


(ユイリはこのまま調査を継続するだろう。なら僕は……)


 ふと僕に縋り解こうとして窘められた女性が困惑している事に気付き、


「……君は彼らと一緒にここを脱出するんだ。レン、僕はユイリと一緒にもう少しここを探索するよ。ジーニス、彼女を頼むね」

「わかった、任せてくれ。さあ、行こう」

「あ……は、はい……」

「それじゃあ行くか……、残党に遭遇したら此方で片付けとくぜ?」


 そう言ってレンはジーニス達を纏め、ここから出て行く。その姿が見えなくなったところでユイリが、


「……先程はどうしたの? 貴方らしくないんじゃない?」

「僕らしくない? ……どういう事?」

「捕まってた可愛い女の子達にすり寄られて……嬉しくなかったの? ジーニス達なんか鼻の下伸ばしててフォルナに睨まれてたのに。そうじゃなくても、貴方だったらあの場面で拒絶するような事しないじゃない」


 ああ……、その事か。だけど、何て言ったらいいか……。


「単純に好みじゃなかったかしら? そうだとしたら、貴方の女の子を見る眼も厳しくなってきたわね……」

「ばっ!? な、何言ってんのユイリッ!? そんな訳ないじゃないか……。だけど、自分でもよくわからないんだよな……」


 もう何度思ったかもわからないが……、この世界の人たちの容姿は偏差値で言ったら60は超えているんじゃないかと思っている。さっきの女の子も可愛い子だったけど……、どうしてかあまり近付いて(・・・・・・・)欲しくなかった(・・・・・・・)。無意識でシェリルの事でも考えたのかな……? 理由はわからないけど、結果的に僕はあの子が抱き着いてくる前に先んじて押しとどめたのだ。


「尤も、僕じゃなくてこのぴーちゃんと戯れたかっただけかもしれないけれど……」

「ピィ?」


 僕の言葉に肩に止まっていたぴーちゃんが首を傾ける。そんな可愛い仕草に頭を撫でてあげると気持ちよさそうにするぴーちゃんに、こんな場でありながら癒されていると、


「……まあいいわ。兎に角、この洞窟の探索に戻るわよ。そんなに規模も大きくないみたいだし、隠し部屋なんかも無さそうだけど……」


 そう言ってユイリが探索系の能力(スキル)、『隠しポイント発見シークレットディスカバー』にて辺りを探る。目端が利くというか、常時『看破魔法(インサイト)』が発現しているような便利なものらしく、隠された通路や見つけにくい部屋なんかもたちどころに暴いてきたユイリがふとある一点に目を遣り、


「ん? ……向こうにギリギリ人が通れるくらいの目立たない通路があるわ。行ってみましょう……」

「あ、ホントだ……。見落としていたみたいだね……」


 よく目を凝らしてみると、確かに奥に行けそうな小道になっているようだ。隠蔽されたというより、単純に分かりづらくなっていただけのようだけど……。能力(スキル)の力とはいえよく見つけたものだと独りごちていると、


「わっ!」

「! 何だ!?」


 敵か!? 思わず身構える僕だったが、ズダダダッと何かが走り抜けるような音がして……、警戒しながら通路を抜けると小部屋くらいのスペースのある所に出る。そして、恐らく走り去っていった生物であろう水色の生命体が小さな窪みに向かってピョンピョンと必死に飛び跳ねていた。


「…………スライム?」

「ヒッ!?」


 僕の声にビクッと反応すると、恐る恐るといった感じで振り返った生物に、


「……ブルースライムの一種、かしら? 液状化してないスライムを見るのは初めてだけど……」

「自分も初めてですね。それにコイツ……敵意も感じない? まあ怯えてるみたいですけど……」


 プルプルと震えた様子のスライムを見て、ユイリとアルフィーがそれぞれの感想を述べる。確かに何度か見た事のあるスライムのようなドロドロとしたものではなく、どちらかと言えば某国民的ゲームに出てきそうなソレに近い。目も口のようなものも見て取れるし……。


