第49話:事前準備……『暗黒の儀礼』にて
更新が遅れてしまい申し訳御座いません。
第49話、投稿致します。
収集がつかなくなり、事前準備編、2話にわけました(もしかしたら3話?)。
1話としての文量は程々かもしれません。
もう一話も近い内に投稿出来れば……と思っております。
「……ホンマに急な話やなあ。こっちには何の報告も受けてへんちゅうのに……」
「じゃあ……、本当にいきなり決まったって事かい?」
ストレンベルク王国と秘密裏に契約を取り交わした闇ギルド、闇商人のニックが所属する『暗黒の儀礼』に足を運び、イーブルシュタイン連合国で主催する事となった世界同盟会議が決まった経緯の裏を取ろうとしたのだが……、
「いや、一応彼の国においてそういった流れはあるっちゅう事は聞いてたんや。ただ、こないに早く……、しかも裏世界を通さへんで決まったっちゅうんは……、些か腑に落ちん」
「それって、イーブルシュタインにはあんまり闇の組織が無いって事なんじゃないの?」
実際にそんな国があるのかはわからないけど、と思いながらそう口にする僕に、
「まさかっ! むしろイーブルシュタインの闇の組織はファーレル随一とも言われてるんやでっ!? 数多の盗賊や暗殺者が所属するっちゅう闇ギルドも存在しとるし、未だ概要も掴めん最大規模の闇ギルドも彼の国の何処かにあるんやないかって言われとるんや!」
「なら、どうして貴方達に話が下りてこなかったのよ?」
僕の護衛として付いてきたユイリがニックを問い詰めると、肩を竦めながら答える。
「……元々あん国はわからんことが多いんや。ワテらの伝手もあるにはあるが、何れも下位組織ちゅうんか……、なんやそれらを取りしきっとる大元のギルドでもあるんやないかとは思っとるんやが、そこにコンタクトがどうしても取れんによって……」
ニックの所属する『暗黒の儀礼』もファーレルの中では結構大きいギルドではあるようだけど、それでも実態が掴めない組織か……。結局、今回は以前よりお願いしていた件の確認をするだけになりそうだった。
ソフィさん拉致を皮切りに王女奪取まで目論んだ『大公令嬢誘拐事件』。既に処罰されたらしい海賊の首領や手下とされる魔族から、十二魔戦将の一人である『魔貴公士』ファンディークの関与が明らかとなった。どうやら他国に遠征する事となった件についても彼による陽動だったらしく、帰国しようとしていたソフィさんの動きも正確に把握した上での事件だったらしい。裏切り防止として彼らに施した呪いから見てみても、このファンディークという魔族は相当残忍で、狡猾な人物であるようだ。
十二魔戦将は、魔王が選ぶとされる特別な部下という事で、それぞれ種族の異なる十二体がその地位についているらしい。現在判明しているのが、ヒューマンにダークエルフに竜人族、魔族であるダークヒュームに堕天使、魔物種と悪魔族に加え、先日新たに天使の十二魔戦将が現れたという事がわかり、合計8体がわかっているようだ。
十二魔戦将に選ばれた者は不老となり、その姿のままで生きる事が可能となるようだが、何らかの原因で欠員が生じた場合、魔王が封印されて活動できない状態などになると他の魔戦将が代行して新たにその地位に就かせるものを選んだり、ある条件下で現在の魔戦将を受け継がせたりする事が出来たりするようなので、把握している者達ももしかしたら顔ぶれが変わっている可能性もあるらしい。
「魔王については……、やっぱり前回の事以上にはわからないよね?」
「……ワテらにわかるのは、あくまで魔王の封印が解けかかり活動を再開しとるっちゅう事までやな。それもやはり十二魔戦将の話なんかによって判断するさかい、どうしても正確な情報とは言えんところもある……」
それを聞いてお礼を伝えながらも、心の中で嘆息してしまう。
「……えらい細かい事を気にするもんだね。チマチマそんな事を聞いて、どうかなるもんでも無いのにねえ……」
「おい、お前……」
今まで黙って聞いていたヒューマン族の女性、聞くところによるとニックの奥さんであるという、盗賊の出で立ちをした女性が口を挟んでくる、
