第50話:事前準備……職人、商人ギルドにて
更新が遅れてしまい申し訳御座いません。
第50話、投稿致します。
約1ヶ月空いてしまった……。
「コウ様? ユイリも……、一体どうなさったのです? 戻られてから少しご様子がおかしいようですけれども……」
『暗黒の儀礼』から戻り、シェリルを連れ出して外に出たのはいいものの……、どうしても僕たちの様子に違和感を覚えていたのだろう。僕とユイリを見て彼女がそう切り出してきた。
「……ご心配をお掛けしてしまいましたか。申し訳御座いません。少々個人的に彼と口論になってしまいまして……。まあ既に納得はしておりますし、普段のように振舞っていたつもりでしたが……」
「ああ、もう話は済んでいるんだ。僕としても何時もと同じつもりだったけど……、よくわかったね?」
「よくわかったも何も……。それで隠しているつもりだったのでしたら……余程の事ですわよ? 一体、何があったのですか?」
さらりと話を流そうとした僕たちの思惑も空しく、シェリルに追及されてしまった。……さて、どう答えようか。彼女に誤魔化しは通用しそうにないし……、かといって本当の事を話せばまた泣かれかねない。ジッと僕を見つめてくるシェリルにどうしたものかと弱っていると、
「大した事では御座いません。少々件の商人の奥様と小競り合いがあっただけです。彼女が彼に思うところがあったようで、挑発してきたのが切欠だったのですが……、新たに奴隷を迎えないかとか、トウヤ殿の被害を受けた人たちの事を引き合いに出されて、彼も激怒してしまいまして……。熱くなってしまった彼を諫める際に色んな事に飛び火して口論する事になった結果、少し気まずくなってしまいました。……こんな事を姫に伝えようものなら、また余計な心配を掛けてしまうと思い、お互い何でもない振りをしていたのですが……」
「……仕方ないじゃないか。あの人、ジェシカちゃん達がトウヤに襲われたのは、彼女たち自身が悪いなんて言ったんだよ? 仮に本心で言ったのでは無かったにせよ、あんな事許しておける訳ないじゃないか……! それについては君も賛同していたじゃないか」
「はいはい、また怒りをぶり返さないの。でも、あの場で彼女があんな事を話すのは大分不自然だったでしょう? 普段の貴方だったらあのくらい受け流せたでしょうに……。貴方が言わなくていい事を話し出したお陰で、私も言いたくない事を言う羽目になっちゃったじゃない……!」
「だから、悪かったと言ったろう!? ……でもまあ、確かに冷静じゃなかったよ。ユイリとも言い争う場面でもなかったと思う。本当に悪かったよ……ごめん」
そう言って僕はユイリに対し殊勝気に謝る。因みに……、彼らとの会話でそのような話は出てきてはいない。僕はユイリの助け舟に乗っただけだ。勿論彼女の話は嘘では無く、ニックの奥さんが挑発してきたのも事実だが、ユイリと口論になったのはその件ではない。
実際にあった話の論点をずらし、本当の事を言っていないだけ……。嘘ならばシェリルも見破るだろうが、これなら問題はないだろう。ユイリとしても、先程のやり取りをシェリルに知らせるのは本意ではない筈だ。僕とて別に彼女を傷付けたくてあんな事を言っている訳ではないのだしね。
「まあ……、そうでしたの? 確かにコウ様も熱くなると中々頑固な面はありますけど……。それならば、やはりわたくしも赴いた方がよろしかったでしょうか?」
「いや、君にとって彼らのところに行くのはトラウマを刺激するようなものだろ? 僕が未熟だっただけさ。次はこんな事がないように気を付けるよ」
ユイリのお陰で取り敢えずこの場は乗り切ったようだ。ここで詳細を明かし、シェリルに泣かれるのは何としてもごめん被りたかったからな……。とはいえ、何時までも隠し通す事も難しい……か。
「おっと……、そうこう言っている間に着いたようだね……。さて、リムクスさんはいるかな……?」
目的だった職人ギルド、『大地の恵み』に到着し、中に入る。馴染みとなった受付の職員と会釈を交わし、何時ものようにリムクスさんの部屋に訪れると、
「ぴゃっ!?」
「うわっ……と。大丈夫かい?」
