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砂の山
真夏の陽射しの中に、あの子はいた。
公園の砂場だ。彼女はひとりぼっちで、砂の山を作っていた。
「……なに?」
君は、僕の方を振り向いた。
どきりとする。
汚れた服に、くしゃくしゃの黒いおかっぱ頭。顔には目立つ大きな痣。
骸骨みたいな体つきで、目も、見たことはないけれど死体みたいだった。
「なにか、用?」
甘くてかわいらしい声なのに、抑揚がない。感情もない。正気すらない。
黒い髪が、さら、と風を孕む。
なんの音もしない。蝉が鳴いていたはずだし、公園には他の子供もいた。でも、僕にはなんの音も届いてこなかった。
ただそのあどけない目が、僕の記憶に死ぬほど強く焼き付いたのだ。