「ワテ、言ったがな。お前が立ち会うんなら、口を挟まんようにとな」
「アタイは了承した覚えはないけどねぇ。それは兎も角、仕方ないだろう? まどろっこしい話でつい口が出ちゃったんだから」
ニックの抗議もどこ吹く風でそのように答えると、僕の方に振り返り、
「アンタやギルドマスターであるトゥーヴィルさんが決めた事だからと黙ってたけどねえ……。男が細かい事をいちいち気にするんじゃないよ。見ていてイライラするんだよ」
「……それは、申し訳ありません。細かい事が気になってしまうのは、僕の性分でして……」
最初にニックに引き合わされた時から、この人が自分にあまり良い印象を抱いていないという事は分かっていたが……、ここで口を出してくるなんてね……。
出来る限り、敵を作らないよう心掛けてきた僕だったけれど、どうしたって自分と相性の合わない人は出てくるものだ。目の前の女性だけでなく、王宮内でも勇者として活動するトウヤに比べて、王宮の饗宴に所属している僕を煙たく思っている者がいる事は知っているし、生きていく以上、仕方がない事だと割り切ってもいる。
だから気分を害した事を謝罪して、これ以上刺激しないように流そうとした僕だったが、
「……ふん、ホントに気に入らないねえ。そう言っておけばこちらが納得するとでも思っているのかい?」
「貴女ねえ……、何をっ」
「待ってユイリ……。確かキューさん、でしたっけ……? 僕を気に入らないというのは甘んじて受け入れますが……、貴女は何を求めているんです?」
反応するユイリを抑えて、僕はニックの奥さんである彼女にそう告げる。話を終わらそうとする僕を挑発するのには……、何か理由がある筈だ。
「アンタ、過去最高金額でエルフの奴隷を購入したみたいじゃないか? それも、すぐに奴隷から解放したという変わり者とも聞いてるよ。偽善からかなんなのかは知らないけど、そんなアンタにいい商品がある……。アイリン! こっちに来な!」
「おいっ! 何考えとんやっ!?」
訝しむ僕を尻目に彼女はそう告げると、その声に従って奥から一人の美少女……、いや美女がやって来る。戸惑った様子で姿を見せた彼女は、シェリルと初めて会った時に着ていたような衣装を身に付け、おずおずと口を開く。
「女将さん? お呼びで御座いますか……?」
「来たね、アイリン……。この娘は踊り子として身を立てていたんだけど、ちょっとしたトラブルがあって、それが切欠で奴隷に堕とされた不憫な子でねぇ……。代わりにウチで引き取ったのさ。もう少し成熟させてからの方が高く売れると踏んでの事だけど……、アンタ、この娘を買わないかい?」
……これが、この人の思惑? シェリルを購入した僕なら金を惜しまず出すだろうという……? でも、それにしては……。
「お、女将さ……あっ!」
「ほら、いい反応するだろう? 今の時点でも男たちが目を付ける程いい体をさせているし、勿論処女だよ……。アンタらが情報を求めているエルフではないけど、掘り出し物さ。……どうだい?」
身体を撫でまわされ、反応する彼女に気を良くしながらそう話すキューさんに、旦那であるニックが、
「キュー、ええ加減にせえよ……。お前、何考えとるんや!?」
「アンタは黙ってなっ! ……で、どうだい? この可哀想な奴隷の娘を救ってあげようとは思わないかい……?」
「止めとくよ」
そんな事、考えるまでもない。間髪入れずに答えると、僕は話を続ける……。
「貴女の旦那さんにも伝えていたんだけどね……。僕がシェリルを購入したのは、色々と理由もあるけど、一番は手に入れたいと思ったからだ。可哀想だから買った訳じゃない」
「その割には手も出さないでいるとも聞いたよ? 手を出そうとしたら姫だったから……って訳でもないんだろ? そうなら事前に旦那に開放するなんて事を耳打ちするはずないしね。アンタは同じような境遇にある女を区別する小さい男なのかい? もう一人の勇者だったら、迷わず購入しているとアタイは思うよ?」