ちょうど来客があったのか、入れ違いで出て行こうとしていた少女とぶつかりそうになり、慌てて僕は抱きとめる。
「はう~~、ご、ごめんなさい~~!」
「僕の方こそ来客に気が付かないで……」
「……ホントにどんくさい奴だね。何処までアタイ達に迷惑かける気なんだい……? 悪かったね、アンタ。ウチのがそそっかしいせいで……」
部屋にいた戦士風の女性がそう謝ってくるのを気にしないで下さいと返す。抱きとめた女性がプルプルと震えていたが、離れると同時に勢いよく頭を下げて、慌てて部屋を出て行くのを見送っていると、
「全く、本当に兎耳族なのかね……? 自前で付け耳でもしてるんじゃないのかい……?」
「……まあそう言うもんじゃないよ、クインティス。フレイだって一生懸命にやってるんだからさ」
リムクスさんと話していたらしい冒険者風の男性がそう言って女戦士の彼女を窘める。彼らの話を窺うに、先程の女性は獣人族であるようだ。そう言えば、バニーガールのように、お辞儀の際にそれらしい垂れ耳があったと思う。
「……アンタは甘いんだよ、カートン。一生懸命にやってれば何でも許される訳じゃないんだよ? 先日だって付いてきたいって言う娘に縋られて、結局同行を許しちゃうしさ。……まさかと思うけど、あの馬鹿ども二人を喜ばせる為に同行を認めた訳じゃないだろうね?」
「それこそ、まさかだろ? ジェニーのヒーラーとしての才能は、君も認めていたじゃないか。セカムやシクリットに言われるまでもなく、僕たちに必要だと思ったから一緒に来て貰おうという話になった筈だ」
「そりゃあ回復役は貴重だからね。主だった僧侶は基本的に教会に入るだろうし、冒険者として活動する僧侶は原則的に顔馴染みのパーティーやクランに所属するんだから、ウチみたいな貴族様の三男坊をリーダーに据えた弱小パーティーにとって、態々入りたいと言うヒーラーを歓迎しない理由はないだろう? それでもあの子は、まだまだ才能があったってだけの雛鳥みたいなもんさ。アタイとしては、フレイみたいな足手纏いを増やしただけって印象が強いんだよ」
「……仲間の悪口はそこまでにしてくれ、クインティス。君がパーティー、そして僕の事を思って色々言ってくれているのはわかっているが……、悪口は聞いていて気持ちのいいものじゃない。……仲間が失礼しました。リムクス殿に用があって来られたのですよね?」
カートンと言う冒険者の男性が謝罪がてらに自己紹介してきたので、僕たちもそれに応える。僕たちの来訪に、リムクスさんが、
「ちょうどいい、コウからも話してくれんか? こやつらにいくら説明しても、中々納得してくれんでな……。お主らが求めている拳銃だが、このコウが設計や調整に貢献してくれておるのだ」
「貴方が……! いや、失礼しました。この国の知己に、件のピストル銃なるものを聞き付けたので、是非僕の仲間に持たせたいと思っていたのですが……、このリムクス殿からどうにも快い返事を頂けなかったもので……」
「ああ、そういう事でしたか……」
あの拳銃を、か……。それはリムクスさんも頷けないだろう。
「ピストル銃なるものは、今までの銃のような大きく使い方の難しいものではなく、誰でも扱えるという話を伺いました。この国の秘伝とされるならばまだしも、兵士なら誰でも扱えるようになるとも聞きましたので、出来れば一つお売り頂けないかと交渉に参ったのです。せめてお代だけでもいくらなのかは知りたいと思っているのですが……」
「先程も言ったが、あれはまだまだ実用に耐えん。その知己がなんと言っておったかは知らんが、誰でも扱えるなどと言うのは全くの出鱈目だ。その事をコウ、お主からも伝えてやってくれぬか?」
「成程……。確か、カートンさんでしたか? 拳銃を調整させて貰った者としてお伝えさせて頂きますが……、リムクスさんは間違った事は話しておりませんよ。自分が言うのもなんですが……、未だ欠陥の多い試作品、未完成品でしかないのが現状です」
「そうなのかい? 知己の話では一発で魔物を仕留められる程の威力があって、実際にその目で見たという事だが……。尤も、イーブルシュタイン出身の我々には扱わせられないと言われてしまえばそれまでだけどね……」
