第1話 ついに私がメインヒロインになれたわ!
「ここは……?」
ある少女は目覚めると、雪が積もる寒空に立っていました。何故そこに立っているのか、少女本人でさえその理由を知りません。
きょろきょろ……っと、少女は周囲を見回し自分がどこにいるのか確かめようとしていますが、
「えっ? えっ? ほんとここどこなのよ!?」
どうやら、若くして若年痴呆症を患っているのか、何故自分がそこにいるのかすら理解できていないようでした。
「私は……私の名前は……町子。苗字は……ダメだわ。頭に……記憶にモヤがかかっているように、何故かそこだけまったく思い出せないわ」
どうやら自分の名前だけ覚えているようです。ですが、そのほかの事は何も覚えていな……
「そうよ! 私は確か新刊のBL本に夢中になって……確かトラックに撥ねられて死んだんだったわ。それならここは……もしかして私が憧れてた異世界なのね? 私はあの事故で死んで『異世界転生』したんだわ! そうよ! きっとそうに違いないわ!!」
……ちっ。……あっいえいえ、どうやら自分が置かれている状況を思い出したようです。
「そっかぁ~。私死んじゃったのかぁ~」
町子と名乗る少女は、いきなりの死を受け入れら……、
「まぁいっか♪ 私が憧れてた『異世界』に来れたんだもの!! ついに私もモブキャラからメインヒロインになれるのね!」
……ちっちっ。……どうやら町子は自分が死んだことにあまり悲観的では無い様子です。いいえ、むしろ喜び小躍りしています。
「ランランラ~ン♪ ランランラ~ン♪」
……コイツマジで踊ってやがるよ。頭大丈夫なのかよ? 馬鹿は死んでも治らないって言うけどさぁ~……おっとと。
町子はまるでたくさんの黄金色の触手溢れる野原で、スキップをするようにその場で踊り狂い回っています。
……マジやべぇよコイツ。こんなのメインにして大丈夫なのかよ?
「……っとと。そうだわ! 私は何の世界に迷い込んだのかしら? それによっては、今後の方針を変えなきゃいけないわ!」
どうやら町子は小娘の分際で、生意気にも異世界の摂理に乗っかろうっと言う魂胆があるようでした。
「……って何よこの格好は!? こ、これってもしかして……マッチ売りの少女じゃないの!?」
町子はどうやら自分の格好から元ネタを理解したようでした。
「なによも~うっ!! せっかく異世界に来れたって言うのに、寄りにも寄って『マッチ売りの少女』だなんて!! そ、そんな……念願のメインヒロインに昇格したっていうのに、まさかバッドエンドの本場『マッチ売りの少女』なんて世界を宛がわれるなんて、一体どうすればいいのよ!! ちょっと責任者! この物語を書いている責任者を出しなさいよ!!」
……何やら町子は騒いでおりますが、無視することにしましょうね♪ 読者のみなさんも決して相手にして目を合わせてはいけませんよ! アレの仲間だと思われてしまいますのでね。
「どうせ困ってる私を見て楽しんでるんでしょ! 早くこの設定を決めたとかいう責任者と作者を出しなさい!!」
……ちっ、マジうるせえメス豚だなコイツ。とりあえず……、
「あの~もしもし。私は医者なのだが……キミ大丈夫なのかね? 私が診てあげようか?」
……っと責任者を所望されたので、代わりに通りすがりにいた先に医者を出すことにしました。
「あっ!? 医者なんか私は呼んでないわよ! どうせ触診とか言って私の胸を触りたいだけでしょうがっ!! 私の胸はそんなに安くはないのよ! 分かったならさっさと帰りなさいなよっ!! しっしっ!」
町子は『まな板オブ・ザ・イヤー2017』に見事輝いた自慢のAAAのお胸を両腕で隠すと、せっかく先に出した医者を野良犬を追い払うように帰してしまいました。
まぁその胸の大きさでは安くはないどころか、お金を貰っても見てもらえないでしょうがね。
それならば……っと、今度はテクニシャンのお姉さんを町子の元へと送り込むことにしました。
「はぁ~い♪ そこのかわいいお嬢さん♪ もしよかったら、私とイケナイことしましょうよ♪ 私この見かけのとおりテクニシャンなんだから、アナタの知らない世界を体験させてあげるわよ♪」
「何よイケナイことって? 私はどちらかと言うとイキたい派なのよ! 昨夜も葵君と雪君との掛け算で何回も……」
……どうやら、テクニシャンのお姉さんでも誤魔化すことができなかったようですね。テクニシャンのお姉さんが帰ったにも関わらず、町子のBL談議は続いていました。
「……ということなのよ。分かったの!? ……ってアレ? アレレ? さっきのお姉さんは???」
どうやら町子はBLの話に夢中になるあまり、お姉さんが数十分も前に居なくなった事に今頃になって気づいたようです。
「まったく何のよこの世界の住人は! 人の話もロクに聞かないなんて、ほんっと失礼しちゃうわ!」
……まぁロクでもない話なので、仕方ありませんよね?
「……にしても、せっかく死んで異世界に転生したって言うのに『マッチ売りの少女』なのかぁ~。こんな役割宛がわれてどうしろって言うのよ? このカゴに入ってる大量のマッチで、そこらの家でも放火して暖まれっとでも言うわけ?」
どうやら町子は宛がわれた自分の役割にご不満の様子です。
「放火を……待ってよ。……もしかして、そこいらの家に火災保険を掛けから放火をすれば、お金持ちになれるんじゃないの? そうよ! きっとそうなのよね!」
何やら町子は物騒な考えを妄想していますが、みなさんは決して真似をしてはいけませんよ!
月払いの掛け捨て火災保険に加入しつつ、第2話へつづく