「……アイツが購入するのは助けたいというよりも、自分の欲望を満たす為だろうさ。それに、僕が誰彼助けるものだなんて思われても困るな。目に映る人すべてを救えるなんて大それた事を考えた事はないし、それに……」
そう言ってチラッとアイリンと呼ばれた女性を見ながら、
「そもそも彼女は奴隷ではないんじゃないかい? 首輪はしていないようだし、僕を見る目も助けを求めている様には見えない……。どちらかと言うと、僕の事を恐れているように見える。すると、彼女は貴女達によって虐げられている訳ではないという事だ。……もし奴隷だったにしても、そこにある関係を無視してまで開放しようとは思わないよ」
元の世界での倫理観からは、奴隷と聞くと忌むべきものだと思うけれど……、生憎ここは地球ではなく異世界だ。異世界には異世界のルールもあるのだろうし、自分の価値観を押し付けるつもりは毛頭ない。
……それに、僕がどんな人でも助けるなんて思われても困る。シェリルの事は、一目惚れというか……、自分の私情を挟んだ結果、今の状況となっているのであって、他の人にも同じことをしようとも思わない。
「……ようはこの娘を購入しようと思える魅力はないって事かい?」
「どうしてそうなるのかな……? 魅力があるか無いかで言えば、十分可愛い子だとは思うよ。ただ、さっきも言ったように奴隷として購入する気は……」
「同じようなもんだろ? アタイはね、偽善者が嫌いなんだ! 自分の欲望に従うならまだしも、いい人ぶって奴隷から開放するような輩なんか特にね……! どうせ協力していく事になるなら、どうしてこの男では無く、トウヤって方にしなかったのかと、トゥーヴィルさんやこの人には詰め寄ったもんだよ!」
「……話を聞く気はないようだね。僕の伝え方がまずかったのかもしれないけど……。それにしても、トウヤの方がいいか……。そこまで言い切るのなら、彼が何をしているか、知っているんですよね?」
……ニックには悪いけど、この人はあまり付き合っていたい類の人ではない。仮に仕事と割り切るにしても、適当に切り上げてもう少し会話の成り立つ相手を探した方が効率もいい筈だ。
尤も、自分のそんな思いも相手には伝わってしまっているかもしれないが……。心の中で溜息をつきながら別の話題を振ると、
「勿論さ。アンタと同じくこの国に召喚されたんだろ? しっかりと勇者としてのお役目もこなしてるようだし、『暗黒の儀礼』としては貧乏くじを引いたもんだよ……。もしもアンタと同じ提案を聞いたとしたら……、間違いなく了承してるだろうさ。そして、しっかりとこの娘を可愛がっていただろうよ。巡りに巡って、ウチから出品した奴隷を受け継いだ竜人族のエリスのようにね!」
「……同時に無理矢理手篭めにされた女性もいるようだけどね。相手がいる女性を攫って事に及ぶ事もあったし、何よりこの国で禁忌とされている『魅了』の力も駆使しているようだけど」
「『英雄色を好む』って言葉もあるだろ? むしろ『勇者』の女になるんだ。悪い話じゃない。『魅了』が禁忌だってのも、表の連中が決めただけの事さ。その能力を生業にする男夢魔や女夢魔なんてのもいるんだ。そんな存在を無視しておいて禁忌も何も無いさ」
「……それは、王国を敵にまわす言葉だわ。いいの? 奥さんにこのように言わせておいて?」
「キュー! お前はワテとトゥーヴィルの決定をメチャクチャにする気か!? これ以上暴言吐くなら、ギルドから追放せなあかんくなるぞ!」
ヒートアップしてきたキューさんを咎めるユイリとニック。流石に言い過ぎたかと口を噤む彼女だったが、
「……『英雄色を好む』、ね。アイツが英雄でも何でもない、ただの犯罪者だとしても、それは通用するのかい?」
「力ある者が正義、そして英雄なのさ。少なくとも、表の世界に居られなかったアタイらはそうやって生きてきた。……あの勇者に女にさせられた者が居るってアンタは言ってるけど、それだって弱かったから悪いんだよ。強いヤツに従って生きていかなきゃならないこの世界で、弱いのは罪なのさ」
「…………なんだって?」
今……彼女は、何て言った……?