肩を竦めながらそう話すカートンさん。もしかすると、彼の知己と言うのは……。
「……ストレンベルク山中に演習に出た時に参加されていたのかな? それでしたら簡単に扱えているように思うのもわかりますね。あの時傍目から見たら、彼はあっさりと魔物を仕留めているように見えたでしょうから……」
「事実、そうなんじゃないかい?」
「……ここに試作品があります。実際に試して頂いた方がわかって貰えると思います」
そう言って僕は収納魔法を起動させ、試作品である拳銃を取り出すと、
「リムクスさん、射的室の使用許可をお願いします。……それでは、参りましょうか?」
こうして使用許可の下りた射的室に移り、試作品をカートンさんに持たせると、
「……随分厳重な部屋だね。何やら透明の壁もあるし……」
「それだけ危険があるという事ですよ。カートンさん、これがトウヤが魔物を狙撃した距離になります。その試作の銃を使って、あの的に当ててみてください。……繰り返しになりますが、取り扱いには本当に気を付けて下さいね?」
『神々の調整取引』で取り寄せた防弾ガラスが張り巡らされた部屋に彼を残し改めて注意を促すと、おっかなびっくりといった感じで拳銃を構えるカートンさん。そして彼は引き金を引き……、
「うわっ!?」
激しい銃声と共に驚きの声を上げるカートンさん。案の定、銃を使った反動に耐え切れず、狙いが逸れて明後日の方向に暴発し、拳銃も取り落としてしまったようだ。硝煙が立つ昇る拳銃を呆然と見つめるカートンさんに対し、
「……これが拳銃です。使ってみてわかったかと思いますが……、とても簡単に扱える代物ではないでしょう? 元々この世界にも火器というか、ホイールロック式に近い鉄砲までは開発されていると聞いておりますけど、どちらにしても素人が持てる物ではありませんし、その試作品は使用者本人にも暴発する危険もあります。とてもじゃないですけど、実戦には耐えません」
「……そうだね。貴方の言っていた事がわかったよ。流石に彼女らに持たせられる物じゃなさそうだ……」
まぁ、それは試作品だし多少大袈裟に作られた代物ではあるけれど……。だけど、素人が気軽に使える武器と思われても困る。恐らくはこれを使いこなしている内に僕も発現した銃士やそれに連なる職業を得る事になるだろう。
そして『反動補正』や『命中補正』、もしかしたら『魔弾充填』なんて能力も備わる事になるのではないだろうか……。
「だからアタイは反対してただろ? 得体のしれない物を、半人前たちに持たせたらどうなるかってさ。戦ってるアタイらの後ろからそんなので狙われるなんざ堪らないよ。……もしそんな暴挙を強行するなんて言ったら、パーティーから抜けるところだったろうね」
色々とショックだったらしいカートンさんに、お仲間の彼女が物申していた。
「……アタイはアンタの実家に請われて付いてっているんだ。用心棒……というよりもお守役に近い状況だが、個人的にもアンタの実家には義理もあるし、一応金も貰ってる。だけどね、あまりに無茶な事を言われてそれに従う必要はアタイにはない……。それはわかってるだろ、カートン?」
「ああ、勿論。クインティスのような一流の戦士が、僕たちのような半人前のパーティーに付いて来てくれている事には感謝してるよ。……本当にありがとう」
「まぁ、わかっているならいいさ。別にアタイも嫌々付いてってる訳でもないしね。さ、メンテナンスに預けてた武器を回収して行くよ。近い内にイーブルシュタインに戻るんだろ?」
「……今回の依頼達成でついにBランクになったからね。一度父上の元に報告に行きたいんだ。ピストル銃に関しては……残念だけど諦めるよ。これだけ腕のいい職人の集まるストレンベルクが誇る『大地の恵み』の開発品だったから、つい入れ込んでしまった」
そうしてリムクスさんより武具を受け取り、その出来栄えに満足しながらカートンさん達がギルドを後にしていった。その後ろ姿が見えなくなったところで、
「……全く、あの男は余計な事しかしてくれんの。この拳銃といい、チェーンソーとやらを取り込んだガンブレードといい……。色んな意味で実戦には耐えんし、かといって放置できる代物でもない。既にお披露目もしとるから、聞きつけた冒険者たちもやって来おる……」