「み、みのがしてよ……! ボ、ボク、わるいスライムじゃな……」

「ストップ! わかった! それ以上はいけない!」


 何処かで聞いたような科白を言おうとする目の前のスライムに僕はそう言って発言を制する。……敵意が無いのは『敵性察知魔法(エネミースカウター)』に反応しない事からも分かっていた。そこで僕は『評定判断魔法(ステートスカウター)』を唱えてみると、




 RACE:インテリジェンススライム

 Rank:1


 HP:8/10

 MP:7/8


 状態(コンディション):恐怖




「……インテリジェンススライム? ブルースライムとは違うのか……」

「インテリジェンススライムですって!? もう絶滅したとされるスライムよ! どうしてこんなところに……!」

「言葉を話せるだけでなく……、このコは邪力素粒子(イビルスピリッツ)にも侵されていないようですわね……。大丈夫ですわ、わたくし達はあなたに危害を加えるつもりはありませんから……」

「…………ホント? いじめない?」


 名称を知って驚くユイリを尻目にシェリルがスライムに向かって優しく接すると、身体を震わせながらも彼女の方に身を寄せるスライム。フフッと笑いながらツンツンと戯れるシェリルに、シウスもスライムに気を許しているかのようで……、さらには肩に止まっていたぴーちゃんまでもスライムの下へ飛び立ち交流しようとしていた。それを横目に僕はユイリに訊ねる。


「……で、どうする? 連れて行くの?」

「連れて行ったとしても……、魔物(モンスター)ではないとはいえ、スライムは『スライム管理人』に任せる事になるわ。その後どのように扱われるかはわからないわよ?」


 ユイリの返答に僕達はスライムに視線を戻す。そういえば以前、ユイリが教えてくれたっけ……。何でも溶かし呑み込み……消化するスライムの生態系を利用して下水や廃棄物を処理をさせ……、此方はスライムに危害を加えず、その領域を認め……出来る限り干渉しない。それでも最低限接触し、やり取りする人が必要となる為、『スライム管理人』という職業(ジョブ)に就く人がいる……のだとか。


(もしかしたら、僕の世界における産業廃棄物なんかの問題もスライムがいたら解決するのかもしれないな。まぁ、無理な事を考えても仕方はないけど……)


 僕はスライムの有用性に思いを馳せるも現実を見つめ直し、決断する。


「そっか……。最後まで責任を持てない以上、連れて行く訳にはいかないか……」

「え……! ボクのこと、つれていってくれないの……?」


 ボソッと呟いた僕の言葉に反応したスライムは涙目になって見つめてきた。シェリルやシウス、ぴーちゃんと触れ合って、すっかりついてくる気になっていたようで、ウルウルとした目で僕やユイリに向けられ、言葉に詰まってしまう。


「ユ、ユイリ……!」

「わ、私に言われても……! そのコはインテリジェンススライムなのでしょう? それなら尚の事、スライム管理人に任せる必要があるわ。私達では……」


 確かにユイリの言う通りだ。僕も流石に『スライム管理人』の職業(ジョブ)まではないし……。そもそも自分の世界にスライムなんて存在しなかったのだから、明らかに専門外だ。そう思い直し、僕はスライムに話しかける。


「僕達では……、君のお世話をする事が出来ないんだ。君の生態についても……その、わからないし……」

「いっしょにいたいというのはダメなことなの……? ボク、ずっとひとりだったんだ……。ものごころついたときから、ずっとひとりで……さびしくて……。ようやくボクをいじめないヒトがきてくれたんだとおもったのに……」


 哀し気に泣きながらそう絞り出すように話すスライムに、僕も居たたまれなくなってくる。ユイリも同じように思っているようで、冷や汗をかきつつもスライムに向き直って、


「その、私としてもあなたを迎え入れたいのだけど……。魔物じゃないスライムなんて、私達もどのように扱っていいのかわからないのよ……。一人って事だけど、スライムは確か分裂する事が出来るわよね? それで仲間を増やす事は出来ないのかしら? そうすれば寂しくないし……、群れで居れば襲われる事もないんじゃない?」

「まえにブンレツしたとき、わかれたソレはボクとはことなっていて……、いきなりおそってきたんだ。だから、ボクこわくて……、それいらいブンレツは……」

「……分裂したら邪力素粒子(イビルスピリッツ)に侵食されて魔物化してしまうのでしょうか? このコが魔物化しないのは特別な存在なのかもしれませんわ。ですが、困りましたね……。わたくしとしても、連れて行ってさしあげたいのですけど……」


