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漆黒の竜と蒼銀の女神

 桜色の空に、薄い雲が流れている。

 アウレリア城のバルコニーでは、夜空色のドレスが風を浴びていた。山脈から流れる涼やかな風が通り抜けるたび、彼女のドレスの裾が舞い上がり、誂えられた鉱石の粉飾りがきらきらと煌めいた。透き通る黒いベールに包まれた青磁色の髪が、憂いげな赤い瞳に重なる。

 祈るように遠くを見つめる彼女の耳に、オオオ、と空を切る音が届いた。

 やがてバルコニーの真正面に、黒い影が下りてくる。漆黒の翼を上下させ、その羽ばたきが風を吹き起こす。ドレスがぶわっと膨らんで、彼女はニッと不敵に笑った。

「待っておったぞ、ポピ殿!」

 そして彼女は、バルコニーの柵に足をかけたと思うと、あっという間に黒い翼の間に飛び込んだ。黒い毛並みがきらきら光る。満月のような瞳の黒い竜は、クオオと高らかに吠えた。

 ドレスは膝までたくしあげ、黒いベールは脱ぎ捨てられた。きれいに整えられた青磁の髪は、爆風でくしゃくしゃに乱される。

 彼女の使用人が気づいたようだ。バルコニーから悲鳴に近い声がする。

「あっ、また脱走した! こら、イリス様ー!」

 窮屈な王宮暮らしはしょうに合わない。イリスはポピの背中に乗ってアウレリアの空を飛び、民衆で賑わう市場へと降り立った。

「イリス様だ!」

「イリス様ー!」

 現れた彼女を見て、遊んでいた子供たちが駆け寄ってくる。

「うむ。遊びに来てやったぞ!」

 イリスはしたり顔で胸を反らせた。王宮暮らしは窮屈だが、ちやほやされるのは満更でもない。

「イリス様、お話聞かせて!」

 幼い少年に催促されて、イリスは万を辞して切り出した。

「そうじゃの、では今日はとっておきの冒険譚を聞かせてやろう」

 子供たちの目が輝く。イリスも気分がいい。

「これは世界を滅亡の危機から救った、英雄の物語じゃ。白い羽根で邪悪な念を切り裂く、異邦の英雄……」

 そこまで言ってから、彼女は苦笑で切り替えた。

「なんての。これはなんてことない、臆病で弱虫な、迷子の少年の物語じゃ」

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