溜息を吐きながらリムクスさんの話は続く……。
「一度情報が出回れば隠すのは難しい……。また先程のような連中も現れるじゃろう。それも、古代遺物品並みの性能を持つ逸品じゃ。特に拳銃は現状の銃という概念を覆すには十分すぎる程、扱いやすく連射性もあり、殺傷力も優れておる」
「……さっきのように試作品で誤魔化すのも限度があるからね。トウヤは早く完成させろと言ってきてるし……」
……カートンさんに渡した試作品を手に取りながら、僕はリムクスさんにそう話す。
このファーレルでも銃はあるようだが、その技術は火縄銃……いわゆるマッチロック式の物や、よくてホイールロック方式の物であると聞いている。尤も、今までにも召喚されてきた勇者や、この世界に降り立った転移者、異世界人によって文明を一足飛ばしにする技術が伝わるのは別に今回が初めてという訳ではない。
(問題は殺傷能力が有り過ぎる事だよね……。戦国時代の鉄砲三段構えのような形で使用されているものが、いきなり小型化して連射も出来る……。おまけに当たり所が悪かったら命にかかわるダメージを受けるんだ。いくら魔法があって、多少防ぐ手段があるといっても限度がある……)
……もしも核兵器を制限のある魔法と言う形でなく、実際の兵器として持ち込まれたらと思うと目も当てられなかったと思う。それでも魔法としてこの世界に再現させた時点で、僕がアイツを制圧する事が出来ていない要因の一つとなっているから面倒この上ない。
「……儂は鍛冶師であり職人じゃ。決して不必要に命を奪う物を世に広げる悪魔ではない。それらが万が一、賊や魔族共の手に渡る可能性を考えると完成させるべきか迷うところではある」
「……難しいところですね。魔力素粒子による魔法障壁でしたっけ? いくらそれがあっても眉間を狙われたらアウトでしょうし……。それこそ鉄仮面やフェイスシールドという物でも防げるかどうかは微妙ですしね。後は、弾力のあるスライムのようなモノで覆う事で衝撃を和らげる方法があると言ってましたけど……」
「それでも不意を突かれたらどうにもならないわよ。常にソレで覆うなんて事はやらないでしょう? 尤も、それは今出回っている銃で狙われても同じ事だけどね」
「そういう事じゃ。本当に忌々しい……」
僕から拳銃を受け取りつつ、ブツブツと愚痴を零すリムクスさん。……同じ世界の出身者として、僕も少しばつが悪いというか……、居心地が悪い。
「愚痴って悪かったのう。奴の話はその辺にして……、お主らが来た用件を片付けるか。ほれ、受け取るがいい」
「いつ見てもいい仕事してますね! まるで新品の様に……いえ、新品以上に鋭くなっているようにも思います! そしてこれが……」
「和の国産の刀……、『宗三左文字』じゃ」
日本でも『左文字』という銘の刀があった事は知ってる。歴史オタクという訳ではないが、それなりには詳しいとも思っている。高名な戦国武将が手にしてきた刀として記憶していたんだけど、こうして異世界にやって来て手にする事になるとは思わなかった。
「『人智の交わり』のマイク殿が取り寄せた逸品に多少手を加えた。相性の良い魔法金属を加えた事で、魔法を纏わせやすくなっとる筈じゃ。今まで使っとった剣にも施しておいたが、そちらはもう使用せんのか?」
「いえ、こちらも使うと思います。刀と長剣とじゃ使い勝手が変わりますしね。それにしても、僕の故郷の武器をこの世界でも見る事になるなんて……。まして、この刀はかなり有名な文化遺産だったと思います。一体誰がこんな名刀を……」
「……刀という武器が世に出回ったのは先代の勇者が使いこなしたという事が大きいのかもしれんがの。和の国にはその存在を秘匿された刀匠がいると聞く。もう何百年も生きているとも、異世界からの転移者とも云われておるが、実のところは何もわかってはおらん」
……以前にユイリ達が言っていた人物のことか。確か今回和の国もイーブルシュタインに呼ばれているという事だったけど……。もし向こうで会ったら、その話を詳しく聞ければいいんだけど、確か機密とも言っていたっけ……?
