第12話:職業の選択
第12話、更新します。
「全く、やりすぎよ、コウ!聖女様、戸惑われていたじゃない!」
教会を出て、次に行く魔法屋に向かう途中、僕はユイリたちより先程の対応について、苦言を呈されていた。
「……悪かったよ、自分の変化がどうしても信じられなかったから、つい……」
「あの儀礼は、騎士が主従の誓いをする時のものだからね……。コウが知らなかったのなら、しょうがないよ、ユイリ……」
グランが上手く仲裁してくれているのだけど、なかなかユイリは納得してくれない。彼女にとっては僕が、王宮とは別に教会に忠誠を誓うように思ってしまったからかもしれないけれど、
そんなつもりはない。尤も、この世界から恩を受けた事には違いないから、僕のやる事はかわらないのだろうけど……。
それに、僕に苦言を呈するのは、ユイリだけじゃない……。
「……それにしては、随分と様になっていらっしゃいましたけど」
「シ、シェリル……」
……そう、何故かシェリルまで僕を責めるように問い掛けてくるんだ。
「何度も言っているけど……、今の僕のような痩せた体型になったり、視力が回復するっていうのは、僕の世界では考えられなかったんだ。痩せる事に関しては方法はあったけど、それにしたって一瞬でなんて無理だし……。あまりの嬉しさに、ついあんな形のお礼になっちゃったんだよ……」
「そうおっしゃるからには……、コウ様は知っていらっしゃったのではないですか?あの儀礼が特別なものであるという事を……」
そ、それは確かに……、普通の礼じゃなかった事は知っていたし、だからこそ感謝を込めての礼だったというのもあるけれども……。
「……シェリルは僕の事が信じられないかな……?」
「し、信じるとか信じられないのお話では……、もういいです」
ちょっと卑怯かもしれないけれど、僕はそう言うとシェリルはそれ以上は追及してこなかった。ただ、今まで彼女に感じた事のない冷たい態度を感じさせる。
(……彼女がそんな様子になる程の事だったのかな、あれって……)
何はともあれ、ユイリの方も何とか納得してくれたところで、
「ま、もういいだろ。そろそろ魔法屋につくぜ」
次の目的地である、魔法屋に到着したようだった。
「……相変わらず、凄い空間だ……」
昨日訪れた時と同様、不思議な空間に感嘆する僕に、
「まず最初に、コウの職業を設定するところから始めますか。まず『職業選択所』へ向かいましょう」
グランの言われるままに、昨日は開いていなかった魔法空間内の窓へと向かうと、
「職業選択所へようこそ。なりたい職業を選択して下さい」
淡々とした声が窓より流れてくると、次に自身の魔法空間のステイタス画面に、職種が表示されているようだった。
・見習い戦士:Lv:1
・見習い魔法使い:Lv:1
・学者:Lv:1
・薬士:Lv:1
・商人:Lv:1
・農民:Lv:1
・飛脚:Lv:1
・話術士:Lv:1
・トレジャーハンター:Lv:1
・ラッキーマン:Lv:1
……成程。これが現在、僕がなれる職業か……。『見習い戦士』や『見習い魔法使い』、『トレジャーハンター』は、戦う為の職業で……、他の『学者』とか『薬士』なんかは、職人職という事なのかな……?
『商人』や『農民』、『飛脚』はそのままの意味だろうし、『話術士』はなんだろう……?『ラッキーマン』に至っては意味がわからない。運のよさでも上がるのだろうか……、某漫画の主人公みたいに……?
