#094:枯渇な(あるいは、淫獣戦線異状なし)
「そ、そんな……狙うとかないですよ」
努めてクールを装ってみるものの、桜田さんには先ほどの猫田さんとのあれこれを見られているわけで、苦しい……いや苦しいからこそここは踏ん張り所だっ!! 毅然とした態度。それが重要。僕は落ち着く時間を得るため、ジョッキを煽るが、
「さっき猫田とさくりとサシに持ち込んでたんでしょ」
「告ったことLINEで回されたりしたり」
「初摩アヤと裸で云々とかも言ってたろーが。あれか? 見境なしなのか?」
駄目だ、もう全方位で僕は駄目だ! 心の痛点を刺し貫かれ、食道に送り込もうとしていたビールが逆流してくるものの、鋼の意思でそれを頬を膨らませながらせき止め、ジョッキでその膨れた顔を隠しながら、ちびちびと再び喉奥に流し込んでいく。生ビールを反芻するとは思ってもみなかった。
「初摩アヤって……あれに引っ掛かるヒトっていんの?」
「何か……ちょっと引く……」
セイナちゃん(黄)とリアちゃん(黄緑)には幻滅されたな……まあいいさ、平常運転に戻ってきただけさ!
「そう言えば双子両方に告白した話とかも……」
「ああ、それDEPとしての破壊力はすごかったけど、冷静に考えてみたらひどいわ」
完全に雲行きが怪しくなってきた。というか最早これまで。あ〜さてと、明日もあることだし、この辺でおいとましましょうかね!
「あ、自分……そろそろ帰らないと」
僕は涙腺内をこみ上がってくる何かを堪えながら、そう言ってわなわなと席を立つ。夢であった方がまだよかったわ!
「お、おう、何か無理に付き合わせちまって悪かったな……明日も頑張ってくれよ!」
ぶっ込んで来ておきながら、今度は桜田さんの方から取りなすように言ってくれるが、場はもうよどみ、枯れ、何も咲きそうには無い。そして、
「……節操なしの、淫獣」
横を向いたまま永佐久ちゃん(紫)がそう止めをぼそりとつぶやいて来る。はいはい。もう帰りますからね、淫魔の里にね!
「さ、さよならっ!!」
捨て置くようにそう別れを告げるのが精一杯だった。そう、これはハーレムという甘い夢想からの決別だ。僕はやっぱりどうかしていた。僕がモテるなんて、女性に受け入れられるなんて、あっちゃあならなかったんだぁぁぁぁ、フォォォォォっ!!
それだけは忘れていくわけにはいかなかった「紅」のメイド服が畳み込まれたテーラーバッグだけを引っ掴むと、僕はガタガタの脚を引きずりながら、出口へ向けて力の限り走った。
もう僕には溜王で勝つしかない。勝つことしか残されていないんだ。掴む、カネを。それで人生の舵を切るしかない! 今夜のこのこともDEPに昇華させてぶちかましてやるぅぅぅぅ。