「エルフの娘やシラユキ家の武器もそこにある。確認しておいてくれ」
「……ええ、問題ないわ」
「わたくしの方も……、有難う御座います。リムクス様」
「まさか儂がエルフのものまで鍛える事になるとは世の中わからんもんじゃな。ああ、そうそう。確かお主らが向かう世界同盟会議には地底国シュヴァルツァーも呼ばれとるとの事だったな?」
地底国シュヴァルツァー? 何だろう、聞いた事がない国だけど……。
「ドワーフ族が治めている国よ。リムクス殿の出身国でもあるわ。ええ、招待されていたと思うけれど……」
「だったら向こうで会ったらこれを渡して貰えんかの? 恐らく儂の知人が来るだろうからのぅ……」
そう言ってリムクスさんが差し出してきた物を受け取る。これは……手紙、かな……?
「で、でも、必ずしもリムクスさんの知り合いが来るとは限らないんじゃ……?」
「なーに、恐らく大丈夫じゃわい。こう見えても儂は向こうでも顔が広いんじゃ。少なくとも儂を知っとる者が来るじゃろう……!」
「……本当に大丈夫かな? これ、明らかに手紙だけじゃなく、何か入ってるよ? 確か簡易の収納袋とかいうんじゃなかったっけ? 結構貴重なんじゃない、これ!?」
「リムクス殿があのように言う以上、大丈夫でしょう。まぁ、貴方が預かったのだから、私に預けようとしないでよ、コウ」
結局リムクスさんに押し切られてしまい、何やら手紙と一緒に貴重な物を預かる事になってしまった僕。高価そうな物を外に持ち歩く習慣などまるでない僕は、何処か落ち着かずユイリに預かって貰えないかと打診して丁度断られてしまったところだ。
「貴方は貴重品恐怖症にでも掛かっているの? 選択の指輪といいスーヴェニアといい……。いいじゃない、自分で持っておけば」
「……しょうがないだろ? 落ち着かないんだから……。まして預かり物なんだし、途中で無くしたらどうするんだよ……?」
「コウ様、大丈夫ですよ……。『収納魔法』に納めた物は無くなりませんから。もし差し押さえるにしても、本人の意思を無視しては出来ません。……わたくしが奴隷に堕とされても、預けていた物を没収されなかった事がその証ですわ」
職人ギルド『大地の恵み』を出てボヤキ続ける僕を諭すように告げるシェリル。……そう言われてしまってはこれ以上ゴネる訳にもいかない、か……。
「……わかったよ。正直、いつも持ち運びには『物品保管庫』を活用しているから、『収納魔法』はあまり馴染みがないんだけどね……」
「普通は『収納魔法』の魔法レベルを上げて収納容量や性能を強化するものなのよ? 取り出したい物をすぐに取り出せるようになるしね。そもそも、空間能力の『物品保管庫』なんて中々得られない能力なんだから……」
「習得しちゃったんだから仕方ないじゃないか……。おっと、そうこう言っている内に着いたね。アルフィーはいるかな……?」
良業物である宗三左文字を贈ってくれたマイクさんに改めてお礼を言う為にも、商人ギルド『人智の交わり』にやって来た僕たちは中の様子を伺ってみると……、
「……ちゃんと帰って来てね?」
「ああ、大丈夫さ。師匠たちも一緒だ、何も問題はないよ」
おっと……、ギルドの入口で何やら二人の世界に入ってる子たちがいるな……。二人は僕たちに気付かず会話を続けていた。
「それでも……っ! 何があるか、わからないじゃない……」
「大丈夫だって。オレも未来の嫁さんを置いて死ぬような間抜けじゃないからさ……」
僕の直属の部下であるアルフィーに、その恋人であるジェシカちゃんだ。ジェシカちゃんは僕に刀を贈ってくれた商人ギルドの長であるマイクさんの一人娘でもある。色々あったが……、彼らが結ばれた事は起こった事から考えれば幸運であったと思う。見たところ問題はなさそうだし、結婚し子供を産む事が認められる16歳になったら一緒になるとも聞いている。
……それにしても、君達……、
