表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

美少女でニートな沙耶香の日常


「なんて言うのかしらね・・・・・・。まいったわ、いくらかまいってしまったわ」

 いくら貯金通帳を眺めてみても、そこに記載されている数字は変わりはしてくれない。

 なんて言えばいいのかしらこの金額・・・・・・。

 キャッシュディスペンサーではおろすことが出来ないこの金額。

 そう、私の貯金の残高は千円を切っていた。

 何故そんなにお金がないのかって?


「だって私ってば、ニートで美少女な19歳なんですものっ。てへっ」

 

 PCのディスプレイの前で可愛く決める自分がわれながらキモイくて悲しさを誘った。

 しょうがないじゃないのよ。

 だって働きたくなんてないんですもの!

 おかしいのよ、全てがおかしいのよ。

 私の計算で行けば、この美貌の力でお金なんて気にしないでウハウハかつデヘデヘな甘い生活がおくれているはずなのに。

 なのに、なのに、何なのこのていたらくは!

 そう全てはあのイケメンかつ金持ちだった彼氏を、ついつい勢いで振ってしまったのが間違いだったのよ・・・・・・・。

「だって、あの時はすぐにそいつ以上のイケメンかつ金持ちを捕まえられると思ったんだもの。なのに、なのにぃー!」

 そうなのだ、一度目が肥えてしまうと、もう下の存在に目が行くわけなんてない。

 前の彼氏よりも更に上を、もっと上を求めるようになってしまう。

 なんて言うのかしら、ぜ、贅沢?

 そんな感じで私は金ずる――もとい愛を失ってしまった。

 気がつけば、元彼氏からもらったブランド品をヤフオクで売りさばく生活がスタートした。

 それが悪かったのか・・・・・・・。

 いつのまにやらPCにはまってしまい。

「うわっ、ネットサーフィンたのしい〜」

 ネットで掲示板を巡ってるうちに日が暮れていたり。

「うわっ、このネットショップ凄いかわいい服売ってる〜。買わなきゃっ」

 気がつくとポチッポチッとショッピングカートに品物を入れていたり。

 そして誕生したのが、美少女ニート19歳『星野沙耶香ほしのさやか』って訳。

 

「いけないわ! こんな事じゃいけないわ!」

 私はPCデスクの前から勢いよく立ち上がると、力強く握りこぶしを天高く掲げた。

「でも、でもっ。働くのだけはイヤ! 絶対にイヤッ!」

 行き場を無くしこぶしはへにゃへにゃと地に落ちる。

 どうするの、考えるのよ私。

 私ならできるわ。だって私かわいいもの。

 かわいいは正義なの、かわいいは素敵なの、かわいいは宇宙の法則なのよ!

「でも、男に媚びるのだけはイヤ! 絶対にイヤッ!」

 そうなのよね、私は男にヘラヘラして甘えた声でおねだりとかするのが大嫌い。

 なんなのあのプライドを売ってお金を得てますって態度。

 私は私の思うがままに行動して、それでいてお金をもらいたいのよ! 愛されたいのよ!

 そういうことが世間一般的に『ワガママ』と呼ばれているという事を知りはしなかった。

 ええ、知ったとしても勿論しらんぷりよ!

「わたしそんなことわかんないもぉ〜ん」

 ふふふ、それでOKなの。

 なにその『いまのは媚びた台詞じゃないの?』みたいな顔は!

 いいのよ、私がOkって言えば、なんでもOKなのよ。

 今の総理大臣だって、私のOKがあってこそ成り立ってるといってもおかしくないのよ!

 ふぅ、そんな訳でとにもかくにもOKなの。

 とにかく、PCの前で独り言を言っていてもどうにもならないわ。

 むしろ、どうにも悪い方向に行く臭いがプンプンするわ。

 

 私はその嫌な臭いを断ち切る事に決めたの。

 そう、私頑張ってお外に行くわ!

 沙耶香がんばるわ!

 正義のため、もとい今日を生きるお金のために戦うわ!