 そう言ってシェリルが僕の方を見つめる。同時にシウスやぴーちゃんまでも何か言いたげにしている事に気付いた。なんとかしてあげなよ、ダンナ……、まるでそんな事を言われているかのように……。


「…………ハァ」


 気付けばユイリとアルフィーまで自分を見ており、僕はひとつ息を吐くと『神々の調整取引ゴッドトランザクション』を起動させる……。


「そのスライムを街中に連れて行けないって事だよね? だったら……匿えるように以前検討した空間系の能力(スキル)を入手するしかないって訳か……。アレ、高いんだよなぁ……」

「……わたくしも空間能力(スペーススキル)を持っていない訳ではありませんが……、このコをずっと置いておいてあげられるものではありませんので……。申し訳御座いません、コウ様……」

「そもそもの話……、空間能力(スペーススキル)系はその殆どが失われていて、習得している人なんて普通いないっスよ? 師匠のそのトンでも能力(スキル)じゃなかったら覚えるのも無理ですからね? 自分のいた『獅子の黎明』でも……、あ、そういえば、『荷物持ち(ポーター)』から『飛脚』っていう職業(ジョブ)になった人が凄え空間能力(スペーススキル)を覚えたとか言ってた気も……」

「『物品保管庫』ね。報告には受けていたけど……本来は『荷物持ち(ポーター)』からの派生職業という線が濃厚、というところかしら? 何れにしても、生活魔法として組み込まれた『収納魔法(アイテムボックス)』や『貨幣出納魔法(コインバンキング)』以外の空間拡張系の能力(スキル)はまず滅多にお目に掛かれないという事は言えるわ」


 ユイリ達の言葉を聞きながら、僕は該当する能力(スキル)を探してゆく……。『女神の寵愛』という最初から組み入れられた拡張項目のお陰で、通常習得する為に必要な魂の修練値が優遇されているとはいえ……、前に見た時の数値は非常に高いものだった。




『プライベートルーム』


消費修練値:300000

分類   :選択型能力(アクティブスキル)

概要   :異空間に自分だけのプライベートスペースを作り出す空間拡張系の能力(スキル)。自分以外の生物を入れる事も出来るが、部屋の開閉は自分のみでしか行えない。部屋の改装は持ち込むことも出来るし、能力(スキル)の中のルームサービスから選択して注文することも出来る。




 ……やっぱりべらぼうに高い。何せ『女神の寵愛』を入れてコレなのだから……、トウヤが習得した時はどれだけ使い込んだのだろう……? 流石にこの数値は僕の現在の修練値では払いきれないので、貨幣などを換算させるしかない。目安は……確か金貨1枚で魂の修練値300くらいだったっけ……。


「コウ様、若しくは此方の能力(スキル)かと……」

「シェリル? どれ……」


 彼女の言葉にその対象の能力(スキル)を見てみると……、




趣味部屋休憩処コレクションレストスペース


消費修練値:500000

分類   :選択型能力(アクティブスキル)

概要   :異空間に居心地の良い独自の空間を作り出す空間拡張系の能力(スキル)。その空間に対象の生物が住みやすい環境を整える事が出来る。空間を仕切る事でき、それぞれ滞在する事が出来るようになる。その空間からの出口は入って来た場所と繋がり、他の空間には立ち寄る事は出来ないが、能力保持者(スキルホルダー)は何時でも自由に行き来する事が出来る。能力保持者(スキルホルダー)と一緒なら、共にその部屋に立ち入る事が出来る。




 ……確かに此方の方が都合がいいかもしれないが……、『プライベートルーム』の能力(スキル)よりもさらに高価だ……! 隠れて動物を飼育するとかいうのには、まさに打って付けと言えるだろうけど……。


「……この件に関しては、国としての支援も求めるから……、費用に関しては貴方が負担する事はないわよ? 既に滅びたとされるインテリジェンススライムの保護という観点からも、フローリア様だったら申請も下りると思うわ」

