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もうひとりじゃない

「おや。ひとりで遊んでるのか?」

 エーヴェの島主は、日課の見回りで島を歩いていた。浜辺を回って差し掛かった森の中に、小さな女の子がいる。まだ三歳くらいだろうか、ひとりぼっちで、廃墟となっている神殿にしゃがんでいたのだ。

 迷子だといけない。島主はそっと歩み寄り、女の子の横に座った。

「おうちの人は?」

 尋ねる彼を、女の子は無表情で見上げる。しばらくは、口を開かなかった。

 が、いきなりきゅっと眉をつり上げる。

「入っちゃだめ! ここ、私が見つけた秘密基地なの!」

「おお!? そうだったのか、すまんすまん」

 島主は笑いながら立ち上がり、神殿を降りた。彼女の「秘密基地」から少し外れて、草むらに座り込む。

 女の子はおもちゃのシャベルを握って、満足げににんまりした。

「そうね、そこなら許す」

 表情豊かな女の子は、エーヴェの染物の青いワンピースを翻し、神殿の床を踊るように歩いた。

「ここ、お城みたいでしょ。私はここのお姫様なの。おじいちゃん、私の家来にしてあげてもいいよ」

「ははは。ぜひお仕えさせてもらおうかな?」

 島主が優しく微笑むと、女の子はまた、ニーッと笑顔を見せた。

「言ったね。私、本当に世界でいちばんのお姫様なんだからね」

 幼子のごっこ遊びだろう。島主は膝に頬杖をつき、彼女の笑顔を微笑ましく眺めていた。

「私はねえ、生まれ変わる前のこと、覚えてるんだ」

「ほう」

 島主は柔らかな相槌を打った。幼い子供というのは、ときどきこんな風に、空想めいた話をする。女の子は夢でも見ているみたいに、視線を揺らめかせて語っていた。

「強くて、頑張り屋で、だけどとっても寂しがり屋なお姫様だったの」

「ほう」

「でもね、この記憶、だんだん薄れてきているの。このままいつか、完全に忘れちゃうと思う。だけど、それでももういいかなって。今から幸せになれば、もう覚えてる必要がないかなって」

 淡い茶色の髪がふわりと風を孕む。鳶色の瞳は、長い睫毛に埋もれるように細められた。

「あっ、そうだ。私がここで遊んでるのは、パパにもママにも秘密よ。私の秘密基地なんだからね」

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