 さてと、お外に行くんだから、急にスイートな出会いがあってもいいようにかわいい服をチョイスしないと、小物も、髪型も、お化粧も、ふふふ、なんだか燃えて来たわ!

 

 びっくりだわ。

 なにがびっくりって、朝10時お外に出かける予定だったのに、鏡の前で一人ファッションショーをしているうちにすでに13時をまわってしまっているという事実がよ。

 更に驚くべき事は、なんとかお化粧も完成して、服も髪型もバッチリってなったはずなのに、お金もないのに服に似合う指輪をオークションで競り落とそうとしてしまっていることよ・・・・・・・。

 私ってば、なんて恐ろしい子なの。

 ポチッと落札ボタンを押しそうになる手を泣く泣くマウスから離すと、私は部屋を飛び出した。

 きっとお外は甘い出会いに溢れているに決まっているわ。

 

 だって私はこんなにかわいいんですものっ。

 軽くターンなんか決めたりして私はさっそうと街へと飛び出した。



 おかしい、確実におかしいわ。

 街を歩いて約1時間が経つというのに、私にはなんらスイートな出会いが訪れてないの。

 ブサイクな男が数人ナンパしてきたりはしてきたけれど、私は相手の顔を一瞥して一言言っ てあげたわ。

「あなた達はかわいそうな人なのよね。家に鏡って言うピカピカ光る平べったいものがないんでしょ? あ、反対に幸せなのかしら? よかったね、鏡がないお陰で、自分の醜さに気がつかなくてっ、ふふふ」

 ブサイクナンパ衆があっけにとられた様な顔をしている間に、私はその場からテクテクと去っていったわ。

 頑張ってお外に出れば、素敵な出会いがダース単位で待っていると思っていたのにとんだ計算違いだわ。

「はぁ・・・・・・」

 私はため息を一つついた。

 ぐぅ〜

 ため息に合わせるようにお腹がかわいく鳴いた。

 お腹はすいたけれど、お金はない。

 妥協してナンパされてご飯だけでもご馳走になっていればよかったかな。

 だめ、だめよ!

 ダメダメのダメダメダーメよ!

『妥協は禁物!』

 でもそんな私の決意とはお構い無しに、私のお腹はかわいく鳴き続ける。

 ぐぅ〜 くぅ〜 きゅ〜

 もう、静かにしなさいよ!

 泣きたいのは私のほうなんだからね!

 気がつくと私はふらふら〜と自動販売機のお釣りの取り出し口に指を突っ込んでいた。

 な、何をしてるの私ったら!

 そんなところに指を突っ込むなんてはしたない!

 指を突っ込んでこねくり回すなんて!

 

 コホン。

 それはさておき、お釣りの忘れ物なんてありはしなかった。

「どこかにかわいい女の子は食べ放題で無料ってレストランないかしら・・・・・・」

 辺りを見回してみても、ごく当たり前のようにそんなお店は存在しなかった。

 そんなとき、商店街の露店で売っているタコ焼きの匂いが・・・・・・。

「じゅるりっ。おいしそう。食べたい。とても食べたいわ。歯に青海苔がついてしまおうとお構いなしに食べてしまいたいわ」

 その露店の看板には10個入りタコ焼き300円の文字が燦々と輝いていた。

 300円・・・・・・。

 私の財布の中にあるお金は350円。

 帰りの電車賃が180円。

 350―180=170円。

 足りない、絶望的なまでに足りない。

 130円が足りないのよお。

 私はタコ焼き屋の前でがっくりと膝を落とした。

 膝を落とした時に、地面にお金が落ちていないかのチェックをする事はおこたりはしなかった。

 でも、落ちてなかった・・・・・・。

『もうイヤっ、こんな世界滅んじゃえー』

 その時だ。

 私の願いが天に通じたのか、はたまた神様の気まぐれか?