「そんな経費で落とすみたいに言われても……、相当な金額になるじゃないか……。いいよ、僕の能力(スキル)なんだし……、今まで貯めたお金で何とかなるよ、多分……」


 最悪、星銀貨や白金貨もあるから、購入できないって事はない。カードゲームやらの利権や、一応『王宮の饗宴(ロイヤルガーデン)』に所属しているという事で給金も出ているし……。僕はそれらを貨幣出納魔法(コインバンキング)で引き下ろし、能力(スキル)の購入に充てた。


「これで良し、と……。ええと、それじゃあ……君、僕達に付いてきたいんだな?」

「つれていってくれるの!?」


 泣き顔から一転、嬉しそうにするスライムに苦笑しつつ、僕は新たに得た『趣味部屋休憩処コレクションレストスペース』を発現させると、


「それじゃ、この中に入ってくれ。多分、君が住みやすい空間になると思うから」

「うん、わかったよっ!」


 そう言ってスライムはピョンピョンと空間内に入っていく。僕らも続いてそこに入ると……、草原のような世界が広がっていた。


「これが『趣味部屋休憩処コレクションレストスペース』の中……? 部屋というよりまるで外みたいじゃないか……」

「ですが、草原は作り物みたいですわ。こういう環境がこのコの住みたかった場所なのでしょうね……。それに際限なく広がっているという訳ではないようです。ある一定で仕切られているようですから……」

「ボク、きづいたらどうくつのなかにいたから……、ずっとそとにでたいとおもってたんだ! ありがとう!」

「町や城の外だったら、連れ出してあげても問題はない、と思うわ……。この広さなら、本物の植物を持ち込んでも申し分もないだろうし……、何だったら私が手配するわよ?」

「ユイリさん……、もしかして、さっきコイツを泣かせたのを気にして……!? あ、いや、何でもありませんっ!」


 そんなアルフィー達のやり取りを尻目に、僕はスライムにこの空間内の事を説明する。


「君がここから出たいと思ったら、この出口から出てくれ。そうすれば先程の洞窟に繋がっているから。ただその場合、もう一度入るには僕がいる必要があるけど……」

「じゃあ、ここからでるにはごしゅじんさまがきてくれないとダメってことだね?」

「そういう事かな? まぁ、宿に戻ったら様子は見に来るし、何かあったら呼び掛けてくれればいい。僕の方に伝わる様になってるみたいだから。ん? ご主人様って何だ?」

「え? ボクをほごしてくれるヒトだもん。ごしゅじんさまはごしゅじんさまだよ! あ! じゃあ、ごしゅじんさまがまたきてくれたときにいっしょにでて、またはいればでぐちがかわるってことだよね? ボク、さっきのところにはもういきたくないから……」

「そう言う事でしたら……。コウ様、このコと召喚契約を結ばれては如何です?」


 僕とスライムの会話にシェリルがそのように提案してきた。


「召喚契約?」

「ええ、召喚契約です。コウ様とスライム君のお話を伺うに、その方が宜しいかと。……そうですね、少しお待ち下さいませ」


 シェリルがそう言うと、小声で魔法を詠唱し始める……。これは……、


「……我と契約せし召喚獣よ、呼び掛けに応えこの地に顕現せしめ給え……『一角獣召喚(ユニコーン)』!」


 彼女の魔法が完成し、光り輝くゲートのようなものが現れたかと思うとそこから一頭の立派な角のある馬がいななきと共に飛び出してきた。シェリルが移動の際に身を預けている雌の一角獣(ユニコーン)だ。確か名前が……。


「……いいコね、リーウィア……。このように、契約していれば何時でも呼び掛けに応じてくれるようになりますわ。仮にはぐれる様な事があったとしても……、呼び出せるようになりますし、スライム君が困っていたらコウ様にも伝わる様にもなります」

「召喚魔法のイメージって、敵をなぎ倒す為に呼び出すものという感覚でいたんだけど……、どちらかと言えばパートナー、若しくはブリーダー契約のようなものなのかな?」

「コウの言う様に戦闘の為だけに呼び出すというのも間違ってはいないわ。例えば、捕えた魔物なんかに絶対服従の契約を強いて会得書なんかにするケースもあるし……。ただ、名前を与えて取り交わす召喚契約はソレとは一線を画すわね」


