強制力の後始末
あの卒業パーティーから休日を挟んでの、終業式典の日。
先日、王子たちが起こした騒動について、ひそひそとささやきを交わしつつホールに入ってきた生徒たちは、とある光景を見て、目がテンになってます。
いつもなら、あの女生徒の側に行って空いていたはずの生徒会の席に、堂々と王子達が着いていて。
そして、罪人のように連れ去られて行ったはずの公爵令嬢が、彼らと一緒ににこやかに座っていて。
そして、いつも王子達とべたべたしていたあの女生徒が、礼節を保ちつつ、その傍に。
『は?』 現在彼らの心は一つです。
そうこうしているうち、厳かに始まった式典は順調に進み、王子がスピーチをする場面になりました。
えー、みんな期待を込めて見つめてます。
「やあ、みんな。学園生活はどうだっただろうか。とうとう最終生は、これで去ることになるのだが…
ふふ。 みんな、我らとマリー、ジャンナについて、疑問に思っていることだろう。
まずは問おう。 皆、先日までの我らの様子を見ていて、どう思っただろうか。
眉を顰めていた者が大半だっただろう。
そうだな。確かに同じ年頃の者ばかりの気楽な生活で、誰かを好ましく思うことはあろう。親しく思うこともあろう。
だが。 我らは、感情だけを優先させることは、ならない。それによって公私を混同することも、あってはならない。
婚約とは契約だ。しかも当事者であっても、その者だけでなく、周囲にも影響を及ぼす約束だ。
我らは家の名を負うとともに、自らの行いによって家への評価が与えられることを忘れてはならない…
……
おー、よく言うわ~
でもカリスマすげ~。
カリスマオーラ全開で、あの『中の人』時期に培った、空気発生スキルもフル稼働させて、こう、なんだろ。
一見雰囲気は柔らかいのに逆らえないっていうか、迷いのないように見える態度も相まって、私の言ってることが唯一絶対の真理です、って他人の考えを塗り潰していってるっていうか…
まあ内容もそれなりにもっともらしいことは言ってるけど…
王子がそう言ってる、せいで、なんかみんな納得してる。
(え? あれ? そうなの? そうだったの?)
(そっかあ。そうなのか~)
うむ。 私は今、人間の思考が染め変えられていく瞬間を見た…
だってね。 なんらかのフォロー入れないと、今までの言動、単なる醜態…
私たちはバックレてともかくも、王子は王太子だし、公爵家跡継ぎやその他も。
本当にアレなんならともかく、今回は、むしろ今までがイレギュラー。
とはいえ、あの中で出来ることには限りがあったんで、公爵様王様の助けを借りて、いくつか仕込みを入れつつ、こういった落としどころに。
サボリ? いや、裏でちゃんとやってはいるんだよ。ちょっと理由があって…
ホラ、あの書類もあの書類にも、ちゃんと我らのサインはあるんだよ。 内容も把握してるよ。
授業でのレポート提出もしっかりと。
うん。みんな隠し部屋で頑張りました。 動ける従者が飛び回りました。
時々出た、ハーレムメンバーに訳の分からない言い掛かりを付けられた人間(被害者)。
うん。 後で妙に仰々しいお詫びが届いてたり。
え? 我々からですよ。 やたら立派だったから実家からだと思った?
いえ、どちらからとも特定されるようなものは付けておりませんよ~
そして。 ひそやか~に、王子が大きなイベントを企画してるっていう噂が流れてたり~?
まあ、あのお花畑状態見てた人たちは、イベントって書いてトラブルと読むものじゃ、って怯えてたけど…
あ、でも断罪イベントはトラブルか。
王様や公爵様や他の親もね。息子達の一生かかってますからね。
権力? 使うためにありますが何か? 状態。
出席日数とか、一部公務で抜けたってことになってたり、行事や出席者を一部変更してみたり。
卒業パーティー、本来なら王族も出席する盛大な式典なんだけど、前夜祭的な扱いにして、式典は後日に、とか。
卒業パーティ―に出席する人間は、自分たちの直属の部下で固めといたり、とか。
うん。 もしシナリオ通り卒業パーティーでトラブッたとして… 上司の子息の不始末、即言いふらしたりしないよなぁ? ん?
上司が口を噤む様に言ったら噤んどくよね。 ね?
つーか、速攻言いふらすような部下は… ねえ?
いや、まあいいんですけどね? 周囲の学生と一緒に騙された素直な方、ってことになるだけなんで。
うん、国家運営の中枢に携わる人間としちゃあ、褒め言葉にはならないけどね。
そもそも、あれだけのメンツが王子の言い分をしらっとして肯定するなら、疑問出せる人間なんてねぇ~?
ですので。
…{最近、義務を忘れて、感情のままに生きようとする貴族とか増えて、困っちゃってるんですよ~}
{そうだな~ それって問題だな~}
{「!」 だったら悪い見本をみんなの前で大袈裟にやってみたらどうだろう~}…
という前提条件があったことに、全力で押し通させていただきます!
うん。 今までのことは全~部、お芝居だったんだよ~
ああ、でも。 イジメとかって、どんなことをやるものかとか、よく知らなかったですし?
感情のままに振る舞うとか、恋に溺れるとかっていうのもねえ?
それらしくしようとして、凝りすぎてやり過ぎちゃった部分はありますかね~? うふふふふ~
やだなぁ。 私達ってば、うっかりさん~
ははは。そうだなあ。お前たち、ちょっぴり一生懸命すぎちゃったな~。気をつけような~
うふふふふ。 あはははは。
これが真実。
うむ。権力バンザイ。
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はい。 そうして、先ほどの王子の『説明』によって…
今までゴミを見るようだった皆さんの眼差しは、納得と感嘆のマナザシにチェンジしてしまいました~…
チョロっ!
うん、ほんの少~し 『いやでもちょっとやり過ぎだったんじゃね?』『もうちょっとやり方をさあ…』って呆れてるのは混ざってるけど、それも今までみたいな悪感情は消えてる。
うーん、君たち将来国を担うべき立場のはず… こんなにチョロくて大丈夫?
お姉さん、ちょっとこの国の将来が心配になってきちゃった…
ああ、でもこれって王子がすごいのかな? その王子が王太子だし大丈夫かな?
ん? あれ、私将来の王妃…
そうして皆さんが納得されたところで、王様がおもむろに私達の昔っから決まってた婚約を、この場で発表。
王太子の婚約者~? ジャンナ嬢だよ。10歳から公爵家の養女になってるよ~
マリー嬢? ナイアス君との話が決まってるよ~
王様(最高権力者)による、『え? こんな分かり切ったことの何が疑問だね?』攻撃!
生徒たちは、再び、『そうだったのか~』 と納得した!
あは。 やっぱり親子だ~☆
うん。まあそういうことになってるね。数年前の日付の契約書あるね。
サインしたのは昨日だけどね。
ご都合主義…
この物語はフィクションです!