そもそも運がよかったら、こんな異世界にまで来ていないだろうし……。
とりあえず、僕は傍にいたグランに聞いてみる事にする。
「この職業って……、一度その職になると、他の職業に変える事って出来るのかな?転職みたいに……」
「ええ、『職業選択所』に行けば自由に変更する事が出来ますよ。職業の中には、一度その職業に就けば、覚えられる能力があったりもしますから、なれる職業にはなってみる事をお薦めしますね」
僕の質問に対し、そう答えてくれるグラン。それならばもう一つ、
「僕のなれる職業の中にはちょっと不明なものもあったりするんだけど……、一度その職業に就いたら変えられなくなるものとかあったりしない?」
「『裏社会の職郡』なら、そういう職業もありますけれど……、例えば『盗賊』は犯罪者の烙印を押される為、罪業が消えるまでは他の職業に就く事はできませんし、『奴隷』にしても、その契約が解かれるまでは同じく別の職業に就くことは許されないとされています」
……そうなんだ。でも……、シェリルは『奴隷』に堕とされたんだよな……。
ふとシェリルの方を見てみると、彼女は別の『職業選択所』でユイリに付き添われながら職業を選択しているようだった。無事、奴隷契約が破棄されたという事だろう。
ただ、一度職業についても変更できるというのなら、就かない手はない。まずは、『見習い戦士』を選択して……、ステイタス画面を確認してみる。
JB:見習い戦士
JB Lv:1
HP:95
MP:19
状態:正常
耐性:病耐性(一部)、睡眠耐性、ストレス耐性
力 :61
敏捷性 :67
身の守り:55
賢さ :77
魔力 :24
運のよさ:18
魅力 :24
常時発動能力:自然体
選択型能力:生活魔法、戦闘の心得
……うん、基本職というか、バランス良く数値が伸びているみたいだ。新しく能力を覚えたせいか、能力の表示も選択できた為、試してみると『常時発動能力』と『選択型能力』に分けられるようで、『戦闘の心得』というのが新しい能力のようだった。
簡単に見てみると、マニュアルみたいな物のようで、後で時間がある時にでも見てみる事にする。
JB:見習い魔法使い
JB Lv:1
HP:83
MP:34
状態:正常
耐性:病耐性(一部)、睡眠耐性、ストレス耐性
力 :51
敏捷性 :62
身の守り:47
賢さ :92
魔力 :39
運のよさ:18
魅力 :24
常時発動能力:自然体
選択型能力:生活魔法、戦闘の心得、初級魔法入門
続いて『見習い魔法使い』。先程と同じく『初級魔法入門』というのは、魔法の使い方に関するマニュアルだ。魔法を使えそうな職業に就けば、何か魔法を覚えるかとも思ったけど、当てが外れる。
魔法系の職業だけあって、MPと魔力の数値に優れているようだけど、問題は自分が魔法を使えるセンスがあるかどうか、といったところだろう。
折角だし、他の職業も試してみるかという事で、それぞれの職業に就いた結果、『学問のすゝめ』、『薬学の基礎』、『商才』、『商人の証』、『農業白書』、『物品保管庫』、『滑舌の良さ』、『宝箱発見率UP』、『ダンジョン探索』。それに加えて、生活魔法の一種で、『通信魔法』、『収納魔法』を新たに習得する。
この中でも便利なのが、『物品保管庫』と生活魔法の『収納魔法』だろうか。それぞれ『飛脚』と『トレジャーハンター』になった際に習得したものだが、両方とも要は道具を別空間に収納できるものである。言ってしまえば「四〇元ポケット」か。但し『収納魔法』はそんなに数は入らないし、『物品保管庫』はどんな大きさの物でも数に制限なく保管できるメリットはあるが、取り出す際はその収納している空間に入り、自分で探して取り出す必要がある。
ただ、これで物を持ち運ぶという点で不自由はなくなったといえる。まぁ、この世界では普通の事なのかもしれないけれど……。
(さて……、後はこの職業、『ラッキーマン』か……)
なんていうか……、いわくつきの職業みたいなんだよな……。この職業になれば、間違いなく運の良さだけは上がる気はするけれど……。尤も、すぐに職業は変更できるから、取り合えず就いてはみるか……。
JB:ラッキーマン
JB Lv:1
HP:7
MP:7
状態:正常
耐性:病耐性(一部)、睡眠耐性、ストレス耐性
力 :7
敏捷性 :7
身の守り:7
賢さ :7
魔力 :7
運のよさ:777
魅力 :7
常時発動能力:自然体、薬学の基礎、商才、滑舌の良さ、宝箱発見率UP、約束された幸運
選択型能力:生活魔法、戦闘の心得、初級魔法入門、学問のすゝめ、農業白書、物品保管庫
資格系能力:商人の証、ダンジョン探索
生活魔法:確認魔法、通信魔法、収納魔法
……なにこれ?運の良さ以外、ゴミのようなステイタスなんだけど……!?というか、いくつかの数値、元よりも下がって「7」になってるんだけど!?