 名前、か……。それなら立派な名前を付けようと考えていると、横からユイリが口を挟んでくる。


「……言っておくけど、ねばねばとか、ぷよぷよとか……そんなセンスのない名前を付けないでよ。可哀想だから」

「……ユイリ、君は僕を何だと思っているんだ……?」

「申し訳ありませんが……、わたくしもユイリに同意致しますわ。流石にピィピィ囀るからぴーちゃんというような名付けられ方は……。いえ、ぴーちゃんが気に入っているなら宜しいのですけど……」

「うわっ、その小鳥ってそんな風に名付けられたんですか!? ……師匠、それは流石に……」


 まさかの集中砲火である。シウス、俺はシェリルに名付けられて良かったみたいな顔をしているんじゃない。それを聞いてスライムが不安そうな顔を僕に向けてくるが……、


「それなら幾つか候補を挙げるから、気に入ったのを選んでくれ。この中になかったら……また考えるよ」


 仕方なく僕が色々と候補を挙げると、暫く悩んだのちにスライムが、


「ボヨよんっ! ボヨよんがいいっ!」


 そう言ってピョンピョン飛び跳ねている。……僕としてはプルるとかスラりんとかの方が良かったと思うんだけど……。シェリル達は微妙な顔をしているが、本人が気に入ったのならいいかというようなスタンスだった。


「名前が決まりましたら……、ええと、ボヨよん君? コウ様を主人として意識を繋ぐイメージを持って下さい。そしてコウ様も……同じように意識を繋いだら名付けた名前を告げ、先程のお教えした契約の言葉を発するのです……」

「……わかった。…………我と契約を結ばんとする者よ……呼び掛けに応じ、我に力を貸し与えし義務と共に、汝の助けとなる事を誓わん……。厳正たる契約の下、我らを繋ぎし汝の名は…………『ボヨよん』!!」


 契約の言葉を終えると同時に、僕とボヨよんの身体が光り輝く……。そして徐々に光が治まり、やがて僕の脳裏にボヨよんと無事に契約を交わすのに成功した事が伝えられた。


「おめでとう御座います、コウ様。無事召喚契約が成されたようですわ」

「……これでボクとごしゅじんさまとケイヤクができたの? なんだかフシギなカンジがする……。でもボク、がんばってごしゅじんさまをおたすけするね!」

「あはは……、宜しく頼むよ、ボヨよん……!」


 正直、ランク1のスライムがどれだけやれるかはわからないけど……、僕を助けてくれようとする気持ちは素直に嬉しい。こうして傍に居ると何だか心が通じ合う様に感じる気もする。


「……取り敢えず何とかなったわね。スライムは共存していく必要のある生物だから、上手く話が纏まってよかったわ。魔物ではなく、まして滅びたとされるインテリジェンススライムを発見したら、間違いなく国の管理下に置く様に指示されるだろうけれど……、貴方がこうして召喚契約を結ぶに至ったのなら、まあ大丈夫でしょう」

「……召喚契約ってそうやって……。自分にも相性のいい奴がいたら契約出来るのかな……? いや、召喚魔法ってどういう風に使えるようになるのかイマイチわからなかったんで……、ちょっと自分も使えるようになるのかなーって……」

「今回はボヨよん君がコウ様に心を開いていたから出来た部分も大きいと思います。例えば魔物と契約を結ぼうと思ったら、力で屈服させるなりして、白紙の契約書を用いますから……。それならば手懐け(テイムし)たり使役させたりする方が効率もいいですし……」


 シェリル達の話を聞きながら、僕はすり寄ってくるボヨよんと戯れつつ、ぴーちゃんやシウスと共に新たな仲間を歓迎するのだった。











 ……あれから盗賊達のねぐらを探索するも、結局首領を見つける事は出来なかった。既に滅亡したとされていたスライムを見つけ、コウが無事召喚契約に成功したところで町に戻ると……、宿の主人や町の代表と名乗る町長に歓迎された。

 一足先に戻ったレン達が伝えていたのだろう、私たちが戻った時には町の中でも一番大きな館で歓待の準備をしてくれていたのだ。助け出された女性たちもいて、皆が着飾って私達を接待する……。

