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美しい人

 涼しい風の通り道になっている、明るい森がある。小さなマモノが木々の中で生活を営む傍で、獣族と精霊族がテリトリーを共有する村があった。

 倒木に腰掛けた獣族の女が、眠たそうに目を閉じている。

「ねえクラウス。そろそろ狩りのパートナーを変えた方がいいんじゃない?」

 小麦肌の獣族は、中年から初老に差し掛かっている。

「見て分かると思うけど、私はもう歳をとって、動きが鈍くなってるの。俊敏に動けない獣族なんて、パートナーにしておいてもメリットないよ」

「そうですね、サラ。君は以前に比べ随分とキレが悪くなりました」

 彼女の隣に座る精霊族の青年は、三年前と変わらない美しい容姿のままだった。

「でもですね。見て分からないと思うけど、僕もかなり歳老いているんですよ」

 サラの言葉を真似て、クラウスが不敵に笑う。サラはぎょっと目を剥いた。

「は!? あんたその見た目で、歳とってるの?」

「僕ら精霊族は美しさが価値ですからね。容姿は魔導で調節しているだけで、おじいちゃんです」

「言われてみれば、あんたは私が生まれた頃から既に三百歳を超えてたもんね。それを誤魔化してそんなにきれいでいられちゃうんだから、魔導ってすごいな」

 驚きながらも納得するサラに、クラウスは愛おしそうに目を細めた。

「ええ。ですが、サラといて気づきました。相応に歳を重ね老いていくことは、とても美しいことだったのだと」

「はあ? なに言ってんの。老いたっていいことないよ、足遅くなるし、忘れっぽくなるし」

 サラが素っ頓狂な声を出す。クラウスは、ははっと乾いた笑い声を上げた。

「元から思考力の低い獣族には分からない感性かもしれませんね」

「ほおん……そっか。じゃない、お前失礼なこと言ったろ!」

 一旦受け止めてから怒りはじめたサラを、クラウスは重ねてからかう。

「それと、サラが忘れっぽいのは老いたからじゃなくて、若い頃からです」

「あんたねえ! 精霊族って、皮肉屋で意地悪だよね!」

「獣族が直球すぎるだけです」

 ふたりの笑い声は、森の静かな涼風に運ばれていつまでも続くようだった。

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