「……それは一体どういう意味ですか? 悪いのは実行した男でしょうが!? 被害に遭った人が悪い訳が……!」
「言っただろう? 弱い事が罪なのさ。弱ければ喰い者にされる……。そいつらは弱かったから手篭めにされたのさ。弱い事を自覚することなく、強かった奴の目に留まり……、搾取された。別に珍しい事でも何でもない。他の国に比べて些か治安が良いと言っても、油断して無防備だったからそんな事になるんだよ。それが嫌なら……、目につかぬようにしてれば良かったのさ」
「……表に出ないようにしておけば良かったと、貴女はそう言うのか? それは、少しでも見た目がいい人は人目に付かないように生きろ、と!? 何をふざけた事を……! それに、襲われた人の中にはまだ子供だった人もいるんだぞ!? 貴女はそれを……!」
「子供だから何だって言うのさ? 見逃せとでも? あのね、強い奴が正義なんだよ。転移者だか勇者候補だが知らないけど、そんな事もわからないのかい? アタイ達がどうして国の中枢にコネクションを求めたと思ってるんだい? 力のある貴族たちに取り入る為じゃないか。潰されないようにね……」
何を馬鹿な事を……と、そんな呆れたような顔で吐き捨てる。そして、会話を続け……、
「……ホントに上は人選を誤ったようだね。どう考えても近づくべきは結果も出しているトウヤだったろうに。こんな甘ちゃんにアタイらの運命を託す事になるなんてね。そもそも……」
「…………もう、いいですよ」
これ以上戯言を聞いていても仕方がない。僕は長くなりそうだった彼女の話を強引に切り上げさせた。
「どうせ貴女も意見を変えるつもりは無いのでしょう? それなら、こうしていても意味が無い。貴女の無意味な話を聞いている暇は僕にはないんですよ」
「はぁ? 今、何て言ったんだい? アタイの話が、無意味だって……!?」
「無意味ですね。無意味を通り越して有害だ。取引先であるニックの奥様だからと黙って聞いていましたが……、時間の無駄だったと後悔しております。一応僕の意見も言っておきますけど……、悪いのは100%あのトウヤですからね? あの屑が自分の欲望のままに好き勝手やってくれやがったのが悪いのであって、その被害に遭った方が悪いなどと言う世迷い事には1ミクロンも容認できない。全く、何を言ってんだか……」
「……言ってくれんじゃないか。アタイの言った事がわからないなんて、どこまでおめでたい頭してるんだか……。いいかい? さっきに話はアタイの体験……」
「はい、ストップ」
また話し始めようとしたところで切って捨てる。もう、この人と討論を続けるつもりはない。
「貴女が歩んできた人生や価値観を否定するつもりはないけど、理解するつもりもないよ。話は平行線になるだろうし、僕も自分の意見を変えるつもりもない。なら、もういいでしょう? あと、貴女方はトウヤではなく僕に話を持ってきた件ですが……、間違ってはいなかったと思いますよ? 今は圧倒的な力を振りかざしてますが……、長くは続けさせません。アイツに対抗する手段は既に得ていますし、絶対に叩き潰します。貴女の気にしている国の上層部も既に了承済みですから、安心して下さいね」
「……アンタなんかに倒せるとは思えないけどね」
「まあ、今の時点では僕だけでは無理ですけど……、それでも国の英雄と言われているグランやディアス隊長なら太刀打ちできるでしょう。被害を抑える為に自重して貰ってますが、さっきも言ったように対抗手段は持ってます。条件さえ揃えば、アイツを無力化も出来ます。……そうしてしまえば、貴女の言う弱き者の出来上がりという訳だ」
そうしたらあの屑には報いを受けて貰う。情け容赦なく確実に……。それが、アイツの被害に遭った人たちに出来る、僕の唯一の償いだから……。
「…………フン、随分大きくでたもんさね。仮にも勇者と呼ばれている者を叩き潰すなんてね」
「強い奴が正義なのでしょう? なら、僕如きにやられるような奴が勇者な訳ないではありませんか? あと、既に御存知だとは思いますけど、『招待召喚の儀』によって呼ばれたもう一人が僕なんですよ? アイツが勇者でなかったなら……おわかりですよね? まあ、少なくとも僕が『勇者』に覚醒する事はないでしょうが……」
「ッ! 確かにこれ以上アンタと話していても仕方ないね……っ! 行くよ、アイリンッ!」
「あっ! お、お待ち下さい、女将さんっ……!」
そう言って立ち上がると、彼女は踊り子の女性を伴って出て行った。怒気を隠そうともしない足音が遠くなっていったところで、
「……悪かったね、ニック。仮にも君の奥さんに……」
「いや、謝るんはワテの方や。すまんかったな……。それも、色んな意味で、謝らんといかん……」
「そうよね? どこまでが本心かは知らないけど……、彼女、『真贋の巻物』でコウを試しているようだったし。そこら辺は貴方の奥様……といったところかしら?」
真贋の巻物? それって確か相手の嘘を見破る道具だっけ? そういえばニックも僕らに対して使っていたような……?