 そして夜も更け……、皆がそれぞれに宛がわれた部屋に向かい、寝入ったところで……、


「……ここが例の娘に宛がった部屋か?」

「左様です。それぞれに個室を貸し与えましたが、このマスターキーで……」


 カチャリ……。鍵の外れる音がして、ゆっくりと扉を開ける。そして二人の男達は寝台で眠っている金髪の女性の下へと歩を進めていった。


「ほぉ……、エルフだったか! 宴席では認識阻害の能力(スキル)でも使っていたか……。まぁ、その容貌までは隠し通せなかったようだが……」

「あのフードに何かしらの魔術でも施されていたのかもしれませんね。……料理に混ぜた遅効性の睡眠薬が利いている限り、今この場で目覚めてくる者はおりません。ボスのご随意にお愉しみ下さい。そして……後で我らにもご相伴にあずかれれば……!」

「わかっておる。尤も、売り物にするからあまり無茶な事までは出来んがな……。それにしても、いい女だ」


 ボスと呼ばれた男が女性の髪をかき上げ……、そのまま抱え上げた。


「これは……! 確か他にも上玉はいたな? この女は売り飛ばすには勿体ない。お前たちは他の女で……」

「…………そこまでよ」

「!? なっ……誰だっ!!」


 眠っているシェリル様を抱き上げて好色の笑みを浮かべている首領の男にそう言い放つと、私は隠蔽(バイディング)を解いて男たちの前に姿を現す。いきなり出現した私に驚いているのは……、町長を名乗っていた盗賊の首領らしき男とあの宿屋の主人だ。


「き、貴様っ!? どうして……! クスリが利いていないのか……!?」

「……私はくノ一よ? 毒や薬には耐性を付けているし……、何より貴方達が料理や飲み物に細工している事はわかっていたわ。……事を起こすのを窺っていたのだけど……、現行犯よ、もう言い逃れはできないわ」

「っ……おれ達が盗賊だと見破っていたのか……っ!?」


 何を今更……。私は呆れながら男たちを見据えると、


「バレていないとでも思ったの? 当然、貴方達が自作自演で誘拐騒ぎを起こした事や、本来の町の住民を隔離しているのもわかっているわ。神妙にお縄につきなさい」

「クソッ!!」


 すると宿屋の主人に扮していた男が煙幕をまき散らし……、傍にあった長椅子を投げつけてくる。私は即座に小太刀を抜き放ち、長椅子を斬り刻んで粉砕すると、同時に斬り込んできた男の短刀を受け止める。


「そこよっ!」

「グゲッ!?」


 すぐさま隙だらけになった盗賊に当身を喰らわせると、シェリル様を抱えた首領が倒れた男を囮にして部屋を出ようとしているのがわかった。


「姫は返して貰うわよ…………『転身再起』」

「なぁ!? 女が……消えた!?」


 範囲の外に逃げようとする首領からシェリル様を取り戻す。眠り薬を盛られた事以外は……異常はなさそうね。シェリル様の周囲は特に警戒していたから大丈夫とは思っていたけど、実際に彼女の様子を見て一先ず安心した私に、


『ユイリ様、盗賊達が行動を起こし始めました。鎮圧の許可を……』

『こっちも首領が姫に手を出したのを確認したわ。……イレーナ、『影』を主導して制圧しなさい』


 ずっと私の名代として影の部隊を率いさせてきたイレーナからの通信魔法(コンスポンデンス)が入り、そう許可を出すと建物の周囲でも剣戟の気配が巻き起こる。

 既にコウの他、仲間たちの下には『影映し』で作り出した私の分身を付けている。館の中で行動を起こした盗賊達の中には洞窟で助けたあの娘たちもいた。そう……私達が町に入った時から仕組まれていた事だったのだ。


「このまま……捕まってたまるかぁっ!」


 悶絶していた男が拘束しようとした気配を感じたのか、起き上がって最後の抵抗とばかりに襲い掛かって来た。自分が放った煙幕でわからなかったのか、短刀ではなく折れた椅子の足を握っている。こんなものでどうする気なのかはしらないが、シェリル様に危害を加えられても困る。相手の動きに合わせる形で私は鉋切長光(かんなぎりながみつ)を握った拳を盗賊の鳩尾に充てると、