こんな状態で戦闘になったら一瞬で死ぬんじゃないか……?それとも、運の良さで何とかなるとでも……?「777」という驚異的な数値だし……。
ただ、新しく能力も覚えたようで、効果を確認してみると……、
『約束された幸運』……危機に陥った際、必ず活路を見出す事が出来る
……前言撤回、これは使えるんじゃないか?少なくとも、一方的に人生が終了してしまうといった悲劇を防ぐ能力かもしれない。……この能力が発動する前に一発で死んだりしなければ、だけど……。
「どうだ、コウ。一通りの職業には就いてみたか?」
だいたいの能力等を確認していると、レンがそう言って僕の肩を組んでくる。この気安さが、彼の魅力なんだろうと苦笑しながら、
「うん、一通りはね……。それぞれの職業で色々能力が増えたから、必死で覚えているところだね……」
「おっ、そんなに能力を覚えられる程の職業があったんだな。普通、2つか3つ、なれる職業があれば御の字なんだけどな……。コウは一体いくつの職業になれたんだ?」
へぇ、じゃあ僕は結構、多い方なのかな?
「えーと……、10通りの職業に就けたね」
「10っ!?」
僕の返答に驚いたような声をあげるレン。やっぱり、最初からこんなに職業に就ける人は珍しいのかな?
「……そんなに驚くっていう事は……、やっぱり凄い事なの?」
「ああ……、職業は適性や才能によって、選択できる数が決まってくるからな……。俺だって現在なれる職業は10もないぜ……?まぁ、上級職業もあるけどさ……。ま、それだけコウに才能があるって事だな!」
そうなんだ……。でも正直、なれた職業には少し納得していた。元の世界にいた時に、何かしらの経験を積んでいた事が、そのまま職業になっていたからだ。
『見習い戦士』や『見習い魔法使い』、『トレジャーハンター』は別として……、教職の勉強をしていた事や、引っ越し、配達、薬局でのバイトをしていた事、実家の職業柄、農業の事も少しはわかっているつもりだし、大学までは出ているから『学者』なんて職業も選択できたのだろう。……あ、『ラッキーマン』もよくわかっていなかったか……。
「レン、常に設定しておく職業はどうしたらいいかな?確かこの『職業選択所』に来ないとマスターしていない職業は変更できないんだよね?」
「そうだな……、お前がどんな職業になれるのかはわからないが……、取り合えず戦闘職になれるのなら、それに設定していた方がいいと思うぜ。コウはいたところでは、そんな事はなかったかもしれないけど、ここではいつどうなるかはわからないからな」
レンの言葉に僕は納得する。少なくとも、この世界に来て一度、命を狙われた事があるからだ。その事はこの世界にいる以上、受け入れなければならないし、であるならば戦闘用の職業……、『見習い戦士』か『見習い魔法使い』に就いた方がいいだろうな。
「……『転職魔法』を使えば、例えその職業を極めていらっしゃらなくとも何時でも変更できますわ」
その声に振り向くと僕の傍へとやってきたシェリルが話しかけてきたようで、どうやら彼女も無事、『奴隷』の職業を変更出来たのだろう。
「そんなのがあるんだ……。でも僕は使えないよ?」
新しく覚えた魔法から推察すると、その『転職魔法』とやらは恐らく生活魔法なんだろうけど……、残念ながら僕は覚えていない。
「わたくしが使用できますから……。ですので、何時でもコウ様の職業は変更できます」
「……何でも出来るんだね、凄いな、シェリルは……」
今まで見た中でも、彼女は鑑定という古代魔法や、神聖魔法、他にも魔法や技能を持っているみたいだし……。色々彼女には助けられているので尊敬の眼差しを向けると、
「べ、別にこのくらいは王宮で学んでおりましたから……。ですので、コウ様の好きな職業で過ごされて下さい」
そうか……だったら……、
「……魔法を使えるようになった場合だけど……、やっぱりMPの最大値を増やすには『魔術師』関連の職業がいいのかな?」
「そうね……、魔法を重視するのなら『戦士』系統の職業よりも『魔術師』系統の職業の方がいいと思うけど……。最大値を増やすという事なら普通の職業でも伸ばせると思うわ。『見習い戦士』にはなれたの?なれるのであれば、その職業が一番バランスがいいから私としてはお薦めだけど……」
ユイリのお薦めは『見習い戦士』か……。僕が今、一番伸ばさなくてはいけないのが「MP」だと思うし、それを伸ばせる方法が職業以外にあるのなら……。
「わかった……ユイリのお薦めのようだし……、『見習い戦士』にするよ」
そう言って僕は再び『見習い戦士』に職業を変更するのだった。
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