するとニックはユイリの言葉に頷きながら、話を続ける。
「アイツかて『暗黒の儀礼』の幹部の一人や。ワテらが兄さんを介して国と契約を結ぶ事に同意しとる。勿論、兄さんではなくトウヤを介した方がいいのではという意見もあったんやが……、結果は知っての通りや。それは、今でも変わらん。遠征を成功させ、国中にも勇者と認知されとる今となってもな……」
「それなら……、彼女の言っていた事も本心ではなかったって事……?」
僕がどうしても納得できなかった、被害者が悪い云々という話も……? ニックに問い返すと彼は、
「……まあ、それについては半々やないかな。アイツ自身の体験からも来とるんや……、弱い事が罪、という事はな。少なくとも、アイリンを売るつもりは無かったと思うで? 認めたがらんと思うが、娘のように情も移っとる筈やし、自分を重ねとるところもあるやろうからのう……」
「隷属の首輪も付けていなかったしね。まぁ、その境遇を気にして情が移っても困るし気にしないようにしてたけど……」
「……色々あって引き取る事にしたんや。調教してからの方が高く売れるかもしれんと踏んでちゅうのもあったんやが……、まあその事についてはええ。そう言う事やから、アイツが言っとった事については堪忍してや」
「それを言うなら、僕の方こそ彼女を排除しちゃって申し訳なかったね……。僕も絶対に分かり合えないな、この人……と思っちゃったから……」
尤もそうは言っても、彼女が僕に対して思う事があるというのも事実だろうし、被害者であるジェシカちゃん達が悪かった等と宣った事については許容できる話でもない。それがもしも自分を試す為と言っても、虐められた方にも理由があるみたいな話をしてくる人間と交流したいとも思わない。
いくらその事に正当な理由があったとしても……、だ。この件については、本人から発言を撤回し謝罪する旨を聞かない限り変わらないだろう。そして、恐らくそれは起こらないだろうという事も……。
「話が脱線したのう……。ま、そのイーブルシュタイン行きの件に関しては、此方にも詳しい事は分かっておらんのは事実や。魔王なんかの情報についても、以前伝えた事以上の事はわからん。情報が入ったら、また何時もの方法で伝えるによって……。ただ、あのトウヤとやり合うつもりなら十分に気いつけや。力の差はわかっとるようやが、アイツは絶対に討伐は出来んと言われとった竜王や海の悪魔をほぼ一撃で沈黙させた奴や。話しに聞く歴代の勇者でもそこまで出来るかはわからん。兄さんが死んで、国がアイツに呑み込まれたらワテらも只ではすまん。対抗手段っちゅうのがどういうもんかは知らんが、一か八かみたいなギャンブルはせんといてや?」
「わかってるよ。これでも被害者の人たちからその想いを受け継いでる身だからね。仕損じるつもりはないから」
命にかえてもアイツに復讐しようとしたマイクさんやアルフィー、それにベアトリーチェさんやグランからも任せられている。特にグランは彼が勇者ではないと確信を持った際に、自分が事に当たると言っていたのだ。確かに彼なら倒せるかもしれないが……、それでも核の力まで持っているトウヤに対して万全であるとはいえない。
正直、僕がトウヤに対して条件を整えさえすれば、アイツがそれまでに得てきた力を『神々の調整取引』ごと回収する事が出来る。だから僕に任せて貰いたいと説得し、了承して貰ったのだが……。
(彼らの想いは痛い程わかる……。僕だって大切な人を……、シェリルが同じような事になったとしたら……)
もしも本当にそんな事が起こったら、自分も彼らと同じように刺し違える覚悟でアイツに復讐しようとするだろう。それこそ殺すつもりで。そもそも、あの屑が起こした事は魂の殺人とも云われている行為だ。それも己の快楽の為に……!