「ちゃんと帰って来てね……っ!?」
「おわっ!? し、師匠!? いつの間に……っ!」
「いや、今来たところだけど……、ラブラブというか、幼い旦那とその無事を祈る新妻みたいなやり取りだね。まぁ仲が良いのはわかったけどこんなギルドの入口で繰り広げるのは……、些かどうかと思うよ?」
今更ながら状況に気付いたのか、真っ赤になりながらお互いに距離を取る二人。周囲の職員さん達も生温かく見守ってあげていたようだ。ユイリも同じような笑みを浮かべながらマイクさんとの面会を希望したところで、アルフィー達が言い訳を始める。
「こ、これはその、何と言いますか……」
「オ、オレたち、こんなつもりじゃ……! 話だってすぐ済ませるつもりで……っ!」
「別に責めている訳じゃないさ。大切な恋人との逢瀬を邪魔しようってんじゃない……。まぁ、ギルドの入口付近で二人だけの世界を作っていたから、さぞかし一般の人は入りにくかったんじゃないかと思っただけさ」
「「う、うぅ……っ!」」
恥ずかしそうにしている二人にそう感想を述べたところで、マイクさんが顔を見せた。
「これはコウ殿、ようこそいらっしゃいましたな。おや、お前たち。語らいの方はもう良いのか?」
「お、親父さん……っ! オレたちは別に……!」
「アルフィー……! もう、認めよう? 私が席を外して貴方を控室に促していれば良かったのよ……。私たちが何を言っても、ますます恥ずかしくなるだけだわ……」
真っ赤になりつつもアルフィーを窘めるジェシカちゃんにを見て、マイクさんはひとつ息を吐くと、
「全く、往来の場で二人の世界に入りよって……。まあ良い、周りも目くじらを立てる者はおらんかったしな。それよりもコウ殿、聞きましたぞ。世界同盟会議の会議の場に、カードゲーム開発の考案者として呼ばれたという事ですが……」
「……はい、そういう事になってしまって暫く国を離れる事になりそうです。それよりも、先日は有難う御座いました。先程、『大地の恵み』に寄って頂いてきましたが……、この宗三左文字、凄く良い刀だと思います。このような業物、本当に宜しいのですか……?」
「なんの、構いませんよ。コウ殿には常日頃より世話になっておりますからな。ギルドとしても、何より私個人としても……。コウ殿は近頃、刀術を扱うようになったと伺ったのでね、それならばと思い、ある伝手から和の国に打診して一振り都合したのですが……、気にいって頂けたようで何よりです」
マイクさんがそう言ってくれたところで、僕は『左文字』を鞘から抜いてその刀身を見つめる。曇りひとつない、見れば見る程惹き込まれるような『左文字』に思わず感嘆していると、
「あ、あの……、コウさん! これを……」
「? ジェシカちゃん……?」
アルフィーが見守る中、ジェシカちゃんが何か僕に差し出してくる。
「アルフィーにも渡しましたが……、コウさんもお受け取り下さい。色々お世話になりましたお礼も兼ねて……」
「僕に……? 気を遣わなくていいよ、ジェシカちゃん。そんな事しなくったってアルフィーはちゃんと君の下に帰らせるから」
まだまだ子供だと思うのに、そんな気遣いをしてくるなんて……。色んな意味でこの世界の子供は早熟というかなんというか……。
「……これは『火鳥のペンダント』というお守りです。不死鳥としての力を持つとされる神獣、火鳥の加護が僅かながらにも込められたと云われていると聞きました。アルフィーと、彼が仕えている貴方が出国されると聞いて急いで用意致しました。どうかお受け取り下さいませ」
「これ……、気休めじゃなく本当に何かを感じるね。流石は異世界のお守りといったところなのかな? でも、それだけに手に入れるのは大変だった筈だ。彼の為に求めたというのはわかるけど、どうして僕にまで……?」
僕がそう問い返すと、ジェシカちゃんは一息吐いてから見つめ直すと、
