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交わる信念

 乾いた大地に立って、恒星を見つめる男がいる。背中には褐色の片翼が半開きになって、隙っ歯に割れた風切り羽根が露出していた。

「山奥の乾燥した谷に、金の瞳の手負いの青年。絵になるじゃない」

 突然話しかけられて、恒星を見ていた鳥族の男は不快そうに振り向いた。

「誰だ貴様」

「申し遅れました。私はシルヴィア。旅絵描きよ」

 そうこたえるのは、黒い髪に青い染物を巻いた女。腕にはスケッチブックを抱え、背中には大量の荷物を背負っていた。

「あなたがそこに立ってる姿、とても様になってる。絵に描かせてくれないかしら?」

「断る」

 鳥族の男に一蹴され、シルヴィアは不服そうにむくれた。

「まあいいわ。あなた、お名前は?」

「不躾な者に名乗る名などない」

「頑固ね。会話しづらいじゃない」

 シルヴィアは構えかけていたイーゼルをしぶしぶ折り畳んだ。鳥族の男は、鋭い眼光で彼女を一瞥する。

「絵描きがこんなところまでなんの用だ」

「だから、旅絵描きだって。もう三年もこうして、美しい景色を探して旅をしてるの」

 シルヴィアは髪を掻き上げると、鳥族の男の向こうにある柵へと駆け寄った。

「へえ、マモノの牧場ね。あら、珍しい! 本物のモコモコメルは初めて見たわ」

 この牧場は一度は壊滅したが、他の牧場とも力を合わせ、残ったマモノから新しいマモノを殖やして復興中なのである。

「それでも描いていたらどうだ」

 彼女の歓声を、鳥族の男が冷たくあしらう。シルヴィアは牧場のマモノをじっくり見つつ、うーんと長めに唸る。

「この子もかわいいんだけどねえ。私の中にビビッときたのは、あなたのその片っぽだけの翼と、恒星を見つめる真剣な瞳だったのよ」

 シルヴィアは柵に腕を乗せ、聞かれてもいないのに話し出した。

「私ね。三年前までは、旅絵描きとして修行をしたら、都市に戻って絵を描いて暮らそうと思っていたの。有名になって個展を開いて、裕福な人に絵を買ってもらってね」

 メエエ、とモコモコメルが鳴く。

「だけど私、自分がどんな絵を描いて、どんな人にどんな気持ちになってほしいか、なにを伝えていきたいかって考えたとき、変わったの。こうやって旅をして、美しい世界を探して、絵に描いて。そしてその景色を知らない人に、私が描いた絵を売る。美しい景色を欠片だけでも、お裾分けできるように」

「合理性が感じられんな。都市にいた方が楽だし、個展の方が儲けがいい」

 鳥族の男は、またも冷ややかに返した。

「だが嫌いじゃない。そういう生き方は」

「あら、認めてくれたの? 絵を描かせてくれる?」

「それとこれとは話が別だ」

 鳥族の男は残っている右側の翼で、シルヴィアの頭をぺしっと弾いた。

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