「……『発勁砲』」

「ガッ!? ぅぐ……――」


 拳から発せられた衝撃をまともに浴びて力なく崩れ落ちる盗賊。……少し出力を強くし過ぎちゃったかな? まぁ……私達を騙そうとした男が例えどうなろうとも別に構わないけれどね。


『なあ!? き、貴様まで……あの屑どもが……! 全く仕事できてねえじゃねえか!?』

『…………その口振り、お前が首領だな?』


 吹き飛んだ盗賊に息がある事を確かめ、拘束していると何やら廊下よりそんなやり取りが聞こえてきた。ここにやって来た人物はわかっている。そして、ここの盗賊の首領如きでは相手にもならないという事も……。


『そこをどけっ!! ……侮辱け……ぐわっ!?』

『馬鹿の一つ覚えの様に……。そんなワロス技が通用する訳ないだろ?』


 ……どうやら一瞬で片が付いたらしい。勿論、彼が苦戦する事はないと思ってはいたけど……。苦笑しながら、私は眠ったままのシェリル様を介抱する。すると、漸く煙幕が晴れてきた部屋に首領を倒した人物が入ってきた。


「……ユイリ?」

「思ったより早かったわね? 貴方に睡眠作用は利かない事はわかっていたけど……、もしかして眠らなかったのかしら? 最初から何か引っかかっていたみたいだしね」


 戸惑いの顔を浮かべたコウに、私は何でもない事のように接する。眠りつつも私に介抱されている姫を見やり、取り敢えず一安心している彼の下に歩み寄ると、


「姫は大丈夫よ。料理や飲み物に混ぜられた睡眠薬で寝入っているだけだから。このクスリは特に後遺症もないし、目覚めた後は通常以上に疲れもとれるものだから旅の疲れもとれると思うわ。流石に盗賊達も下手なクスリを使って嗅ぎ付けられたら困るから慎重を期したのかもしれないわね。ま……、無意味な事だったけど」

「……僕が聞きたいのはそんな事じゃないよ、ユイリ……。君は……最初から知っていたのかい? 彼らが、盗賊だった事に……」


 憤りを隠さずにそのように問い詰めてくるコウに、


「ええ、昨日の誘拐騒ぎの時からね。だから貴方に頼んだのよ。この件は、私に任せて欲しいとね」

「わかっていたなら……、態々こんな事を……! シェリルを危険な目に遭わせるなんて……! その睡眠薬とやらだって、教えてくれていれば……!」

「勿論、悪影響を及ぼすモノだったら止めたわ。だから、私が最初に確認したんじゃない。さっきも話したけど、特に副作用もないわ。一度寝入ったら何が起きても目覚めない位深い眠りに陥るけどね。今の姫の様に……」


 因みに……、あの攫われた振りをしていた女盗賊は媚薬を混ぜた飲み物を勧めようとしていたから、それは理由をつけて止めさせたのだ。ジーニスやレンといった男性メンバーに媚びようとして、フォルナなんかは酷く害してジーニスから取り上げていたし……、レンは気付いていたような節もある。……私に任せて部屋で爆睡しているようではあるが……。


「ユイリ……! 僕が言いたいのは……!」

「どうして姫を巻き込んだ……かしら? 一応言っておくけど……、姫には簡単には話しを通しているわ。恐らく姫が一番に狙われるだろうけれど、私の方で全て処理します……とね。だから安心して眠っていらっしゃるのよ」

「……どうしてそんな……。さっき遭遇した盗賊はシェリルの部屋から出てきた……。シェリルを囮に使った、という事だろ!? いくら話をしていたとはいえ、何故そんな事をっ……!」

「まず一つは、証拠も無しに捕まえる事は難しかったからよ。ストレンベルクならまだしも……、ここはもう他国、イーブルシュタインだから。本物の町長や町の住民も人質とされてたし、此方に危害を加えようとしたという証拠を押さえる必要もあったわ。だから私は網を張り、姫の部屋に侵入して手を出そうとするのを待っていたの。イレーナに指示して、王家の影の中でもベテランの者を集めて……。今頃は人質になった町の住民も解放し、残りの盗賊も一網打尽にしているでしょうね」