 お空からとんでもないものが降ってきた。


「うわああ」

「ばけものだあ」

「宇宙怪獣だぁ!」

 逃げ惑う人たち、泣き叫ぶ子供たち。

 そう、いきなりお空から巨大な宇宙怪獣が降ってきたのよ。

 そして唐突に街を破壊しだしたの。

 まぁそうよね、宇宙怪獣と来れば、どんな理由か知らないけれどビルとか街を壊すものと相場が決まっているもんね。

 この宇宙怪獣もそのルールに従ってなんだかなんなんだかで街を壊してまわっている。

 逃げ惑う人たちの波に取り残されるように、私は地べたに座ったままポカーンと口あけていたわ。

 だってだって、お腹がすいて動けないんだものっ。

 でも、私は見てしまったの、見てしまったのよ。

 露店から逃げ出すタコ焼き屋のおじさんを!

 そして無人となったタコ焼き屋を!

 良い匂いをかもち出したまま放置されたタコ焼き達を!

「チャーンス!」

 私は走った、そういとしのタコ焼き様の下へ。

 ああ、会いたかった、そしてお口の中に放り込みたかった。

 私はアツアツのタコ焼きを口いっぱいの頬張った。

 これが幸せって言うんだと思う、きっとそうだ。

 ドシーン ドシーン

 地響きを揺らすような音が鳴り響いていたけれど、私の耳には入らない。

 もうタコ焼き様以外のことなんて、私、私考えられないのっ!

 これはもう恋よね、恋でいいわよね。

 ひとつ、ふたつとたこ焼きを胃に流し込んでいく。

 ああ、満たされるわぁ、生きてるって感じだわぁ。

 ズシーン ズシーン

 ビルの瓦礫やら砂埃を立て怪獣は通り過ぎる。

「ちょっと、私がタコ焼き食べてるんだから砂埃とか立てないでよね!」

 ほんと宇宙怪獣って奴はマナーがなってないわよね。

 でもまぁ、こうしてタダでタコ焼きがお腹イッパイ食べられるのも宇宙怪獣さまさまなわけだし、感謝しなきゃいけないのかしら。

「はっ!」

 ここで私は凄い事を思い付いてしまっちゃったのよ。

 これよ、このタコ焼き屋と同じ方法を使えば・・・・・・・。

 うふふふ、もうやるしかないわ。

 沙耶香走るのよ、私の求める場所へと!

 


 宇宙怪獣のおかげで街はゴーストタウンと化していた。

 だから、だからなのよっ。

 この超高級ブランド店も中に誰も居ないって訳なのよっ。

 私は無人の店内を物色しては、気に入った服をドンドン手にとっていった。

「これもいいわね、うん、これも素敵。これなん凄くかわいい!」

 実際買ったりしたら合計金額はウン百万円いくんじゃないかってくらいの服を手に取ると、これまた買ったら数十万円はするんだろうってバッグに無理やり詰め込んだ。

 そうだわ、このワンピースはこのまま着ていっちゃお。

 一番気に入った春にピッタリの黄色のワンピースに試着室で着替えると、私は鏡の前で優雅にターン、そして決めポーズ。

「うん、私のかわいさアップ!」

 でもでも、そこで気がついてしまったのよ。

 恐ろしい事に気がついてしまったの。

 こ、このお店・・・・・・・監視カメラで録画されてるじゃないのよー!

 なんて事なの、これじゃ無人のお店で服をいただいたところで、後で監視カメラをチェックされて捕まっちゃうじゃない。

 逮捕されて死刑じゃないのよ。

 だめ、そんなのだめっ。

 でも、せっかく手に入れた服を返すなんて事はもっとダメ!

 一度手に入れたものは私のものなの、返すなんてありえないの。

 もうそれが宇宙の真理なのよ!

 失望にくれる私をよそに、そんな事お構い無しにズシンズシンと能天気に街を破壊しまくる宇宙怪獣。

「もうむかつくわね。あんたなんてノータリンな頭で街を壊すくらいしか能がないんでしょ!」

 街を壊すだけ・・・・・・・。

 はっ! そうだわ、これだわ。

 これなら私は完全犯罪をやってのけられる!


 そうよ、あの宇宙怪獣がこの店をぶっ壊してくれればいいのよ。


 そうすれば監視カメラの記録なんて店ごと消えちゃうんだからっ。

 そんな事を思っている間に、宇宙怪獣はこの店を素通りで進んでいってしまう。

 私の完全犯罪計画はアッという間に水の泡に・・・・・・・。

ってそんな事にさせてたまるもんですかっ!