「……トウヤは恐らく僕と同じ世界からやって来た筈だ。その不始末は、僕がつけるべきだと思う。アイツの持つ『危険察知』の能力を突破するのが中々骨が折れるんだけど、そこは必ず何とかするよ。ニックが恐れているような事はならないように気を付けるから」
「頼むで、ホンマに……。ああ、あとハロルドダックから伝えて欲しいと頼まれたんやが、前に言っていた条件の奴隷、手配出来そうやって言っとったで?」
「……奴隷? 私、何も聞いてないけど……どういう事なの?」
その言葉に訝しんだ様子で説明を求めるユイリを躱しつつ、ニックに先を促すと、
「……メイルフィードのように滅亡した国の奴隷やな。元王族で、実力者の男……。種族は問わないって事やったな? どうやら訳アリで戦犯奴隷になったようやが、詳細見て貰えば兄さんも納得するんやないか? あの姫さんに宛がうんやったら、多分問題ないで?」
「コウッ!? 貴方、一体どういうつもりなの!? 姫に、宛がう!?」
「……どういうつもりも何も、聞いての通りだよ。先日、彼女の元婚約者の件で、シェリルに拒絶されてしまったからね……。それを補う為に、密かにニックに探して貰っていたんだけど……」
「そういう事を聞いてるんじゃないわ! 貴方、まだそんな事を……! 姫が了承する筈がないでしょう!?」
僕の返答に怒るユイリ。彼女の言っている事はわかる。わかるけど……。
「……確かにシェリルが納得する筈がないよね。それは、わかっているよ……。でも、必要な事なんだ」
「確かに姫にも専属に護衛を付けた方がいいとは思っているわよ。私だって、基本的には貴方の護衛だからね。だからと言って、彼女が貴方以外の男性を傍に付けるとでも思っているの!?」
……シェリルが元婚約者の生存を聞き、彼の下に行くべきだと遠回しに伝えた時、泣きながら激怒された事は記憶に新しい。元婚約者であっても、この反応なのだ。この件について話しても、恐らくは……。
「……思っていないよ。だから、彼女には内緒で、名目上は僕に付ける事とする。それでいて、契約上はシェリルを主とするんだ。彼女の警戒が解けるまでどれ位の時間が必要かはわからないし、アルフィーのようにある程度気を許す例もある。それに同じ奴隷という境遇になった者通し、心が通い合う事もあるかも……」
「そんな事、ある訳ないでしょう! 貴方もわかっている筈よ! 彼女がどれ程貴方を信じているかを……! アルフィーにしても、彼が姫に向ける感情以上にジェシカを想う気持ちをわかっているからこそ、貴方を慕う思いを知っているからこそ心を許されているのよっ! それがわからない貴方ではないでしょう!?」
「……勿論さ。でも、同時に伝えてもいる筈だよ。僕は……彼女と一緒になる事は許されない。間違っても、シェリルを元の世界に連れていく事は出来ないという事を……」
……以前にフローリアさんからもこの世界に留まる事を依願された事があるが、やっぱりそれは出来そうにない。じゃあシェリルを元の世界に連れて行けるか……という事だが、それも難しそうだ。
カジノでレンと話していた事を、ユイリにも伝えた。どうしてシェリルの想いに応えられないのかという話を……。
「……それは聞いたわよ。聞いたけど……!」
「僕は彼女に不幸になってほしくないんだ。シェリルが僕の世界で生きていけるとは思えない。彼女はあまり食べ物を食さない。体重だって信じられないくらい軽い。それが向こうの重力によってどのように作用するかはわからないが……、いずれにしてもシェリルには辛い事になる筈だ。それに、向こうの世界にはフールも無い以上、ここファーレルのようにもいかない。魔法も使えないし、エルフという事も足枷になる。僕だってあっちでは只の一般市民だ。彼女を守れるとも思えない……」
……そう、幸せに出来る気がしないのだ。愛する人を幸せに出来ない事がわかっているのに、どうして彼女と一緒になる事が出来る……? 例え……、例えシェリルがそれでも良いと望んだとしても……。
「ユイリはん、兄さんも考えがあっての事や。あれだけの極上の美女に好かれ、それでもこう言っとるのは並大抵の覚悟やない。姫さんを売り払ったワテらが言う事とちゃうかもしれんが……、彼女が未だに処女やいうんも信じられんくらいなんや。その辺の事は……姉さんにやってわかるやろ……?」
「っ……!」
「……ごめん。謝ってばかりだけど、こればっかりは僕も変えられないよ。彼女を大切に想うからこそ、より一層こうすべきだと思うからさ……」
こう思っている事は彼女には話せない。傷つくのもそうだし、彼女ならばそれを変える為の方策も考えつきそうだけど……、それでも無理をしようとするには変わらない。そうなるくらいなら……、自分が身を引いた方がいいんだ。例え独り善がりだと揶揄されたとしても……!
「話はこれくらいにしよう……。シェリルも詰所で待っているし、これ以上長くなれば心配するだろうからさ。どの道、シェリル専属の護衛は必要な筈でしょう? ハロルドダックさんには予定通り進めておいてと伝えてくれる?」
「……わかったで。本当にええんやな?」
「ああ、お願いするよ……。詳細は見ておくから」
「…………私は知らないわよ。どうなっても」
へそを曲げてしまったユイリに改めて謝りつつ、待っているシェリルと合流する為に僕たちは闇ギルド『暗黒の儀礼』を後にするのだった……。




