#093:頑迷な(あるいは、モテ王国崩壊5秒前)
「かかかカワミナミさんが心配してましたよっ!! ハルナカさんが溜王に出られると聞いて!!」
思わず僕はそう畳み込むように言ってしまうが、当のハルナカさんは涼しい顔だ。
「別に選手として出るとは言ってないわよ。でもそのくらいで動揺するなんて、まだまだお子様ね」
何というか大人の女性感満載で。失礼なので絶対言わないけど、元・男性ですよね?
「あ、あ、明日伝えておきます……」
そのぐらいしか言えなかった。そう告げた時のカワミナミさんの安堵と徒労感の混じった表情が今この瞬間でもありありと想像できるけど。まあ良かったと思うことにしよう。それより、今思いついたけど、この場で明日の決勝トーナメント出場者の情報とかを得ることは出来ないか?
「決勝に勝ち上がったチームって、どんな感じなんでしょう……」
しまった! どストレートに聞いてしまった。これじゃあ、情報取りに来ただけかと思われてしまう。も、モテ王の地位もつらいものがあるな。
「ちょっと待って……1組からは初摩アヤのチームが順当に。あとは新四段の為井戸とか、ミリ×タリシスターズとか。まあ見慣れた面子ってとこかしら。ムロトさんのところがいちばん意外かも」
駄目かと思われたが、案外律儀に池田リアさん(黄緑)がスマホで何やら調べながらそう教えてくれた。初摩さん……会場では見かけなかったけど、いたんですね。そして順当に勝ち上がっていたと……まだ吹っ切れていない僕がいるが、いやもう忘れよう。僕にはこのハーレム場があるじゃあないか。
「ま、とりあえず乾杯でもしときましょうか。少年の決勝トーナメント進出を祝って……」
ハルナカさんがそう言いつつ、ジョッキを掲げる。僕もいつの間にか運ばれて来ていた生を手に取った。
「かんぱーいっ!!」
何だろう、猫田さんと交わした乾杯とは違った爽やかな感じ。本人は隅の席でしゅんとしているけど。よっぽど桜田先輩が恐ろしいんですね。
「ムロトはよう! DEPを聞いてると結構ホレっぽい体質だけどよお。今この中でも狙ってるんじゃねえのか? おい」
そして一気に中ジョッキを飲み干した桜田さんからこれまたどストレートな質問がぶっ込まれる。ええー、進行早すぎー。終盤まったりしてからのそんな話かと思ったけど。
でも、周りの女性陣みんな興味津々いった体で、僕の返答を待っているわけで。モテ王はやはりつらいな! でも迂闊な発言は身を滅ぼしかねない。ここは慎重に言葉を選ぶぞ! それにしても何で溜王戦より緊張を強いられているんだ!!