 後はコウが倒した首領を拘束すれば終わりだろう。彼に付けていた私の分身がちょうど武装を解除させたところだ。もうじき、イレーナからも連絡がくるに違いない。

 コウの顔を見るに、やはりシェリル様を巻き込んだ事は受け入れがたいものなのだろう。理由を聞いても納得していない様子の彼に、私は話を続ける……。


「そしてもう一つの理由は……、今回のイーブルシュタイン行きにおける姫の随伴に伴うリスクを分かって貰いたかったからよ。……シェリル様の持つ能力(スキル)には『傾国』や『甘い色香(フェロモン)』といった意図せず影響を与えてしまうものがあるの。いくら封印しているといっても、その余波は出てしまうし、何より元々の姫の美貌もあるしね……。今後も似たような事が間違いなく起きるわ。私が反対していた理由……、わかってくれたかしら?」

「…………ユイリ」

「それでも姫が貴方との同行を望んだのは……、わかるわよね? ……全てが終わり、貴方の役目も終えてこの世界を離れる際に、姫を連れていく事を拒んだからよ。コウ、もし貴方が承諾し、姫の事を受け入れていれば……彼女はストレンベルクで貴方を待つ事を了承したと思うわ。今離れたら、そのまま二度と会う事が出来ないかもしれない……。姫の気持ちになって考えたら、待機を押し付けるなんて出来る訳ないでしょ?」


 ぐうの音も出なくなってしまったコウに未だ眠り続けるシェリル様を抱き渡す。姫も望んでいるだろうし……、意識が無くともわかったのだろうか、心なしか寝顔が柔らかくなった気もする。姫を彼に任せ、私は昏倒している盗賊を立たせて、最後の仕上げをする為に部屋を出ようとして振り返ると、


「まあ……貴方の想いもわからない訳ではないわ。コウが姫を大切にしている事はわかっているし、危険な目に……何より不幸になって欲しくないと思っているのも知ってる。でも、先程私が言った事も心の隅に留めておいて……」


 いずれにせよ最終的にはコウが決める事だ。傍から見たら想いあっているのに……彼の抱える事情や姫の立場に遠慮して中々重なり合わない二人。だから……、こうして姫も同行する事になった以上、置かれた現状を正しく知っておいて貰いたかった。シェリル様もご自身の事を理解しているし、今回のような目に遭う事も覚悟されていた。勿論、コウや私が守る事も信じておられるけれども……。


(……私の周りはそういうのばっかりね。あのレンとサーシャみたいに……。と言ってもレンはサーシャの想いに気付いているのかもわからないけど……でも、コウは気付いてる。そして、姫の想いに応えたいとも思ってるわ……。だけど、彼は姫と一緒になっても幸せには出来ないと決めつけている。……本当に難儀な事ね)


 私はそのようにコウに言葉を投げかけると、片手をあげて部屋を出る……。さて、二人の事は一度置いておくとしよう。レンの件と同様、他人がとやかく言う内容でもない。

 分身が拘束した首領も引き取り、イレーナに合流すべく盗賊達を引きずってゆく……。


「現行犯で証拠も撮ったし……、盗賊達はストレンベルクに連れて行くとして……。一度イレーナには戻って貰おうかしら? あの闇商人(ニック)に任せてしまえば向こうで上手く処理するでしょうしね。あとは町の住民の解放と……、イーブルシュタインへの伝達……。はぁ、やる事が多いわね……」


 私はそう独りごちると、頭を切り替えて今後の事を考えていった……。




8月13日に急激にアクセスが増えていると思ったら……、どうやら日間ランキングに上がっていたみたいですね。この場をお借りして感謝申し上げます。

現状1ヶ月に1話の更新間隔となってしまってますが、引き続き執筆は続けていくつもりですので温かく見守って頂けると嬉しいです。


また、誤字脱字報告を下さり誠に有難う御座います。出来ればカクヨム版とあわせて修正したいのでまだ修正出来ておりませんが……、暇を見つけて直していきたいと思います。

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