 私は猛然と宇宙怪獣に向かって猛ダッシュ。

 そして宇宙怪獣の前へと回り込んだ

「ちょっとあんた! 待ちなさいよ! どこに行く気なのよ!」

 私の声が聞こえたのか、宇宙怪獣は足を止めた。

 そして『えっ、あんたって俺のこと?』みたいな感じで小首をかしげた。

「そうよあんたよ! このでっかい身体にちっちゃい脳みその低脳宇宙怪獣のあんたよ! バカの宇宙ランキングナンバー1のあんたよ!」

 宇宙怪獣のこめかみがピクッと音を立てて震えた。

「あんたなによ! 街を破壊することしか出来ないくせになんなのよ! いま目の前のブランド店を無視したでしょ! ありえない! まじありえない! 何で壊さないの! 壊して何ぼなんでしょあんた! それしかとり得ないんでしょ? それなのになんなのよ、馬鹿なの? まぬけなの? クルクルパーなの?」

 宇宙怪獣は何かを言い返したそうだったけれど、そんなの言い返す暇なんて与える訳ない。

「この短足でブサイクで腋臭のチンチクリン! お前のかーちゃんでーべそっ。お前の父ちゃん無職でDV! きっと今まで女宇宙怪獣にモテた事なんかないんでしょ。ふっ、もうかわいそうを通り越して哀れよね。ププッ」

 宇宙怪獣は大きく嘶いた。

 そうよ、怒るのよ!

 そして街を破壊してまわるのよ、特にさっきのブランド店を重点的に!

 これで私の完全犯罪は完成するの。

 そう確信した時だった。

「ボク、おうち帰る・・・・・・・」

 宇宙怪獣はそうつぶやいた。

 そして大粒の涙をポロポロとこぼしだしちゃったのよ。

「えっ、ちょっと・・・・・・あんた、待ってよ」

「ボク、おうち帰るもん。うわああああああん」

 そんな、そんなのありなの?

 あんた宇宙怪獣なんでしょ? 強いんでしょ?

 ねぇ、ねぇちょっと!

 私の思惑なんか知ったことなく、宇宙怪獣は空に向かって飛び立っていった。

 ポツーンと取り残される私。

 暫くするとどこからともなく逃げ出していた街の人が集まってくる。

 そして私を指差して口々にこう言った。

「彼女がこの街を救ったんだ!」

「けなげにも宇宙怪獣に一人で立ち向かったんだ!」

「なんて素敵なの」

「しかもかわいい!」

「美少女戦士!」

 以下略。



 そんなこんなで私は英雄に祭り上げられちゃった。

 これで、いいの? かしら?


 

 でも現実は甘くはなかった。

 数日後、ブランド店からお店の人がやってきた。

 そりゃそうだ、あの騒ぎで私は有名人。

 その有名人が堂々と盗みをしている姿がビデオに映っていたのだから。

 でも街を救ったってことで、服を返えせば警察沙汰にはならないですんだの。

 あっ、一番お気に入りの黄色のワンピースだけはもらっちゃった。

 あとはまぁ取材やなんやで少しばかりのお金も手に入れることも出来たし。

 もう宇宙怪獣さまさまって感じ。

 

 なのに、なのになんでなのよ!

 またしても私の通帳の残高がとんでもなく切ない数字になっているのは!

 そりゃ確かにお金が入ったからってオークションで服を落札しまくったりしましたよ。

 んで、気がついたらこのありさまなのよ!

 

「ああ、また宇宙怪獣でも降ってこないかしら」



 19歳 美少女ニート沙耶香の苦悩の日々は続くのだ!

  


 おしまい☆


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ニートで美少女ってどんなのだろう?……と読ませて頂きましたが、ハイテンションな作品ですね^^ 話しの展開が良い風に滅茶苦茶で、読んだ後すっきりできました^^! 個人的に残念だったのは、「ニー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