「……コウさんに凄くお世話になった事はわかっているんです。それこそ私だけでなく、父やアルフィーの事も……。コウさんがいなかったら、取り返しがつかない事態になっていたんじゃないかとも……。そして、アルフィーからもコウさんがどんな方なのか、一流のクランとされるシーザーさんと同じくらい尊敬しているという事も聞きました。だからこそ、そんな大恩あるコウさんにお礼がしたくて……、こうしてご用意しました」
まぁ、コウさんが無事ならアルフィーも帰って来てくれるだろうという思いもありますけど……。そう苦笑しながらも差し出してくるお守りを僕は受け取る。
「そんな事、君が気にする事はないよ。でも、気持ちはわかった……、大事にするよ。だから安心して? ちゃんと、君のところにアルフィーを帰すから……。こんな可愛いお嫁さんを未亡人にさせる訳にはいかないし、ね……」
「はうっ!? お、お嫁さん!?」
「ちょ、師匠!? ジェシカとはまだ……!」
わたわたしている二人を尻目に、僕は改めてアルフィーを無事に彼女の元へ帰せるようにしなければと決意を新たにする。もしかしたら滅茶苦茶にされていたかもしれないアルフィー達の幸せ……。その元凶となった男をやはりこのままにはしておけないという思いと共に、ジェシカちゃんに貰ったお守りを握り締めると、
「アルフィーには今よりうんと強くなって貰わないとな……! 旅の道中も訓練量を上げようかな? それこそ今掛けている重力を倍に上げるとか……」
「ば、倍っ!? 勘弁して下さいよ、師匠!! そんなにされたらオレ、動けなくなっちゃう!?」
「大丈夫だよ。君は僕より強くなれる逸材だと思っているから。それこそ君が憧れているシーザーさんより強くなれるかもしれない……」
「それでも、いきなりは無理ですってっ! シェリルさんからも言ってあげて下さいよ! それは無茶だと……!」
「ふふっ、アルフィー君なら大丈夫ですよ。コウ様の見立て通り、才能もありますから……」
「頑張りなさいよ、アルフィー。イレーナ以上に素早くなれるかもしれないわね? 応援してるわ」
「シェリルさん!? ユイリさんまで!? オレの味方はいないのか!?」
泣き言を宣うアルフィーを微笑ましく眺めながら、僕はもう一度マイクさんとジェシカちゃんに刀とお守りのお礼を伝えた。この礼はきちんと返さないといけないなと思いながら、アルフィーを回収して次の目的地に向かう事を告げる。
「レイアも今日は魔法ギルド『魔力の学び舎』の方で待っているって言っていたしね。折角だからカードの調整と一緒に、確認していこう……。僕は出られそうにないけれど、初のカードゲーム大会の件も話しておきたいしね」
「大会については任せて欲しい。場所は名誉にもこちらでさせて貰えるとして、『魔力の学び舎』とも調整しているからな」
「ええ……、何でも父も出場するそうですから。ほぼ主催者特権を振りかざしているようにしか見えませんけど……」
……イーブルシュタイン行きが無ければ、僕も出場する筈だったのに。まあそれを言っても始まらないから、割り切ってはいるけどね……。
他の国からも参戦する事が決まっているようで、カードゲームの評判は概ね好評のようだ。魔物に襲われた際の手段としても、有効だったという話も聞いている。……だからこそ、その恩恵に預かれていない国がその件で話がしたいというのもわからない訳ではない。
「さ、予定もあるし、行くとしようか。アルフィー、もう逢瀬は済んだのか?」
「……ええ! もう大丈夫で御座いますよ。全く師匠は……! そう言う事だから、もう心配すんなよ、ジェシカ。それに、今回は会議に参加するだけだ。何も危険な事なんてないし、万が一の事が起こっても師匠たちなら何とかしちゃうからさ」
「……わかったわ。コウさん、アルフィーをよろしくお願いします」
拗ねてしまったアルフィーを小突きながらジェシカちゃんに応えると、僕たちは商人ギルドを後にした……。




