二人で協力してみましょ(とある姉妹の軌跡)
いらっしゃーい♡ と連れてこられたのは、悪役令嬢様のお屋敷。
えーと、何事?
ぽんっ。「大丈夫よ~。貴女のお家にもなるから~。
ということで、ジャンナ。私の妹になりましょう」
へ? 「えーと、どういう?」
「このままだと私の婚約は決まっちゃうわ。で、本来のシナリオなら、それを破棄して貴女に行くんだけど… ねえ、最初っから貴女と婚約させときゃいいんじゃない?」
「はあ! それってアリ?」
「貴女はレアな光魔法の使い手。それも既に最高レベルで使いこなしてる。確か本来なら父親の男爵が引き取るはずなんだけど…(にっこり)ヤでしょう。だからウチの子になろ~♡」
「ふふふふふ~。公爵家の養女なら身分はOKよ。すぐにそっちに決まらなくても、攪乱、時間稼ぎにはなるわ。
それに『公爵家の娘』との婚約、って契約にしとけば、人が代わっても家にダメージは来ない!」
「うーん、そういえばそれがあった…。冗談じゃないからバックレるつもりだったんだけど。
こっちも個人として学園に通う羽目になってシナリオに巻き込まれたら、厳しいとこはあるけど。
そうだよね。そうなると公爵家にもダメージ行くから、うーん、あの男爵家と縁を切って母親を庇護してもらえるなら、私が公爵家の養女っての、OK!」
「よーし、その線でいこう。ちょうどいいゲーム内設定もあるしね。貴女は私と『運命の姉妹』ってことでいいかな?」
えーっと、このゲーム内では、魔法もそうだけどいくつか人知を超える力が働いているのが知られてて、そのうちの一つが『運命の~』。
ほら、前世でもあった、お互い顔を見合わせた途端電流が流れたように…って恋人たちみたいに。
なんか会った途端、ピーンと来るらしいんだよね。恋人や夫婦だと、二人で一つっていうかね。
他には、友人とか仲間とか。あと、生まれ変わってから詳しく知ったところだと、敵とかも…。
会った途端掴み合いになって、事あるごとに貶し合う、殺伐とした関係になるらしいよ…。
ゲームだと、それで熱烈な恋に落ちたり、その運命に抗って別の恋に走ってみたりと、恋模様に彩りを添えるのに、なかなかいい働きをしてました。
ちなみに会えるのって50人に1人くらい? まあ身分とかで交流が制限されてるせいもあるとは思うけど。
だからちょっぴり皆さんの憧れ。でも敵とかなら会いたくないよ…。
関係性は、本人たちならなんとなく分かるそうなんだよね。
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ということで公爵ご一家にお会いしましたが… 二人で頑張って、詭弁を弄して説得する気満々だったんだけど…
熱烈歓迎… ナゼに?
つーか、こんな得体のしれない、いや一応男爵の娘で冒険者実績アリだけど…、のをあっさり受け入れるなんて、公爵家、大丈夫~?
その理由は後程判明しました。
うん。あとでこっそり公爵、公爵夫人、お兄さんに呼ばれて、涙ながらの感謝を受けました…
「あの子が。あの子があんな明るい表情で笑っているなんて。私たちにお願いをしてくるなんて。ううっ…」
「ありがとう! 君のおかげだ。今まで子供らしくはしゃぐこともなく、笑っても、次の瞬間には悲しそうな顔になって、他人行儀に遠慮していたあの子が!」
「うーん、父さんたちがマリーばっかり気にしてたからちょっと面白くなかったんだけど、ずうーっと、鬼気迫る勢いでいろんな勉強や魔法の練習ばっかりしてたから、さすがに僕も気にはなってたんだよね。
うん、運命がいたのに会えてなかったからだったのかな。まあ良かったかな?」
あー… 理解した。
そりゃあね。
ゲームのストーリーが脳裏にチラついてたら、家族がいい人でも、いや、いい人だからこそ、現状の幸せから我に返って悲しくなるよね…。距離取ろうとするよね…。
まあ助かるのは確かだから、この思い込みに全力で便乗させてもらうね~
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うむ。我がアントワン公爵家には先日新しい娘が増えた。
マリーの為ならあまり使えぬ人材でも良いとは思っていたが… 予想以上に素晴らしい。さすがマリーの『運命の姉妹』だ。
貴重な光魔法をあっさり使いこなし、他の魔法も、ほぼ全属性上級まで使ってみせた。マリーも元より才能はあったが、それに触発されたか、今まで以上に能力を見せている。
平民として暮らしていたそうだから、さすがに知識や礼儀作法に関しては身についていないが、それでもここに来たときに比べると、ずいぶんそれらしくなった。
それについてはマリーが率先して教えていて微笑ましいな。
これならもう少しすれば、王子達に引き合わせても、問題はあるまい。
ジャンナの言う通り、マリーがさらに王妃教育を背負い込めば、現状でも頑張りすぎるあの子のことだ。せっかく明るくなったのに、また元以上に思い詰めかねない。
血統は大事だが、このところ王家に近い家との婚姻が多かったせいで、才能ある少し遠い血を混ぜることを勧めても問題はあるまい。
デビュタントに合わせて決定するということで、『我が公爵家の娘』との婚約とだけ約しておくのもなかなかいい手だ。『運命』であれば、王妃となるのがジャンナであっても、マリーの実家である我が家をないがしろにはすまい。
そもそもダルク男爵など、今さら権利を主張できる立場でもあるまいに。ジャンナにとっては母親だけが重要であり、もちろん我が家も新しい娘の母親を厚く遇しよう。
おや。今日は新しいドレスをか。ほお、今まであまり欲しがらなかったマリーも、ジャンナと一緒になって。
二人だと楽しそうに選んでいるな。おお、アンも出てきて。こらこら。感極まって泣いてしまうと子供たちが困るだろう。
ふむ。冒険者ギルドに行きたい? うーむ、公爵家の娘としてはあまり… ああ、こら、二人してそんなにしょんぼりしないでくれ。分かった。最近頑張っているし、護衛を付けてならかまわないか。
あんまり危ないことはしないでくれよ?
ちなみに、本来のゲームの中での名前は、
ヒロイン:ジャンナ=ダルク。
悪役令嬢:マリー=アントワン。
きっと本来の悪役令嬢は、贅沢でワガママでしょう…。