3、使徒の劣等者
「それでは皆様には魔法を使っていただきたいのです」
ゼルは唐突にそう言った。さも当然であるかのように。
「…すみません。魔法なんて俺たち使えないのですが…」
しかし当然地球にそんな科学無視の力などありはしない。そのため真がその頼みに断りを入れる。
ゼルはその言葉に驚愕を隠しきれなかった。
「…何ですと? …ではそちらの世界には戦う力が無かったのですか?」
「あ、いや…あちらの世界では科学という力がありまして」
「カガク? では、その力を見せていただきたくーー」
「それが、銃とかそんなものありませんので…」
「ジュー? よくは分かりませんが、皆様の体からは魔力が漂っておりますよ?」
「へ?」
「マコト様は使徒様方の中でも特に魔力量が多いですな。よく目を凝らせば魔力が見えるはずです」
真はその言葉を聞き、目を細めて己の手を見つめる。そして数秒、真は何かに気がついたかのように眉を寄せる。
しばらくの間、呆けたように己の手を見つめ続け、感心したように声を上げた。
「これが…魔力!?」
「おお、本当に最初から見えてしまうとは…流石は使徒様ですな。しかもまだ魔法の訓練すらしていないのにその魔力量…人類の希望にもなり得るわけですな」
「普通は見えないものなのですか?」
「世界に変化をもたらす魔法はともかく、その源となる魔力は訓練をせねば見えぬものなのです。それが最初から見えるというのですから見事なまでの才覚にてございます」
ゼルのその言葉を聞いて、ほとんどのクラスメイトが己の手をじっくりと凝視する。
白幻も同様に目をすぼめて、手に変化があるのか感じ取ろうとする。しかしどれだけ時間をかけても白幻はその魔力を見ることが出来ない。
やはり真が特別なのか、と嘆息しかけたその時。
「おお! この湯気ぽいのか!!」
「ホントだ〜。手の周りに確かにあるね〜」
「おぉー。ビックリしたぁー」
続々と白幻の元に聞こえる成功の声。驚愕と同時に確かな歓喜もそこには含まれており、子供らしい笑顔で笑っていた。
そんな彼らを周囲の人間は拍手で迎える。
白幻はその声に焦りを覚え、もう一度見つめ直す。
しかし…白幻の目に未知のものが映ることはなかった。
落胆に肩を落とす白幻。同時に劣等感が彼の心を支配する。
それに真は気がついたのだろう。だが、敢えて無視してくれた。長年の仲ゆえに黙っていてくれた。
しかし周りの人間は違う。
「あれ? 白幻くん、どうしたの?」
「っ……」
それは真の近くにいつもいる女子の声だった。思わず肩を震わせる白幻。
同時に思う。出来れば気がつかないでくれ、と。
しかしそのような願いは簡単に砕けた。
「つーか、夕凪魔力量少なくね?」
「あるにはあるけど俺らに比べると、なぁ…」
「うっわ、マジじゃん。アイツどうなんの?」
容赦の無い言葉の数々。
音量の大小にも違いがあり、口に出してしまっただけの人と敢えて口に出した人、そして軽い同情心で憐れむ人。
悪意の有無関係なく、それらの言葉は白幻の胸を抉り抜いた。
そんな白幻の元にゼルは近づいた。
彼はまるで値踏みするような目で白幻と見つめ合う。それが見透かされているようで、情けなくて、白幻は目を横へずらした。
そんな白幻を他所にゼルは言った。
「貴方は…魔力が見えないのですか?」
「…っ! …はい」
「そう、なのか…」
ふと白幻は恐れながらもゼルの瞳を見た。
前に立つゼルの顔を少しずつ、少しずつ視界に入れていく。
そしてゼルが瞳に宿していたのは、失望に近いものだった。
「ーーーーっ!!!」
この時、心の中で白幻は憤った。不条理だ、と。無責任だ、と。勝手に呼び出しておいてなんだ、と。
手のひらを痛いほどに握り、下唇から血を垂らす。
周りの声が煩い。
今は親友の視線すらも針のむしろのようだ。
ゼルはそんな中、口を開いた。
それは白幻にとってまるでトドメの一撃のようなものだった。
「たとえ戦えずとも呼び出した責任がある。…こちらの使徒様にも同様の待遇を行え」
こうして白幻を含むクラスメイト39名の異世界生活が幕を開けた。
ーーそしてこの日から、夕凪 白幻は【劣等者】の烙印を押されることとなった。
遅れましたね…
言い訳ですが聞いてください。
実は最初は宝玉で魔力を見て、それで主人公が劣等者!…といった展開をやろうと思ってたんです。
ですがなんていうか〜、宝玉は何となく嫌だったので魔力の視認に変更です。
地味ではあるけど戦いでは重要そうですし!
あ、ちなみに白幻以外は全員出来ます。
頑張れ白幻!