#095:紫雲な(あるいは、真なる)
「ふう……」
思わずため息が漏れ出てしまうほどに、僕のメンタルはやばいところまで追い込まれていたわけで。
最安居酒屋から逃げ出した後、僕は近場のコンビニの外に設置されたベンチに座って、うねりにうねった気持ちをどうにか落ち着かせようとしていた。
「……」
調子こいたバチが的確に当たったとしか言いようがない。またしても強力なDEPを引き入れてしまったが、僕ってダメを引き寄せる体質なのかも。皆が恐れるのはそこなのかも知れないけど、いらない。いらないよそんな体質。
「……ぐううう」
酔いのフラフラ感も相まって、頭を抱え込んでしまう。僕は惚れやすい。それは自他共に認める。あまり普通の恋愛を知らないから、少しでも女性に好意を向けられると、すぐ行ってしまうんだ。
「……」
いかんいかん、一人でこんなことを考えていても駄目だ。明日があるんだ。僕に残された最後の砦。僕の中でこの溜王戦……ダメ人間コンテストというものが最早外せない巨大な存在となっている。アオナギと初めて会ったあの日からまだ一ヶ月も経ってはいないけど。
ようし帰ろう。ひとまず帰る。よっ、と声を出して勢い良く立ち上がってみた。
「……こんなとこでまだウジウジやってたんだ」
おおうっ!! 目の前にいた! さっきまで一緒に飲んでいたヒトがっ!!
「ちょっと押し込まれたらすぐ逃げ出して、負け犬」
永佐久ちゃんだった。さっきの居酒屋ではそのカッコとか良く見えてなかったけど、目の前に立ったその華奢な全身は、薄い紫色のワンピースに覆われて、何というか自信に満ち溢れているかのように改めて僕の瞳に映った。ベージュの結構ゴツいシルエットのピーコートを上手に着こなしている。お洒落感は僕とは別次元だ。
「そんな顔で帰っても、明日戦えないでしょ? ちょっと付き合いなさいよっ」
そう言って踵を返す永佐久ちゃんだが、あれ、僕のことを気遣ってくれてる? ……いやいや、そうやってまた僕の悪い癖。
「……コーヒーくらい買って来なさいよねっ。この私が付き合ってやろうって言ってんだから」
僕に背中を向けたまま、永佐久ちゃんはそう言った。は、はいぃ、と間抜けな返事をしながら、僕は慌てて明るい店内に入り、カウンターへと向かう。えーと、飲み物買っていくってことは、店に入るってわけじゃないよね。公園とか? 少し肌寒いけど、酔い覚ましにはちょうどいいか。
僕は温かいコーヒーで満たされた蓋付きカップを両手に携え、テーラーバッグは小脇に挟んで、もう既に歩き出している細い後ろ姿を追いかける。